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第94話 共に生きよう

 ジオルドは事前に校長へ伝えていた通り、このまま研究室も閉鎖し、国へ戻ることにしていた。

 校長室から戻り研究室の片付けをしていると、ノックもせずにマリーが飛び込んで来た。


「ジオルド様!・・・本当に学校から去ってしまうのですか?」

「マリー・・・!」


 昨日自分が手にかけぐったりとしていたマリーの元気な様子を見て、ジオルドは不意に目頭が熱くなった。

(いつもと変わらない、元気なマリーだ・・・本当に良かった。)


「・・・ジオルド様?どうかされましたか?」

「いや、なんでもないんだ。後で会いに行こうと思っていたんだが、具合が良くなったようで良かった。」


 くるりとマリーに背を向けるジオルドをマリーはそっと後ろから抱きしめた。

「ジオルド様。私のために学校を辞めなければならないとリアンから聞きました。確かに私はルーク様と婚約をしました。でも、聖女として婚約者がいるのに良くないって分かってても、ジオルド様への気持ちに正直でいたい!私、もうジオルド様と離れたくないっ!」

「マリー、一体なんの話を」

『ジオルド、聞こえるかい?聞こえたら右目を閉じてくれ。』

 不意に耳元からルークの声が聞こえ、ジオルドは指示に従い右目でウインクをした。


『マリーに気付かれないよう手短に説明する。君が教皇へ聖女である彼女との婚約を申し込みをする前に実は私の婚約が受理されてしまっていた様なんだ。聖女と騎士が各国を巡礼していた様子から、教皇がお認めになられていたようなんだ。しかしそこに君からの申し込みがあり、その・・・』


 音が途絶えジオルドが耳のピアスを触ると、またルークの声が聞こえてきた。

『言い辛いんだけど、学校内で他の王子達との親しくしている姿も教皇の耳に入ったようで、今世の聖女がふしだらだとお怒りだ。卒業後は私がいた棟の中で聖女として帝国の象徴としての役割を果たさせる、つまり塔の中で一生暮らすことが決まった。一国の王となっても、私も帝国の、教皇には逆らうことはできない。だが、君が彼女との暮らしを望むなら、彼女の卒業を待ってはいけない。今すぐにでも街を出るんだ。』

「・・・分かった。」

「え?」


 ジオルドは抱きしめるマリーを見つめ、そして優しくキスをした。


「本当は君がこの研究室に来るようになってから、いつもこんな風に触れたかった。だがルークとの婚約を知っていたから、君に触れることは叶わず、それでもこの想いは募る一方だった。君と一緒にいられるクリス達が羨ましかった。だが、マリー、私ももう自分の気持ちをこれ以上隠し通すことは出来ない。

 ・・・お願いだ、私と一緒に来てくれ。」

「ジオル、んっ」

 ジオルドは返事を聞くことなく、再度マリーの唇を奪い、静かな研究室には2人の淫らな音だけが響き渡った。



 初めて異性と結ばれた幸福感と疲労感で、そのまま眠ってしまったマリーを抱き抱え廊下を進むと、レオンとリアンが立っていた。

「・・・ジオルド様、までお送りします。」

「・・・頼む。」


 ジオルドとマリーを闇空間ダークベースに入れると、レオンはリアンを残し学校を去り、メティス公国の王であるジオルドの父の元へと送り届けた。


「すごいな・・・一瞬で我が家の前にいるとは。」

「中に入ることも可能ですが、門から入った方が良いでしょう。マリーだけ預かりますか?」

「いや、彼女は私が運ぶ。」

「・・・そうですか。では俺も国に戻ります。早急な対応をお願いしますね。」


 レオンが消えるとジオルドは久しぶりにローゼンベルク邸へと足を踏み入れた。



 女性を抱き抱えているジオルドの姿に門番、使用人達は驚きつつも、ジオルドはマリーを自室に寝かしつけると額に口づけし、すぐに現王であるデルバート=ローゼンベルクの元へと向かった。


「父上、私です。ジオルドです、ただいま戻りました!至急お話ししたいことがございます。」


 ノックをしても返事はなく、不思議に思ったジオルドが扉を開けると、部屋の中は酒の匂いで充満していた。


「・・・うっ、なんて様だ。」


 メティス公国は知恵を求める血筋故、自身の追求したいと思える対象を見つけると、研究欲を抑えることができなかった。ジオルドの上の兄達も王子の立場でありながら国費を使って研究室を立ち上げ、すぐに屋敷を出て行ってしまい今ではどこで何をしているか分からない。

 その研究対象が国のためになることか、利益を生み出すことか。そんなことは彼らの頭にはなく、それは現王のデルバートも例外ではない。しかし、歴代の王やその子供達を筆頭に、国の財源を使って好き勝手にしてきた結果、今世のメティス公国はジオルドが物心つく頃にはすでに財政破綻寸前だった。

 研究資金が尽き、他国への多額の借金を作り、それでも金が尽きてしまうと、デルバートは王であるにも関わらず生きる気力を失ってしまった。


 ジオルドの母がアレース公国出身者でその血が薄かったからか、ジオルドだけは何が国のためになるか、何を研究すればいいかを調べ、その上で自身の研究欲をぶつけ、国の利益となるよう還元していた。



「・・・貴方に相談する必要もありませんでしたね。メティス公国の王印はお預かりいたします。もうこれを使うことは二度とありません。」



 ジオルドは部屋へ戻ると、寝ているマリーを起こさないようそっと彼女と同じ布団に入った。


(ああ、これが温もりなのか・・・君だけは、私を見てくれる。誰にも渡さない。もう離さないよ、マリー。)


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