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第78話 世界樹の守り神

「お兄様!ルークお兄様!!しっかりしてください!!!お兄様!」

 起き上がることもままならない身体の痛み、疲労感を感じながらも倒れたルークの元へ這ってでも向かうおうとするレオンを宥めたのはフェルだった。


「レン、落ち着いて。ルーク様は魔力切れで気を失っただけだよ。息もある。私がそっちに運ぶ・・・。」

「そうか。・・・ああお兄様の美しい顔にこんなに傷が。魔力が回復したらすぐに俺が治療しますからね。」

 レオンの横に運ばれたルークの顔についている汚れを拭き、その美しい最愛の兄の寝顔を堪能しながら、呼吸を整えた。


「ふぅ。ここでもまだ魔力が吸われてはいるがさっきの勢いは無くなったな。助かったよ、フェル。それに、お兄様を助けてくれたのもお前の指示だろ?ありがとな。」

「えへへ。私はレンの従者。レンのして欲しいことが分かるのは当然でしょ?」

「ああ。お前は最高の従者だよ。」

 フェルが撫でろとばかりに頭を近づけてくるので、レオンがビキビキと軋む腕の痛みに耐えながらフェルの頭に手を当てると、フェルの尻尾がパタパタと揺れていた。



「フェル、マリーを連れて来られそうか?」

「うーん、ちょっと無理かも。足切られちゃったから、あの高さをジャンプするのは難しいかな。」

「そうか。俺もMPをごっそり取られて魔法は使えそうにないからな。うーん。どうするかな・・・」

「置いて行っちゃえば?もうレオンは光魔法のレベル5も複製コピーしたんでしょ?じゃああの女要らないじゃん。」

「それはそうだが、流石に聖女がいなくなったらなぁ・・・。」

『聖女を殺してはなりません』

「な、誰だ!?」


 レオンとフェルの頭に突如声が聞こえてきた。


『聖女は神が世界の均衡を守るために生み出したもの。殺してはなりません。』

「何これ、頭に直接声が聞こえる。気持ち悪いー!」

「お前は誰だ!?姿を見せろ!」

 レオンが辺りを見回しても、その声の主はどこにも見当たらなかった。


『私は世界樹の守り神。穢れを祓い、力を分け与えてくれたことを感謝します。』

「守り神・・・。ではこれで元の世界に戻れるんだな?」

『はい。ですが貴方方は神の決められた行いに反しています。神の決めたことは絶対なのです。』

「どういうこと?」

『古来より世界樹に穢れが溜まりし頃、神より光の力を与えられた聖女が現れます。そしてその聖女が選びし騎士と共に世界樹の穢れは浄化されるのです。』

「だから今レンが浄化したじゃない!」

『世界樹は浄化されました。そのため聖女と騎士を地上に戻す力を有しています。』

「もう!だからなんなの!さっさと地上に戻してよ!」

「いや、フェル待て。」


 レオンは守り神の言葉の意味に気が付いた。

「・・・聖女と騎士の2人しかお前は地上に戻せないんだな?」

『はい。それが決まりです。本来聖女と騎士以外のものがここに存在することはあり得ません。貴方方は神に反した行いをしたのです。』

「何それ!浄化したんだからそれでいいじゃない!!」

『神の決めたことは絶対なのです。』


「なあ守り神。お前を作ったのはオーディルヘルムと光の女神だろ?」

『はい。私はオーディルヘルム様が作られた木に第一女神である光の女神アライア様、そして時の女神クロノ様をはじめとする無数の女神様の加護によって作られました。』

「ヘリア様の加護は得られていないんだな?」

『闇の女神ですね。闇の女神は女神族から追放されたもの。私には存在しないものです。』

(なるほど、だから俺の闇魔法の空間をこいつらは感知できずにお兄様とフェルも一緒に来ることができたのか。)


『聖女と騎士を地上に戻します。聖女、ではありませんが、穢れを祓った貴方を光魔法の使い手と認めましょう。私の力でお二人を地上へ戻しましょう。』

「・・・<闇空間ダークベース>・・・は、使えないのか。」

『時の女神の力により、この空間の力を強めました。別の時空への出入りを禁じています。』

「なるほどね。学校の神殿の入り口はどうなるんだ?」

『世界樹の穢れが溜まるまであの扉がここに通じることはあり得ません。』

「つまりざっと100年間ここに取り残されるのか。」

「レン〜・・・どうするの?」

 先ほどまで嬉しそうに耳を立てパタパタと揺られていた尻尾が嘘のようにしょぼくれ、フェルはレオンを見つめていた。


 レオンは少し申し訳なさそうに、フェルの肩を抱き微笑み言った。

「フェル、俺を信じてくれるか?」

 

 フェルはキョトンとした表情で真剣なレオンの顔に吹き出し、言い返した。

「あはは!当たり前じゃん!私はレンの従者だよ!」

「ふっ、そうだったな。では世界樹の守り神よ。地上に戻してくれ!」

『分かりました。』



 世界樹からは眩い光が放たれ、世界が何もない、真っ白い光の中に包み込まれていった。

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