流れ星と共に去りぬ
雪がしんしんとふりつもる世界『白の世界』のある町の夜、少女の家族が老いに老いきったおばあさんを看取っていました。
「……みんな……、本当にありがとう……。」
「おばあちゃん!」
少女はおばあさんの力ない言葉から、少しでも生きて欲しいという祈りを込めて、おばあちゃんと呼びました。
「……あんたは……、わしのじまんの孫じゃ……。あんたに出会えて……、わしは本当に幸せじゃったよ……。」
「……おばあちゃん……。」
「……あんたに伝えたいことがあるんじゃ……。最後まで心ある者でいるんじゃよ……。」
おばあさんは孫娘に心ある者でいるよう伝えました。
「……はい……、おばあちゃん……。」
少女はなみだを流してうなずきました。
「……それじゃ……、家族全員に……、氷の加護が……、ありますよう……に……。」
おばあさんは家族全員に氷の加護を願いながら静かに息を引き取りました。
「おばあちゃん!……おばあちゃん……、おばあちゃん……、おばあちゃーーーーーーーーーん!!」
少女はおばあさんを亡くした悲しみのあまりおばあさんと泣き叫びました。
少女の両親もなみだを流しました。
しばらくして、窓の外では一筋の流れ星が飛びました。
「あなた……、今外で流れ星が飛んだわよ。」
流れ星を見た母親は夫に伝えました。
「そうか……、母を迎えに来たんだな……。」
父親は自分の母親であるおばあさんを誰かが迎えに来たと語りました。
「流れ星がおばあちゃんを迎えに来たって?」
少女は両親の言葉の意味が気になりました。
「『天寿を全うした心ある者の魂は流れ星としてやって来た虹の女神によって永遠の館にいざなわれる』という言い伝えがあるんだよ。」
父親は娘である少女に流れ星にまつわる言い伝えがあると述べました。
「虹の女神ってどんな神様なの?それから、『とわのやかた』ってどんなところ?」
少女は今度は虹の女神について気になりました。
「『戦女王マチルダ』のことよ。勇ましさと美しさをかねそなえた女騎士の姿をしていて、戦いと魂を司る神様なの。」
母親は娘に虹の女神のことを話しました。
「『戦い』ってことは……、何かのうばい合いってことなの?」
少女は戦いというとうばい合いが浮かびました。
「戦いと言っても……、うばい合いとは違うんだ。魂とも関わるマチルダ様の司る戦いは……、そう、『魂を育む戦い』なんだ。」
今度は父親が娘の問いに答えました。
「魂をはぐくむ戦い……?」
「『魂を育む戦い』はうばい合いなどの『害し合う戦い』じゃなく、『認め合う戦い』なんだ。そういう戦いを好むマチルダ様は弱き者と何より心ある者の守護神でもあるんだ。それから、『永遠の館』は天寿を全うした心ある者の魂が住まう館で、人が行けない『虹の世界』にあるんだよ。」
父親は魂を育む戦いとは何か、そして虹の女神マチルダと永遠の館について語りました。
「それからおばあちゃんの言ってた心ある者ってどんな人?」
少女は亡くなったおばあさんの『心ある者』も気になりました。
「『心ある者』とは、自分をいましめ、他人を支え、弱い者を思いやる人のことよ。」
今度は母親が答えました。
「パパ、ママ、ありがとう。わたし、おばあちゃんの言う心ある人になりたい。」
少女は両親から虹の女神や心ある者のことを聞いて改めて心ある者になりたいと望みました。
「ああ、お前ならなれる。私はそう信じてる。」
「ええ、あなたならなれるとわたしも思うわ。」
「うん。」
両親の言葉に少女は喜びました。
その頃、おばあさんの魂の元に羽根の飾りをした白銀の甲冑に身を包み、白銀の槍をたずさえた女性騎士が現れました。
「おや、あんたは確か……。そう……、とうとうわしにもお迎えが来たんだね……。」
「天寿を全うせし心ある者の魂よ、わたくし、戦女王マチルダと共に永遠の館に参りましょう。『虹の槍』よ、この者の魂を収めよ!」
おばあさんの魂はマチルダの手にしている虹の槍に吸い込まれました。
そして、マチルダは夜空の向こうに飛んで行きました。
こうして、おばあさんは虹の世界に建つ永遠の館でいつまでも穏やかに暮らしました。