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フレムドゥング・ギア -少女兵器-  作者: 梯子のぼり
第2章 未成年娼婦拉致事件編
62/75

丹沢山荘事件

 国防庁はいつもより落ち着きがなかった。

 職員たちの歩き方、服装の着こなし、口数、普段とは僅かに違いがある。通いなれた者だけが分かる雰囲気によるものだ。

 国防省内でも、警察が丹沢の山荘でネオダイト主義革命派を包囲して追いつめたこと、少女兵器らしき存在が機動隊を撃退したこと、その追及に警察庁と神奈川県警のお偉いさんがやってくる、といった噂は回っているようだった。

 十三時まであまり時間はない。早足でF棟へ入り、エレベーターで最上階を目指す。ネームプレートの掲げられていない通路を進み、第拾禄会議室前で止まる。もちろん、ここにもネームプレートはない。

 ノックをして名乗る。中から認証して入って来い、という室長の声が聞こえた。

 認証して入室をする。

 メンツの中の一人の姿を見て、足を止めてしまった。後ろをついてきていたヘレンの小さな顔がぼくの背中に当たる。あぅ、と可愛らしい声が背後から聞こえた。


「ああ、すまない」


 ヘレンに謝って、ぼくは自分の名前が書かれたプレートの席に座った。

 警察側は警察庁の本広警視正と神奈川県警の君塚本部長の二人。

 国防軍は小坪室長、カズ、ぼく、兵器開発機構の外藤博士、それから――陸軍幕僚長の平岡壽統(ひろのり)だ。大柄で引き締まった雄偉な体躯、数々の勲章がつけられた軍服。室内の誰よりも威厳と重圧感に包まれていた。

 なぜ陸軍トップの人間がこの会議に顔を出しているのか。

 下っ端のぼくが会議中に疑問を口に出せるわけもない。

 室長が警察側と国防軍側の人間を見渡して、


「参加者は揃いました。それでは会議を始めましょう」


 会議室は長机を真ん中に、国防軍と警察が対面する形で座った。少女兵器のヘレンとソニアはぼくらの後ろで立っている。

 本広警視正が、丹沢の出来事について軽く説明を行ったあと、軍としての説明責任を果たして頂きたい、と前振りをして話し始めた。


「我々は過激な活動を繰り返すネオダイト主義革命派の取り締まりを一年前から強化してきました。市民の安全を守るためにです。公安三部の協力、現場で働く警察官、機動隊の協力もあり、枢要メンバーや協力者の検挙と逮捕を行ってきました。活動も弱まり、最高指導者である蘇我フヒトと他の幹部メンバー数名が潜伏する丹沢の山荘へ神奈川県警機動隊と共に強襲を仕掛けました」


 ネオダイト主義革命派――通称、革命派と呼ばれる組織の最高指導者である蘇我フヒトの顔と名前はぼくでも知っている。悪い方で有名人物だ。数々の犯罪行為を命令したとされており、本人自身も加担している。


「ネオダイト主義革命派が武装していること、無人兵器を所有していることへの対策もしておりました。蘇我フヒトを含む幹部たちの確保は時間の問題かと思われていました。しかし、そこにとある人物が介入したのです」


 本広警視正は仮想ウィンドウを共有モードにして写真を十枚ほど長机中央に展開する。

 山荘の窓から蘇我フヒトが突撃銃アサルトライフル――AN‐94を構えている。バンダナキャップを頭に巻いており肌は浅黒い。一月末に日焼けというわけではないだろうから、元からこんな色の地肌なのだろう。

 他の写真にはギルドンが韓国製の自動拳銃ハンドガン――K5を機動隊に向け、愉快そうに笑みを浮かべている。

 その隣には府馬ヒミコ。

 外見そのものはラブホテルで連れ去られたときとほとんど同じだった。違う点としてはバイザーで目元を隠していること、セーラー服の上にミリタリージャケットを羽織っていることだ。

 あとは首元に赤く光るチョーカーをつけているのが以前と違う外見として目立つ。

 まるで首輪だ。

 深作欣二の映画で中学生が爆発する首輪をつけて殺し合いをしていたが、なんだかそれを思い浮かべてしまった。なぜなら、ヒミコも中学生には不釣り合いなM249軽機関銃を片手で構えていたからだ。全弾装填して十キログラム。本体だけでも七キログラムは超える。

