第96話 王国建国!
握手をするルークとジオルドの間を割って入るかのようにレオンは咳払いをし、話を続けた。
「ゴホンッ。お兄様!ジオルドにお伝えしたいことがあるんですよね!」
「ああ。そう。見せたかったのはこのレオンの魔法じゃないんだ。これはおまけでね。レオン、あっちを映している魔法道具を出してくれるかい?」
「はい。」
レオンがルークの指示に従い投影したのは1軒の家。家の周りには帝国を囲っている壁のように分厚い壁がぐるりと聳え立っていた。
「これは?」
「これは君とマリーの新居だよ。君に伝えた通り、マリーを連れ戻そうといつ誰が襲ってくるか分からない。君たち2人が安全に暮らせるよう、レオンと準備していたんだ。」
「なるほど・・・ここで私に研究をしろと言うのだな。研究は変わらずに魔法道具で良いのか?」
「うん。レオンに頼んで研究室の道具や資料は学校に内緒で一式持ってきたから事足りるはずだよ。君の研究に応じてできることが広がるから期待しているよ!
もちろん君だけじゃなくマリーにも聖女としての力を奮ってもらう。君も知っている通り聖女がいるだけでその土地には安寧がもたらされる。世界樹の根を破壊した分は、彼女がいることで補える。モンスターと戦うことができない民たちは君たちの家の近くに街を作り、そこで暮らしてもらうつもりだよ。
街の土台はレオンの魔法でもう完成しているから、後は君から民たちに家を建ててもらい移住してもらおう。」
「ルークの言い分は分かった。彼女も何もやることがないよりは良いだろう。
しかし、世界樹の根を破壊する必要はあったのか?これは帝国を敵に回すアピールにしかならない。両国の国境だからと言ってここまで完全に壊してしまっては、聖女の力で補える範囲では足りない。
このままではメティス公国内だけじゃない。アレース公国にもモンスターが溢れ返ることになるぞ!」
声を荒げるジオルドに、ルークはいつものように笑顔で応えた。
「それでいいんだよ。」
「え?」
「考えてもみてよ、ジオルド。君が研究している魔法道具だって、帝国内や壁を襲いに稀に現れるモンスターを討伐したものを使っているだろう?それにレオンによれば、モンスターは問題なく食べることができるそうだ。私たちが今1番改善しなければならない食糧難をこれで補うんだ。」
ジオルドが驚いた顔でレオンを見ると、レオンはふぅと一息つきながら説明を始めた。
「全てのモンスターが食べられるわけではないが、日頃食べている家畜と近しい生態のモンスターがいる。例えば、兎によく似たものはホーンラビット、豚だとオーガだな。」
「モンスターを喰らうなんて、初めて聞いたな。それに討伐したモンスターは原則全て帝国へ献上するよう決まっているだろうに・・・。」
(まぁ俺もフェルが食べてたから食べただけだけど)
「ジオルド、君の言いたいことも分かる。でもね、私も国内を回って、レオンの話を聞いて思ったんだ。今のままでいいはずがないと。
レオンほど優れている才能があるにも関わらず、生まれ持った容姿や種別、魔法属性によって差別が生まれるそんな世界は間違っている。私たちは努力したものが報われる、正当な対価を得られるそんな世界にしていきたい。アレース公国の武力、そしてメティス公国の知恵を併せればそれが叶う。
それにもう後戻りはできないよ、はい、これ。」
ルークが1枚の紙を渡すとジオルドの顔から見る見るうちに血の気が引いていくのが分かった。
「これは!!アレース公国とメティス公国が1つになり、アレティス王国になるだと!?帝国からの脱退の旨まで書かれているじゃないか!!!」
「うん。もう教皇へ手紙を送ったんだ。魔法道具で送ったからもう届いているはず。これで今年の税を納める必要はなくなったし、安心だね?」
「馬鹿を言うな!教皇も、他の2国も許すはずがない!戦争が起こるぞ!」
「ちょっ、ジオルド近いよ。」
興奮するジオルドをレオンがルークから引き剥がすと、
「奴らは俺らの土地に入って来れない。」
と告げた。
意味がわからず困惑しているジオルドにレオンは続けた。
「まず、4カ国を行き来するには帝国管轄の都市、オーディンに行かなければならない。そこから各国への出入り口に設置されている門をくぐる必要がある。この門に俺の魔法を仕掛けて置いた。彼らが潜って繋がるのは俺の闇空間だ。もちろん教皇にもその旨を伝えてある。行こうとしたら戻れなくなるとな。
ただこれは俺のMPも常に消費しているからな、あんたにはまずその門をくぐっても王国へ来られない、転移の魔法道具の開発を頼みたい。」
「・・・なるほど、君の魔法で、か。確かにその方法以外では世界樹の根を越えるか帝国の壁の外を回らなければならないのか。」
「そ。どちらもリスクがあるし、今すぐそこまでしてこないだろ。メティス公国がデュメエル公国に取り上げられてた土地ももう入って来れないから自由に使えるぜ。」
「分かった。ではメティス公国内にお触れを出し、その後」
「あ、それももう終わったから。ジオルドはこれからすぐにマリーと共に家で研究始めて。諸々の処理は俺とお兄様で終わらせるから。はい、これ俺と繋がる通信道具も渡しとくから食料とか必要なものが不足したら言って。モンスターもどれが使えるか俺じゃ判断できないから、とりあえず一体ずつ地下室に格納してあるから。」
「あ、ああ。分かった。」
「はい、じゃここに入って。お兄様、また後で来ますね!」
「ルーク・・・何から何まで有難う。」
「ジオルド、たまには家に遊びに行くからね。」
レオンに押されて慌ただしく別れを告げたジオルドだったが、気がつけばマリーと共に先ほどまで投影されていた屋敷の前で空間から出され、困惑しているマリーに説明もなく、レオンはその場を去って行った。




