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第84話 たまには息抜きも

 中間試験の内容は流石は帝国屈指の学校と言うだけあり、最高学年にもなるとその難易度は相当のものだった。もちろん魔法学校である以上、座学だけでなく魔力やそのコントロール等魔法の扱いに対する点における評価に重きを置かれているのだが、マリーの心中は穏やかではなかった。


(どうしよう・・・今日のテスト、全然解けなかった・・・。あんなに暗記したのに、落ち込むぅ・・・)


「マリーちゃん、今日のテストどうだった?俺絶対ミスった所があんだよなー。」

 マリーが青冷めた顔でため息混じりに俯いていると、ユリウスが後ろから抱きついて来た。


「おい、ユリウス!気安く女性の体に触れるものではないぞ!どうせ今回も解いたらすぐに寝ていたのだろう。君は小テストの時も見直しをしないからケアレスミスが無くならないんだ。」

「だってテストって眠くなるじゃん。ね、マリーちゃんもそう思うでしょ?」

「え、ええ・・・。」

「なんかマリーちゃん元気ないね?具合悪い?」

「ううん。あまりテスト解けなかったから、みんなに嫌われないかなって心配になっちゃって・・・。」


 本来ゲームの中では主人公でのマリーは各国の王子として英才教育を受けてきたであろう攻略対象者達に引けを取らない、むしろユリウスに対しては勉強を教えてあげるシーンがあるほどの才色兼備という設定だった。どんなに努力をしてもマリーである自分が『本来のマリー』らしく振る舞えないことに自己嫌悪に陥っていた。



 しかしユリウスはマリーの暗い返答に、クリスと目を合わせプッと吹き出して笑い出した。

「あははは!そんなこと気にしてたの!試験なんてできたって何にも何ないよ!そんなことで嫌いにならないよ〜!」

「マリー、君は私たちにどれほど特別に想われているかもっと自覚した方がいいな。それに大丈夫さ!君が真面目に授業を受けていることを私たちは知っている。今日のテストだってこないだの授業で習った所が大半だったじゃないか!ユリウスですら解けるんだから君に解けないことはないよ。」

「あ、あはは・・・みんなありがとう。」


(クリスの発言ってなんかムカつくのよね・・・)



「・・・マリーちゃん、あんまり考えすぎると疲れちゃうし、明日は休みだからさ、街にまた遊びに行かない?」

 不意にユリウスが耳元でクリスに聞こえないほどの声で囁き、マリーはドキッとした。


 顔に熱を帯びていくのを感じながらユリウスの方を向くと、ユリウスはにっこり笑い

「明日寮まで迎えに行くから。」

 とまた囁いた。


「よーし、今日の試験も終わったし、今日は部屋でみんなゆっくり休も!ほらクリスもロバートも行くよー!マリーちゃんまたね〜。」

「こらユリウス、勝手に人の鞄に触るな!・・・マリー、また週明けに会おう!」

「あ、また、ね。」


 ユリウスはマリーの返事を聞くことなくクリスとロバートを誘導しながら教室から出て行った。


(流石は攻略対象者1のプレイボーイ・・・久しぶりのドキドキイベントだったわ!行くって返事してないけど、行かないとも言ってないし・・・とりあえずジオルド様のとこに行こうかな。)



 荷物を片付け、鞄を手にいつも通り研究室までの道を進んだ。学生たちのいる棟を抜ければ、マリーの足音がこだまするほどに静かな研究棟に入る。

 

「ジオルド様、いらっしゃいますか?・・・また留守なのね。」


 マリーは応答のない扉を見つめ、ため息をついた後寮へと戻った。


 このところジオルドの不在が続いていた。

(私も毎日来られるわけじゃないから偶然かもしれないけど、ジオルド様に会えないのは寂しいな・・・)


 思うように会うことが叶わない分、自分自身でも気づいていないほどに、マリーの心はジオルドでいっぱいになっていた。



 ♢



 翌日マリーは昼前までに支度を済ませ、ユリウスの迎えを待った。何時に来ると約束をしてはいなかったが、甘いものを食べようと何度も誘うユリウスのことを考えると、昼食前に来るのではないかと予想したのだ。

 

「マリーちゃん、おはよ!ごめんね、待たせちゃったかな?」

「ううん、そろそろ来る頃かなって思って、ちょうど今部屋から出てきたのよ。」

 マリーの予想は的中し、女子寮の前でも人目につかずに合流することができた。


「よし!じゃあ行こっか。」

 ユリウスはスッとマリーの手を握り、街へと歩き出した。


(自然と手を握ってきて・・・流石チャラ男・・・かっこいい!)



 週末の街は広場では野菜や古着などを売るマーケットが開催され、いつも以上に賑わっていた。


「ねえユリー、今日はどこへ行くの?」

「んー、とりあえず新しくできたっていうカフェに行って早めにお昼食べよっか?そのあとはマーケット見たり、ブラブラするのでどうかな?」

「楽しそう!」

「じゃ、決まりね。足元気をつけてね。」


 ユリウスは慣れた様子でエスコートをし、2人のデートはあっという間に過ぎていった。

(最近ずっと試験のことで頭がいっぱいだったから、すごく楽しい・・・ユリーといるとマリーらしさを忘れて楽しいな・・・)



 日も暮れ始め、屋台も片付けを始めた頃にはユリーと本当の恋人のようにマリーも寄り添いながら手を繋いでいた。

「・・・暗くなってきたしそろそろ帰ろっか。」

「うん。ユリー、今日は本当に楽しかったわ。ありがとう。」

「マリーちゃんの暗い顔、俺も見たくないからさ。いつもの笑顔の可愛いマリーちゃんに戻って良かった。」

「もうユリーったら、揶揄わないでよ。」

「本当だよ?」



 2人はその後も楽しそうに会話を交わし、ユリウスが女子寮の前までマリーを送り届け、ユリウスも男子寮へと帰って行った。



「あーーーー!今日は久しぶりに恋愛シミュレーションゲームらしさを感じたーーー!イケメン最高・・・!」


 マリーはベッドに倒れ込み、天を仰いで久しぶりの主人公の醍醐味を叫んだのだった。


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