 二リットルの水が入ったペットボトルを想像してほしい。それが五本分だ。その重量を手で握り、真っすぐと腕を伸ばした状態を何秒維持できるだろうか。それだけではない。5.56x45mm NATO弾に詰まった火薬ガンパウダーが手元で爆発するのだ。十秒で二十発を連射する衝撃を耐えて、標準を少しも動かさずに敵に向き続けなければならない。


「白い肌の男はホン・ギルドンと呼ばれています。最近になって革命派と行動を共にしています。捕らえた末端の構成員によると協力者(アドバイザー)としての立ち位置のようです。国防軍も彼を追っていたようですが、ひとまず問題の人物に焦点を当てましょう」


 本広警視正は写真を消して、動画ファイルを流し始めた。映像の中で府馬ヒミコはM249軽機関銃を片手で持って、引き金を絞っていた。排莢口からは薬莢が踊るように飛び出しているにも関わらず、銃口はぴたりと動いていない。ヘレンよりも細い腕が鋼鉄の化物の咆哮を抑えきっている。


「別の映像を」


 動画は切り替わり、一人称視点《First Person shooter》に変わった。薄っすらと雪が被った草むらが映っている。視点の主は腰を低くしているようだ。


「神奈川県警機動隊の所有する鎮圧用無人機です。非殺傷武器の装備しかありませんが、性能でいうと生身の人間には負けません。生身の人間には、ね」


 我々に開示可能であればスペックを教えて頂きたい、と室長は広警視正に言った。


「お見せ出来ない部分もありますが準備しております」


 映像の端に無人機の画像が現れた。

 人型で飾り気のない武骨な鉄の塊、という印象を受ける。テロリストを鎮圧するのに華々しい装飾デコレーションは必要ないのだが、これでは軍用機だ。

 全長は二メートル。右肩には大型のワイヤレス式電撃銃を担いでいた。肩にマスケット銃、あるいはレールガンでも担いでいるかのような、棒状の武器だ。

 電圧は調整できるようで対人間でも対無人機でも効力を発揮できる、とスペックには表示されている。

 公安三部に出向していたぼくも知らない無人機だ。ぼくが国防軍に戻ったあとに配備されたのだろうか。


「この……『PH‐1型』つうのは自律状態スタンドアローンなのか。それとも遠隔操作テレイグジスタンスなのか」


 カズの言葉遣いを選ばない話し方にも本広警視正は態度を変えることなく、遠隔操作テレイグジスタンスだと落ち着いた口調で答えた。

自律状態スタンドアローンだと犯人を拘束しようして殺してしまう可能性があります。人間による遠隔操作テレイグジスタンスの方が確実です。戦時中もAIによる無差別殺傷が頻発していますよね。そういった意味で言うと、国防軍の少女兵器が備える高度なAIがどのように造られているのか不思議でなりませんね」


 本広警視正はぼくらの背後に立つ少女兵器二体に視線を向けた。

 ヘレンは僅かに視線を返し、ソニアは身じろぎ一つもしない。


「この後、PH‐1型は革命派の制圧にかかります」


 映像の視点が動き始めた。

 前方で機動隊数名が山荘に向けて制圧射撃を開始する。MP5が一斉に火を噴く。装弾された9x19mmパラベラム弾が山荘の壁に、窓に、板金に容赦なく暴力を振るう。革命派の連中は窓の奥に引っ込んで隠れた。

 その隙をついてPH‐1型が動き出す。

 ほお、と一連の動きに感心した。お手本のような制圧射撃だ。

 鉛玉が遠慮なく降り注ぐ中、二階の窓から顔を出してきた人物がいた。革命派の構成員の一人だろうか。なにかを機動隊に目掛けて放り投げる。直後に制圧射撃の銃弾を受けたようで窓の奥へと倒れた。

