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第79話 聖女と騎士

「うっ・・・」

 体中の痛みを感じながら目が覚めると、そこには見慣れた顔が心配そうに覗きんでいた。


「よかった、目が覚めたか!」

「・・・ジオルド?」

「ああ。どこか痛いところはないか?」

「体中痛いけど、大丈夫だよ。」


 ジオルドに支えながら体を起こすと、前のベッドではクリス、ロバート、ユリウスがマリーと楽しそうに談笑している様子が見えた。

「彼女も無事だったんだね。良かった。」

「ああ。帝国内に溢れ出ていたモンスターも君達のおかげで全て消え、今は各国後処理に追われている。」

「そうか。良かった。・・・レオンとフェルはどこかな?」

 キョロキョロと辺りを見渡しても2人の姿が見えなかった。ジオルドはルークの問いに答えず、その表情を隠すかのように眼鏡を押さえた。


「ジオルド?2人は無事なんだよね?」

「・・・モンスターが消え、お前に頼まれていた通り神殿まで急いで戻ったんだが、神殿の前にはルークとマリー嬢の2人が倒れていて、彼らの姿はなかった。神殿の扉も消えてしまっていて、彼らが無事かどうかは分からない。」

「そんな!世界樹の穢れを祓ったのはレオンなんだ!探しに行かなければ・・・!」

「止めておけ。そんな体でどこに行くつもりだ。

 ・・・エディオン校長も2人の捜索に尽力して下さっているし、お前はまずは体を治すことに専念しろ。捜索に加わるのはそれからだ。いいな?」

「・・・分かったよ。ジオルド、色々ありがとう。」

 ジオルドの言う通り、体中に鈍い痛みが走る今の体では立ち上がることも1人ではできないと判断したルークはただただ病室で2人の無事を願い続けた。



 ♢



 それから半年の月日が経過した。体も回復したルークは学校内を始め、各国の王子の協力のもと帝国内全てを捜索隊と共に探し続けたが、遂に2人を見つけることは叶わず、捜索隊の打ち切りが決定した。


「エディオン校長先生、待ってください!まだ2人を見つけていません!レオンは、私の弟は絶対にどこかに生きているはずです!」

「・・・ルーク君。君の気持ちはよく分かる。だが、これは皇帝陛下からの命令なんじゃ。先のモンスターの襲撃による帝国内の不安を取り除くためにも、君とマリーくんが聖女と騎士として各国を回って欲しい。」

「そんな!私には騎士のような力はありません!レオンがいなければ世界樹までたどり着くことすらできなかったはずです!」

「・・・ルーク君。これは決定事項なんじゃよ。もちろん各国を回る間、君が捜索をするのは好きにするがいい。私も個人的には捜索を続けさせてもらう。何か手がかりがあればすぐに連絡する。だからどうか騎士として、平和の象徴として帝国国民の前に立って欲しい。」

「断る権利はないと言うことですね。」

「分かってくれるかね!それでは早速各地を回れるように私は手続きを進めよう!ありがとう、ルーク君。」

「・・・失礼します。」


 校長室を出たルークは、戦い以降より一層過保護になったクリス等4人に囲まれているマリーの元へと向かった。


「マリーさん、校長先生から各地を回るように言われたんだけど、そのことで少し話せるかな?」

「ルーク様。ええ、もちろんです。」

「・・・2人で話したいんだけど。」

 ルークがクリス達を一瞥すると、クリスは急に不機嫌そうな表情になり

「なぜ2人で話す必要があるんですか?ここで話せばいいじゃないですか。それとも我々がいては不都合なお話をされるのですか?」

とルークに食ってかかった。


「そういう訳ではないが、聖女と騎士として各地を回るにあたって役割を話しておこうかと思ってね。」

「ああ。ルーク様は本当は選ばれた騎士じゃないですもんね?偶々マリーが入った時に中にいたレオンのそばにいて、戦いに巻き込まれただけなんすよね?騎士として戦った弟がいなくなったら、兄貴が代わりに騎士役を奪うなんて、良くできた話ですね〜。」

「止めろユリウス!騎士としてルークが選ばれたのは皇帝陛下の命だと言われただろう。それについて何か言うのは不敬だぞ!・・・ルーク、我々は席を外すから、終わったら声をかけてくれ。」

「ああ、ありがとう。ジオルド。」


 4人がいなくなるとマリーは罰が悪そうな顔をしていた。

「・・・心配しなくても誰にも言うつもりはないよ。」

「ありがとうございます。私、正直なところ何も覚えていないんです。フェルさんに回復魔法を使えと言われて、それで魔力が切れてしまって。目が覚めたら病室にいて・・・。」


 マリーは今回の戦いにおいて実際はエリアヒールでルークの傷を癒したのみ。それ以外は聖女としての功績など一切ないが、世間は【聖女】という存在を求めていた。


 ルークは世界樹で起きたことを「ルークが光魔法で浄化しレオンが騎士として戦った。フェルもそのサポートをし、マリーは終始気絶していた」と報告していたが、事実は「聖女マリーが光魔法で浄化し、レオンが騎士として聖女に選ばれその力を発揮した。しかしレオンがいなくなったため、共闘したルークを騎士として任命するものとする」とされた。

 レオンの強さとルークの力が弱いことを知るクリス、ロバート、ジオルド、ユリウスの4名を除いてはレオンの名すらも消され、「聖女マリーと聖女に選ばれた騎士ルークが世界樹を浄化した」とだけ発表されることとなった。


(マリーが何も見ていなかったのは好都合だな。)

「・・・マリーさんは覚えていないようだけど、世界樹の穢れを祓ったのは私だよ。そしてその私を支えてくれたのはレオンとフェルだ。」

「やっぱりそうなんですね?私は何もしていないんですね・・・。みんなから褒められれば褒められるほど、本当にそれを私がやったのか分からなくて、でも何も覚えてなくて怖かったんです。レオン様もいなくなってしまったし・・・。」

「もっと早く話せる時間が取れれば良かったね、ごめんね。でもあの4人にも、そして世間にも公表される内容は違う。これは皇帝陛下の指示によるものだ。この事実は決して誰にも言ってはいけないよ?」

 マリーの瞳には涙が浮かび、その肩は小刻みに震えていた。ルークはそっとマリーの頭に手を置き、宥めるように彼女の頭を撫でた。


「大丈夫だよ、マリーさん。私は誰にも言うつもりはないし、君が聖女であるという事実は変わらない。」

「でも私これから一体どうしたらいいのか・・・。」

「君は君のままでいい。私がレオンに代わって君を支え続けよう。」

「え?ルーク様が?」

 マリーがルークを見上げると、ルークはにっこりと微笑んだ。


「ああ。私ではレオンほど頼りにはならないかもしれないが、私も君のことを一目見た時から君の力になりたいって、ずっと思っていたんだ。レオンが戻ってくるまででいい。私では君の騎士にはなれないかな?」

「ルーク様・・・!」


 マリーは見つめるルークの胸に飛び込み、ルークはマリーを強く抱きしめた。

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