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第90話 愛しているから

 怯えるマリーにため息をつきつつ、1歩1歩と近づいていった。


「マリー。怖がることはない。もう悪漢は私が倒したからね。さあ寮まで送ろう。」

「どうして?ジオルド様!どうしてこんなことを・・・!」

「どうして?マリーは私の恋人なのに、この男が無理矢理君に近づいていたからさ。」

「こ、恋人?」

「ああ、君が卒業したら一緒にこの街で暮らす。君もそれを望んでいたじゃないか!」

「その話・・・一体どうして。」


「あーあ、ジオルド様、これは一体どういうことですかね?」

 マリーが怯える中、ジオルドの背後、倒れるユリウスの近くに立っていたのはリアンとフードを被っていてよく顔は見えないものの、聞き覚えのある声だった。


「リアン!それに・・・生きていたのか。」

 ジオルドが勢いよく振り返ると、挨拶をするようにフードを取りながら頭を下げた。


「お久しぶりですね。ジオルド様。それにマリー。ユリウスも、まだ聞こえているか?」

「レオン、様?・・・た、助けて!!お願い、ジオルド様に殺される!!」

「マリー?何を言っているんだ!私はただ君を助けに来ただけなのに!!君は私の愛を疑って他の男と行動を共にし、ヤキモチを妬かせたかっただけなんだろう?私には全部わかっているからもういいんだ。」

「いやっ、触らないで!!」


 マリーが抵抗して暴れると、その手がジオルドの頬に当たり、眼鏡がカシャンと音を立てて落ちた。そしてジオルドは右手の剣をマリーにも突き刺した。

 悶絶するマリーの腹部を何度も突き刺し、マリーが静かになっても止めないジオルドをレオンが闇魔法の影縫スピリットシャックルで動きを止めてもなお、ジオルドは興奮している様子だった。


「リアン、興奮剤飲ませてたんだっけ?」

「紅茶に混ぜておきましたが、予定より効果が強く出ていますね。マリーさんへの告白用のプレゼント探しに今日は来ていましたから、そのタイミングだったことがより気持ちを昂らせているのでしょうか。」

「仕方ないな。とりあえずユリウスにヒールかけて、っと。マリーは放っておいても自己回復するだろうから、いいか。じゃ・・・。」


 レオンが地面を蹴るとその勢いのまま固定されて動けずにいるジオルドの顔面を殴った。そのままリアンがそっとレオンの腕を掴み、

「もう意識がないようです。」

 と止められるまで殴り続けた。気を失ったジオルドをそのままマリーの横に寝かせ、ジオルドにもヒールをかけウォーターで頭に水をかけると、ジオルドがゆっくりと目を開けた。そして横で血だらけで倒れているマリーを見るや否やその顔は真っ青になっていった。


「・・・私は一体何てことを!」

「ジオルド様、安心してください。レオンおと、お兄様がヒールで皆さんを癒してくださいました。皆さんご無事ですよ。」

「そうか・・・。」

「いや、まさかやっと学校に戻って来られたと思ったら、ジオルド様があんなことをしているなんて驚きましたよ。そもそもマリーはルークお兄様の婚約者じゃなかったでしたっけ?で、ジオルド様は俺の妹のリアンと婚約の話が進んでいると聞いていたんですけど、俺の情報が間違っていますか?」

「それは・・・。だが、その婚姻は誰も望んでいないものだ!マリーは私を愛し、私もマリーを愛している!リアンも私たちに結ばれて欲しいと言っていた!」


 レオンはジオルドの言葉に大きくため息をついた。

「ジオルド様。仮にもメティス公国の王子ともあろうお方が、愛だの恋だのと・・・。リアンはまだ王女になって日が浅いですが、ジオルド様ほど国のために尽くしてこられたお方がこんな事件を起こしてしまうなんて。お兄様も心を痛めることでしょう。」

「・・・ああ、そうだな。君の言う通りだ。しかし、これは母国は関係ない、私が1人でやったことだ。私がただ愚かにも彼女を愛し、その想いに応えたいと、ただ、それだけなんだ。今まで国のために働いてきたが、やっと自分のために、彼女のためだけに生きたいと思わせてくれたんだ。それなのに私は・・・。本当に君が来てくれて、2人の命を救ってくれて良かった。」


 ジオルドは冷静さを取り戻せば話のわかる人間である。すぐに自分の行った行動がどれほど愚かだったか、レオンの言っている言葉が正しいか理解した。


「お兄様!どうか、ジオルド様をお許しください。慣れない学校生活で度々助けてくださった方です。ジオルド様とマリー様は本当に心から愛し合っているのです。ルークお兄様も親友のジオルド様を失ったらとても悲しみますわ。」

 言い訳すらできずに黙り続けるジオルドの前で、リアンがレオンに泣きついた。


「しかしな、ユリウスもヘルメス公国の王子。マリーも聖女だ。この2人を手にかけたのだからジオルド様も、メティス公国もただでは済ませるわけにはいかない。ジオルド様も貴方の行動が、痴情のもつれとだけで通らないことはお分かりですよね?

 兄が王になり、実質的には貴方が運営されているメティス公国とはもっともっと協力体制を築いていけると思っていましたが、残念ですね。」

「・・・ああ。わかっている。持ち慣れない剣まで格好つけて身につけ、彼女へのプレゼントを探しに来ただけだったのにな。思いも言葉に出来ず、この様だ。私はなんて愚かだったのだろう。」

「ジオルド様にアドバイスをしていたのは私です。私が余計なことをしたばかりに・・・。そうですわ!お兄様、お二人もご無事でしたし、お兄様の魔法を使って無かったことには出来ませんか?」


 やっと動けるほどに回復したジオルドはリアンの言葉に驚きながら体を起こした。

「そんなことが出来るのか!?・・・いや、だが私がやったことは決して許されることではない。罰を受け入れなければな・・・。」


『ジオルド、君がどれほどマリーさんを愛しているのかよく分かったよ。そして今回のことはそんな君の気持ちに気付いてやれなかった私の責任でもある。』



 俯いたジオルドに、リアンの胸元から光が放たれ、ルークの声が聞こえてきたのだった。



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