 投げられたなにかは放物線を描いてPH‐1型の視線の頭上を越えていった。位置的に機動隊がいた辺りだろうか。

 数秒後に爆発音が響く。

 パイプ爆弾(キューリ)です、と本広警視正が説明する。


「幸いにも今の爆発による負傷者はいませんでした。しかし、機動隊の制圧射撃を少しの時間止めさせるのには十分でした」


 倒れた構成員と入れ替わるようにして、二階の窓からセーラー服の少女が飛び出す。M249軽機関銃を片手に引っ提げて宙を舞う。三、四メートル下へと落下する。

 ヒミコは映像の正面に軽々と着地した。

 PH‐1型はすぐさまワイヤレス式電撃銃から小さなプロペラがくっついた発射体を撃ち出した。操縦者にはセンサ類の補助もあっただろうが、判断や決断は人間がするしかない。間違いなく、最速で最善の判断を下していた。

 府馬ヒミコの動きはそれらを超えるものだった。

 予測していたか如く、膝を曲げ上半身を後方へ九十度反らす。発射体を避ける。後方の地面についた左手を支点として、自分の身体を押し出すように跳ねた。

 中空でヒミコはM249軽機関銃を構え、その引き金を絞った。視界いっぱいに弾丸の嵐が降り注ぐ。機体のあちこちに損傷を受けているのは断続的な金属音で判断できる。装甲の厚そうなPH‐1型も軽機関銃の銃撃を受け続ければ耐えきれないだろう。

 操縦者も同じ判断をしたようだ。

 その場からすぐに駆け出した。

 撤退しながら機動隊に援護してもらう手もあったはずだが、操縦者は脅威である府馬ヒミコの排除を選んだ。機体の損傷具合が動画からは分からないので、その判断が正しいかどうかは分からない。射線から逃れるように円状に駆ける。

 ヒミコの銃の狙いははっきり言ってでたらめだ。構え方も戦争映画マニア(ミリオタ)の方がましだ。それで銃弾の殺傷能力が下がるわけではないのが、銃という武器の恐ろしいところではあるのだが。

 PH‐1型が再度、肩に担いだワイヤレス式電撃銃から発射体を撃ち出した。

 ヒミコは撃つことで意識がいっぱいだったのか、今度は避けきれなかった。飛んできた発射体から身を守ろうとM249軽機関銃を持ち上げた。発射体のアンテナが銃身に張り付く。

 高圧電流が送られる前にヒミコは銃を手放した。

 ヒミコにとって絶望的な状況だ。武器はなく、素手のみ。相手は戦車のような装甲を全身に覆った全長二メートルの無人兵器。

 ヒミコがどう思っているのか、表情がバイザーで隠れて分からなかった。

 だけど、なんとなく想像がついた。

 きっと何も変わっていない。

 ぼくの目の前でセーラー服を脱いで全裸になっていたとき、茶菓子を食べていたとき、ギルドンに平手打ちをされたとき、あの時と同じ虚無のような、魂のないような、無表情でいるのだろう。

 ――突然、銃声と共に動画の映像に乱れが走り出した。

 PH‐1型が銃撃を受けた方向に視線を向けると、山荘の窓からギルドンがK5を向けているのが見えた。銃口からは硝煙が燻っている。

 カメラ機能が全損しているわけではなかったが、その隙をついてヒミコは接近していた。懐に潜り込む。PH‐1型の肩に搭載されたワイヤレス式電撃銃を両腕でぶら下がるよう掴み、両足はボディを蹴るように固定した。

 PH‐1型がヒミコを振りほどこうと、その華奢な身体を掴むよりも早く、ヒミコはワイヤレス式電撃銃をへし折り、もぎ取った。どこかの接合部分が砕けてしまったのか、ヒミコの手には半分ほどになった棒状の残骸が握られている。

