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第92話 賭け事

 レオンはジオルドと別れた後、男子寮の1室にいた。


「賭けは俺の勝ちだな?」

 部屋の主に断りなく、ドカッと音を立てソファに腰を下ろすレオンを、ユリウスが真っ青な顔で見つめていた。


「・・・うっ、まだ思い出すと吐きそう。」

「おい、しっかりしろ。約束は果たしてもらうからな。」

「分かってるよ。でもまさかジオルド様があんなに感情的になる人だとはね。ただの人形だとしてもさ、自分そっくりな人形が首元刺されるの見たら、普通気分悪くなるでしょ。てかレオン、お前よく平気だね・・・。

 あージオルド様のこと読み間違えたなぁ。」



 レオンはジオルドとの再会の前にユリウスに会いに来ていた。そしてジオルドが本気でマリーを愛していることを伝え、愛を取るか国を取るか、賭けを提案したのだ。


「マリーは俺の兄と婚約している。その上で他国の王子が婚姻を申し込むことがどういうことを指すかわかるな?」

「・・・戻ってきて早々、何を言い出すかと思えば。婚約の話なんて初耳だけど。仮にそれが本当だとしても、ジオルド様は堅物で、愛国心の塊みたいな人だって有名だよ?

 どんなにマリーちゃんが可愛くてもさ、アレース公国の方が武力だけで行ったら何倍も上だし、そんな喧嘩をふっかけるようなことしないでしょ。」

「じゃあ、賭けをしようぜ。俺はジオルド様がマリーとの結婚を申し込む方に賭ける。賭けに負けたら盟約でもらうことにしていたお前の国の領土は返そう。何ならマリーが卒業後お前の国に行きたくなるように協力してやってもいい。」

「悪くないけど、お前は俺に何を望むんだ?」

「大したことはないさ。ヘルメス公国はアレース公国の属国なれ。」

「なっ!

 ・・・レオン、本気で言ってんのか?流石にそんなこと、俺の一存だけで決められない。俺はただの王子だぞ?」


 レオンの提案に呆れて返すユリウスを、レオンは鼻で笑った。


「俺がお前を王にしてやる。そしてヘルメス公国が属国となった暁には、ヘルメス商会だけではない。国民全員が心身ともに飢えることのない、豊かな資源を提供することを約束しよう。」

「あのさ〜、そんなことできるわけないだろ。」

「・・・分かった。では賭けに条件を追加しよう。俺がお前を王にし、その上でジオルドが愛を選んだら俺の勝ちでいい。もちろん現在だけでなく、次期王にもお前がなれることを条件にする。

 どうだ?これなら例えお前が負けてもお前は王になれる。勝てば領土も返還、聖女もお前のものだ。商会の特産になるだろ。」


 元来賭け事の好きなヘルメス公国の民の血を継いでいるユリウスは、この提案に乗り、そして賭けに負けたのだった。




「土地を返してもらった上でアレース公国の属国になる・・・まあ悪い選択じゃないんだろうけど、これで俺は歴代の王子たちの中で最も最悪な売国奴として歴史に名を残すことになるね〜、は〜。」

「何言ってんだ。俺の言った通りにすれば次も、いや、未来永劫ライトリヒ商会の次期当主であるお前が王でいられる。悪くない話だろ?」


 コップに水を注ぎ一気に飲み干すと、ユリウスもレオンの前に音を立てて座った。

「本当にうまくいくんだろうな?」

「・・・間も無くお前の元へ義父である現当主の訃報が届くはずだ。お前は当主を世襲し、ライトリヒ商会が玉座に座っていられる残り数ヶ月の間に巨万の富を築き、王になる。手筈は整っているから安心しろ。

 とにかくお前は明日、校長室で俺と再会し、いつものように俺に噛み付いてくればいい。」

「噛み付くって、俺そんなにレオンになんかしてたっけ〜?」

「・・・とにかく明日、しくじるなよ。」


 ユリウスが敵対する前のようにおちゃらけた態度に戻ってもそのことには何も触れず、レオンはすっと立ち上がりまた影の中へと消えていった。



 時を同じくして、マリーが部屋で目を覚ますと、目の前にはリアンが心配そうに顔を覗き込んでいた。

「きゃ!えっ、あれ、リアンちゃん?」

「良かった!マリーさん目を覚ましたんですね。」

「え?あれ、ここ、私の部屋?・・・ユリーは!?私生きてる・・・?」

「何言ってるんですか、マリーさん。夢でも見ていたんですか?

