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第88話 リアンの提案

 リアンがマリーの部屋を訪れてから数ヶ月、マリーはこれまで通り授業中はもちろん、クリス、ユリウス、時にはロバートと休日を使って街に出かけたり図書館で勉強会と称した密会を重ねていた。


「マリー、美味しいかい?」

「ええ。クリス様が連れて行ってくださるお店はいつも美味しいです!」

「それは良かった。値段は気にせず、気になるものがあれば好きなだけ頼んでいいからね。」

「わ〜い、ありがとうございますっ!」


(一々なんかクリス様の発言ってムカつくんだよね。はぁ、本当にこんなのでうまくいくのかな・・・。)



 滲み出る無自覚な嫌味が気になるクリスとは少し距離を取っていたマリーだったが再び密会を重ねることとなったのは、リアンの提案だった。

 リアンの提案はまず「ルークとの婚約関係を解消する」というものだった。そもそも公にされていないこの婚約関係は曖昧なものであり、ルークの気が変われば簡単になかったことにできるはずだというのがリアンの見解だった。

 聖女ではあるものの孤児のマリーから一国の王子の申し出を断ることは今後のジオルドとの関係にも皺寄せがいく可能性が高いことから、あくまでもルークから、何もなかったことにしてもらう必要があると言われ、そのために行っているのがこの攻略対象者達とのデートだった。



「実はお兄様からマリーさんの学校生活について気になる点があれば報告するように頼まれているのです。」

「え、私のことを!?リアンさんは私を監視していたの?」

「監視というほどのことではありませんが、先の世界樹の穢れによってアレース公国内は悲惨な状況となっております。お父様も国内に溢れたモンスターの討伐で命を落とし、お兄様は正式な引き継ぎもなく玉座に着き、これまで以上に国を良くしようと取り組んでいらっしゃいます。

 このままいけばマリーさんは王妃。お兄様もマリーさんに好意を持っていることは事実でしょうが、好き嫌いだけで王妃を決められるような状況ではないのです。」

「そうなの・・・。私世界樹の穢れを祓った後に各国を見て回ったけど、アレース公国だけは首都のノーザスにしか行けていなくて、お父様もお亡くなりになっていたのね。」

「もちろんお兄様もご自身がマリーさんの側を離れていること、それに対して申し訳ないと感じています。ですのでもしマリーさんに他に良い方がいらっしゃればお兄様は何も言わずに身を引くと想うのです。ただジオルド様は私の婚約者の話が出ておりますので、今ジオルド様のお名前を出すのは問題になりかねません。」

「じゃあどうしたらいいの?」


 リアンはにっこりと

「王子が他にもいらっしゃるじゃないですか。」

 と返答した。


「クリス様もユリウス様も、従者のロバート様だって、皆さんマリーさんのことをお好きなご様子。マリーさんはこれまで通り、皆さんとの交友を深めてください。」

「それだけ?」

「私はそれをルークお兄様に報告させていただきます。特にクリス様は何かとアレース公国の邪魔になる、デュメエル公国の王子。クリス様とマリーさんがクラスメイトの関係以上に仲が良さそうであれば、今後のことを考えますとお兄様も手を引かざるを得ないと思います。」

「で、でもそうしたらジオルド様とはどうしたらいいの?」

「ジオルド様はマリーさんがお兄様と婚約していることを存じておりますよ。」



 リアンの言葉にドキッとした。

 ジオルドはルークの親友。知っているかもしれない、とは思っていたが、今の関係を壊したくないマリーは事実の確認から避けていた。


「本来研究室というあのような人目のつかない場所に未婚の男女がいるというのは、いくら勉強をする場だとしてもあまり好ましいとは言えません。特にマリーさんは一国の王子と婚姻関係のある聖女。それでも、研究室に来ていいと誘ったのはジオルド様なのですよね?」


 マリーは首を縦に振った。


「ジオルド様は親友であるルークお兄様とマリーさんが婚約をしたと知っていても尚、マリーさんへの気持ちが抑えられなかったのです。ジオルド様は言葉足らずなところがある方ですが、マリーさんへのお気持ちは相当なものだと思いますよ。」

「そ、そうかな・・・。」

「ええ。ですからお兄様との婚約が破棄されれば、すぐにでもジオルド様と結ばれることでしょう!私も国のためとはいえ、こんなに愛し合っている2人の仲を裂かなければならないのは心苦しいのです。ですから、マリーさんがまずやることはお兄様にアレース公国の王妃として迎えるには適さないと判断していただくこと。そして婚約が解消された後は、ジオルド様と共にこのままこの帝国管轄のオーディンの街でお暮らしになってはいかがですか?聖女であるマリーさんなら学校も喜んでジオルド様同様に迎え入れることでしょう。この学校は元々教会が母体となっているようなものですから。」



 リアンの提案は分かりやすく、マリーにとっては試験前まで行っていた単に恋愛シュミレーションゲームを楽しむような感覚で各攻略対象者と接すればいいだけ。断る理由などなかった。




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