 その棒を槍のようにカメラへと突き刺したところで映像が止まった。


「この後、複数体のドローンが飛来してきて機動隊に攻撃を加えました」


 映っていたドローンはぼくがラブホテルで見たのと同一の機体だった。短機関銃が上空から機動隊を掃射する様子が映像で流された。


「機動隊の動きが取れなくなり、司令部(HQ)としていた車輌付近で爆発物が爆破され、指揮系統も機能しなくなりました。その隙をつかれ革命派たちは逃げられました」

「爆発物というのは……」

TATP(サタンの母)。過酸化アセトンかと思われます。検証中ですが、革命派によるこれまでの爆破テロにも使われていますので間違いないかと」


 台所で作れるほどお手軽な、だけど爆発力に長けた爆薬の名前だ。材料の調達も市販されている過酸化水素やアセトンなどを使って作られる。かつては中東のテロリストが好んで使っていた。

 本広警視正がそういったことを説明し、


「しかし、少女の姿を模した無人兵器というものはテロリストが造れる技術のものではないでしょう。それに世界のどの国においてもそのようなものなど造ってはいません。あなた方、国防軍を除いてはね」


 弁解をお聞きしましょう、と本広警視正は話のバトンをぼくたちに渡す。

 見かけはただの少女にご自慢の鎮圧用無人機が破壊されたのだ。少女兵器だと勘違いするのも無理はないだろう。

 誤解していらっしゃることがあります、と室長が口を開く。


「かの人物は少女兵器ではありません。今回、開発主任である外藤博士にも来てもらいましたので彼の口から説明してもらいましょうか」

「あれは少女兵器ではない。わたしが保障しよう。それに少女兵器に銃を持たせるだけなら、他国の量産型無人兵器でことは済むのだ」

「……とのことです。もう一つ勘違いをされていることがあります。問題の少女というのはAIや遠隔操作による無人機ではありません」


 ふざけるな、と神奈川県警の君塚本部長が机を叩いて声をあらげる。

 眉間に皺を寄せ、こめかみには青筋が立っている。元々、強面の表情をしていたが一層強調させられる。肩幅が広く図体もしっかりとしているので一般人だったら縮み上がってしまいそうだ。

 本広警視正が君塚くん、落ち着いてと声をかけた。

 警察庁のキャリア組と、現場のたたき上げであるノンキャリア組の正反対の性質を見せられているようだ。


「有人機だと。小人が頭の中に入っているとでもいうのか。お前たちのせいで多くの怪我人が出た。今なお生死を彷徨っている者もおるんだ――ッ」


 怒声に対して室長は圧倒されることなく、変わらない平静さを持って答える。


「そもそも機械ではありません。恐らく、人間でしょう。もっとも、脳以外の部分は機械でありますので、そういった存在を機械だと言うのでれば機械でしょうが」

「何か知っているような口ぶりをしているな。やはり軍が関与しているという証左だ」


 威圧するように再び机を叩く。

 まるで容疑者に自白を強要するような態度だ。とはいえ、しょせんは単なるポーズというだけ。実際にぶん殴りにでも来たら、それこそ傷害罪になる。だから、全く怖くない。

 そういった意味でいうと本広警視正のような人物の方が何を考えているかを読めなくて怖い。君塚くん、気持ちは分かるがここは軍を責める場ではないからね、と宥めて、ぼくら国防軍へと視線を戻す。


「とはいえ、小坪室長、それから平岡陸軍幕僚長、そして他の軍人のみなさま。我々の情報にない未知の兵器……いえ、人間の少女でしたか。それにより革命派の頭領を逃し、警察の人間も血を流してしまいました。知っていることがあれば情報の共有をすることが日本のためではないですかね」


 情報の共有、日本のため、か。

 良い言葉使いだ。

 君塚本部長なら持っている情報を警察のために寄越せ、と怒鳴っていただろう。

 国防軍としても、日本のためと言われると、無下に断りづらい。

 さて、そのあたりの対応は下っ端のぼくではなく、我らが上司である室長のお仕事だ。経過を見守るとしよう。

 ごもっともです、と室長は深く頷き、


「資料を用意しております。ご覧になってください」


 そう言って、机上に置いていたクリアフォルダから紙の資料をいくつか取り出した。警察側と国防軍側へと配る。

 ざっと目を通して、室長はそういう方法でいくのかと察する。


「ホン・ギルドンと名乗る男が日本国民を拉致しているという情報を国防軍も得ています。外国による敵対行為、もしくはテロ行為と認定して確保に動いておりました。わたしの部下が確保に向けて動いておりましたが、今回の丹沢事件と同じような少女に阻まれてしまいました」


