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第77話 世界樹の再生

 レオンが浄化の呪文を唱えている間、ルークは必死で世界樹の攻撃を捌き続けていたが、無尽蔵に力を使える世界樹とは反対に、次第にルークに攻撃が当たるようになっていた。


(やばい、やばい。お兄様に攻撃が当たり始めてる・・・!くそ、お兄様のお体に傷をつけるなんて許せないが、俺がこの場を離れたらお兄様の努力が水の泡だ。もう魔力回復薬ももう残っていないし、これが最後のチャンスのはず・・・お兄様、どうにかもう少し耐えてください!)



「くっ・・・!」

 息を整える隙すらも与えられない絶え間ない攻撃に、ルークの体力は最早限界だった。少しずつ当たり始める攻撃を受けるのではなくかろうじて避けるのが精一杯になり始めていた。

(私は死んでもいい。レオンが浄化を果たすことができれば、もうレオンを咎めるものはいなくなるはず。レオンがその役目を果たし切るまで、ここは通さない!)



「・・・?」

 一瞬の出来事だった。ルークの足元がふらついたその瞬間を見逃さないかのように、世界樹の枝がルークの腹を貫通した。ルークは枝が抜けると同時に、その場に倒れ込み、世界樹の下に咲く花々が赤く染まった。



(お兄様!!!!!もうダメだ!一度詠唱をキャンセルしてお兄様の元に行かなければ・・・!)

 レオンが詠唱を止めようと幹から手を離そうとした瞬間、思いがけない声が響き渡った。


「<エリアヒール>!」

(マリー!?)


 世界樹から見上げる形で位置する通路にいるマリーとフェルの姿をレオンが目視することは難しかったが、それは確かに主人公であり聖女であるマリーの光魔法だった。光魔法の高等呪文であるエリアヒールにより辺り一面に光の粒が舞い、倒れているルークを包み込んでいった。


 もちろんこれはマリーが自らの意思で行ったものではない。自己的な彼女をフェルが今殺されるか光魔法を使ってルークを助けるか選ばせたのだ。本来重症人であるルークのみに近付いてヒールで回復をさせれば魔力が尽きることはなかったかもしれないが、彼女がそれを頑なに拒み遠方から周囲一帯を包み込む形でエリアヒールを発動させたため、マリーは一度の魔法で魔力切れを起こしその場に倒れ込んだ。



「おりゃー!!レン、ルーク様は大丈夫!私もカバーするから詠唱を続けて!!」

 マリーにより腹部に空いた傷も埋まり意識を取り戻したルーク襲い掛かろうとした世界樹をフェルが蹴りで弾き飛ばした。

「ありがとう、フェル、共に戦おう!」

「ルーク様!ご無理なさらずに、もうマリーは魔力切れでヒールが使えませんのでご注意ください!」

「ああ、分かった!」


(良かった・・・。もう少し、もう少しだから2人とも耐えてくれ・・・!)


 自分の命よりも大切なルークの無事が確認でき、レオンはホッと胸を撫で下ろし詠唱を続けた。そしてどれだけの時間が経っただろうか。ルークもフェルも満身創痍の中、その時は来た。



「・・・この地を創りし神よ。オーディルヘルム神の加護よ。再びその力でこの地を包みたまえ!!>」

(な、なんだこれ!?魔力が吸い取られる!)



 レオンの詠唱が終わると、レオンの身体からは通常見ることのできない「魔力」そのものが肉眼で確認できるほどに溢れ出し、世界樹が吸収されていた。世界樹の麓に生えていた草木やルーク、通路で倒れているマリーからも世界樹に引っ張られるように魔力が少しずつ吸い取られ、辺り一面が光り輝く世界と化した。

 そしてその栄養を糧に、枯れ木だった世界樹は見る見る内に葉が生え、花が咲き始めた。



「これは、見事だ。レオンが世界樹を浄化したんだね!」

「やりましたね、ルーク様!!」


 ルーク達を攻撃していた枝も天を仰ぐように上へ上へと枝を伸ばし、美しい花を咲かせていた。


 ふらふらになった体を互いに支えながらレオンの元へと急ぐと、レオンは未だに眩しいほどの強い光に覆われ世界樹にその力を吸い取られていた。


「ぐっ・・・!」

「あれは一体!?レオン、大丈夫なのか!!」

 最早立っていることもできずに世界樹の根元で座り込んでいるレオンの表情は苦しそうで、その顔には大量の汗が噴き出していた。



「お、お兄様、ご無事で、よかった・・・」

「レオン、大丈夫かい!?これは一体!?」

「それ以上近づかないで下さい・・・魔力が、吸い取られてしまいます・・・!」


 世界樹は力を取り戻すため、周囲一帯の魔力を吸い出し続けていた。その力は世界樹に近づけば近づくほど強くなり、ルークもレオンの元に近づくほどに強い勢いで身体から魔力が抜けていくのを感じた。しかし、ルークはフェルとともに自力では立ち上がることすらできなくなっているレオンの身体を持ち上げた。


「こ、これはすごいな。私程度の魔力では数分と保たないかもしれない。フェル急いで離れよう。」

「はい!」

「お、お兄様・・・。フェル・・・。」

「大丈夫だよ、レオン。私は何があっても一緒だからね。もう少し、頑張ってくれ。」



 引きずられる形で世界樹の下から脱出した3人だったが、ルークは壁にレオンを寄りかけるとそのまま地面に倒れ込んだ。


「お、お兄様!!!」


 薄れゆく意識の中、ルークは涙ながらに自分の名を呼ぶレオンに、懐かしい日々を思い出していた。


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