 今日はユリウスさんと喧嘩したと、泣きながらジオルド様の研究室にいらっしゃったではありませんか。泣き疲れたのか、紅茶を飲んだら眠ってしまったマリーさんをジオルド様が部屋まで運んでくださったんですよ。覚えていませんか?」

「え?そうだったかな・・・。」

「マリーさん、私の眼を見てください。」


 吸い込まれそうな大きなリアンの瞳を見つめると、ゆっくりとその目が輝き出し、またマリーの意識は朦朧とし始めた。

(う〜ん、やっぱり聖女だから効きが悪いな。そんなマリーさんにもすぐに闇魔法をかけられるお父様って本当に凄いわ。)


「・・・思い出しました?」

「確かに、そうね。今日はジオルド様の、研究室に行った気がするわ・・・でも、ごめんなさい、疲れてるかしら。よく覚えてなくて。私どうしてユリーと喧嘩したのかしら。」

「・・・ユリウスさんが無理矢理マリーさんに言い寄ろうとしてきて怖かったって言っていました。ジオルド様も凄く心配されていました。記憶が混濁するほど怖い思いをされたのですね。可哀想に。ですがマリーさん、悪いことばかりではありませんよ!」

「え?」


 リアンは具合の悪そうなマリーに、満面の笑みで話を続けた。


「ジオルド様が正式にマリーさんと一緒になるお気持ちが固まったようです。マリーさんは聖女ですから、アースガルド帝国の皇帝、つまりアースガルド教会の教皇様に婚姻の申し込みをされたんです!」

「そ、そうなのね。」

(ゲームだと恋に落ちてそのまま学校卒業したら結婚してるスチル絵だったから手続きが必要だったなんて知らなかったわ。)


「・・・顔色が悪いですから、お話はまた後日にしましょう。今日はゆっくり休んでくださいね。では失礼いたしますね。」

「あ、リアンちゃん、心配してくれてありがとう。」

「おやすみなさい。」


 パタンと扉が閉まってからしばらくしてもマリーはベッドから起き上がることも出来ず、世界が歪んでいるかのような感覚に襲われていた。


「う〜気持ち悪い・・・頭痛い・・・ユリーと喧嘩した気もするけど、全然覚えていないわ。ジオルド様に話を聞いてもらったのかしら・・・。

 んー、ダメだ、気持ち悪くて考えられない。早く寝よ・・・。」



 マリーは静かな部屋の中、そっと瞼を閉じた。



 ♢



 リアンが自室に戻ると、ユリウスと別れたレオンが紅茶を飲みながら座っていた。

「お父様っ!」

「わっ、危ない!溢れるだろ!」 


 後ろから思い切り抱き着いてくるリアンを咎めつつ、レオンは労うようにリアンの頭を撫でた。

「私、お父様の言う通りに出来ましたわ!」

「ああ、よくやったな。」

(まあちょっと演技がくさかった気もするけど、ジオルドが気づいていなかったから良いか。)


「マリーの様子はどうだった?」

「問題ありませんわ。でもやっぱり闇魔法はかかりにくいようで、魅了チャームで完全に意識に入り込むことは出来ませんでした。私の得意魔法なのに、悔しいです。」

「まあジオルドに若干の恐怖を抱くのならばそれはそれで扱いやすくなっていいだろう。よくやったな。」

「えへへ。お父様・・・。」



 リアンは頭を擦り寄せ、そのままレオンに顔を近づけると、勢いのままレオンを押し倒し、これまでの分も思い切り欲をぶつけたのだった。



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