 資料には室長が説明した通りのことと、大音マナと片霧エリの亡骸についての情報が載っていた。いや、この場合は亡骸でなく、身体を構成していた部品たち、と言った方が正確だろう。


「恐らく、映像の少女と同じ技術が使われていると思われます。実際に接触した隊員も呼んでおりますので、感想を伺ってみましょうか。ミィル、彼らに説明するんだ」


 急に話のバトンを渡されて少々驚いたが、話す内容自体は難しくない。

 室長は敢えて情報の一部を渡すことで納得させようとしているのだろう。嘘をついて誤魔化そうとするのではなく、真実の中に真実を隠す。

 それならぼくが話すこととしては資料を読めば分かるようなことを語ればいい。

 立ち上がって、本広警視正と君塚本部長に視線を送る。

 見た目が少女と変わらなかったこと、人間とは思えないパワーを持っていたこと、少女兵器のソニアが助けてくれなかったら死んでいたことをやや大袈裟な表現で話した。

 以上です、と言うと室長からは座るように促らされた。椅子に腰を下ろす。


「鹵獲した少女たちを解析すると脳以外は義体化させられていました。用いられた義体は市販されている医療用、競技用、のものではなく、軍事用に酷似していました。資料には詳細は載せておりますのでご確認ください」


 詳細といえば嘘は言っていないのだが、解析の結果判明した重要なことが記載されていない。

 警察側の二人は資料に目を通している。

 しばらくして本広警視正が質問をよろしいでしょうか、と手をあげた。


「脳が残されている、というのはどういうことですか。AIではだめなのですかね」


 室長は外藤博士に答えるように促す。

 外藤博士は立ち上がって白衣の着崩れを直してから話し始めた。


「結論から言うと人工知能(AI)より人間の脳の方が安いのだ。例えば少女兵器のように自律した人間に限りなく近い判断ができるまで莫大な予算と時間がかかる。市販されているような、ある特定の条件下においての思考と判断をする低コストの人工知能と違う。人間を想像するのだ。産まれてきた子供が未成熟な思考から、大人のまともな思考に育つまで何年かかる」

「十八年でしょう。ですので、十八歳から大人と呼ばれ、選挙権が与えられます」

「そうなのだ。十八年。それほど知能の育成には予算と時間がかかる。一概に同じだとは言えないが人工知能(AI)も似たようなものなのだ。だから、テロリスト共はAIを使わずに人間の脳という代替品を使った。高度な人工知能(AI)より脳みそは安い」

「……コストの問題、ということですか」

「技術力を持った人間を金で誘う、設備を整える、といったことを含めればコストの問題と言っていい。理解できなかったらテロリストたちにAIを作る技術と設備がなかったから仕方なく人間の脳を使ったと考えればよかろう。あまり意味は変わらない」


 そう言い切って外藤博士は誰に指示されるまでもなく席に座った。

 室長が外藤博士へお礼を言う。


「我々が警察に渡せる情報としては、これくらいです。あなた方に隠していたつもりはありませんし、丹沢での事件もあなた方からご連絡で初めて知りました。今後も情報がありましたら共有を図りましょう。日本のためにも、です」


 室長は最後の一言を強調した。他にご質問はありますか、という質問に、やや長い沈黙が室内を包んだ。やがて、本広警視正がご協力感謝いたします、とお礼を告げた。

 二人とも席を立ちあがり、握手を交わす。

 警察の二人が会議室をあとにした。扉を開いた本広警視正が何かを思い出したかのように振り返る。柔和な表情を崩すことなく、ぼくらに向き合う。


「一つ、質問をよろしいでしょうか」

「どうぞ」

「ネオダイト主義革命派の所有していた少女……資料には疑似少女兵器とありましたか。脳以外は機械――義体だと仰られたが、その義体はどうやって造られたのでしょうね。設計図はどこから手にしたのか。なぜ疑似少女兵器という名前なのか」

「それらは現在、調査中です。判明次第、ご連絡しましょう」


 よろしくお願いしますよ、と穏やかな顔つきで部屋を去っていった。

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