第76話 世界樹の浄化
ルークの提案を理解するまでにレオンは時間がかかってしまった。ぽかんと口を開けたまま見つめ返すレオンを、ルークは笑顔で見つめ返し続けた。
「えっと、お兄様と一緒に下に行くということですか?」
「うん。光魔法レベル1の私が行ったところで意味はないかも知れないが、レオンでも1人で下に降りるのは危険が高い。レオンの言うゲームの通りならば少なくとも世界樹の穢れを祓っている間、無防備になると言うことだろう?誰かが世界樹の攻撃を捌かなければ。
それに浄化の呪文がレベルに関係するものではなく、属性魔法が光魔法である者が近付くことが鍵だった場合、私が一緒に行っていた方が効率が良いだろう?」
「それは・・・確かにその通りですが、でも」
「レオン。これでも私は剣の腕にはそこそこ自信があるんだよ?それとも私に背を任せることはできないかな?」
「そんなことは!お兄様以上に私の背を任せられる者はおりません!ですが・・・」
悩むレオンをルークはそっと抱きしめた。
「大丈夫。私は何があってもレオンを守るよ。下に降りて何も分からなかったらすぐに上に戻って回避しよう。幸いマリーがいるから、怪我をしてもヒールくらいはできるだろう?」
「お兄様・・・暗黒球を使うと囲まれて危険ですので、身を守るのは剣で攻撃を捌くしかありません。俺は人より丈夫ですから、俺のことよりもお兄様の身の安全を第一に考えて行動してくださいますか?」
「分かった。レオンのことも自分のことも守りながら戦うよ。」
ルークはニコッと笑ってレオンの頭を撫でた。レオンはこんな状況下でもいつものように振る舞い続ける兄を改めて尊敬し、ルークのおかげで冷静さを取り戻すことができた。
「フェル!お前はマリーといてくれ。俺とお兄様は世界樹の幹の近くまで行ってみる。様子を見てすぐに戻ってくるが、何かあれば援護してくれ。」
「フェル、頼んだよ。」
「かしこまりました!お二人とも気を付けてくださいね!」
「ああ。ではお兄様、飛び降りますのでしっかり捕まっててください。」
レオンはルークを抱き抱え、世界樹の麓まで急降下した。通常であればビルの高さ2階から落ちて無傷では済まないが、レオンの身体能力を持ってすれば魔法を使わずともルークを抱き抱えたまま着地をすることは容易なことだった。
「ここはまだ攻撃して来ないんだね。」
「はい。多分世界樹の下に入ると攻撃対象になるんだと思います。・・・準備はよろしいですか?」
「ああ。」
「では、幹まで一直線に突っ込みます!行きますよ!!」
レオンは銀狼であるフェルから複製して得たその脚力で思い切り地面を蹴り、一直線に世界樹の幹を目指して突進した。世界樹はレオン達を確認するや否やすぐにその枝を伸ばしてきたが、レオンのスピードには追いつかず、幹までの侵入を許した。
レオンが世界樹の幹に触れると、その脳裏に念願の魔法が浮かび上がってきた。
「お兄様!浄化の呪文が分かりました!!」
「本当か!ではこのままレオンは呪文を唱えるんだ!私はここでレオンを守ろう!!」
「ですが」
「いいからやるんだ!」
「分かりました・・・<我、光の加護を与えらし者。我、穢れを祓いし者。我、世界の平和を願う者。我・・・>」
(くそっ、なんだこの呪文、めちゃくちゃ長い・・・!お兄様に呪文が浮かべば良かったんだが、くそっ、早く早く終われ!)
レオンの心配していた通り、ルークが世界樹の攻撃を捌くことは容易ではなかった。
世界樹との対戦は、何度も繰り返しゲームをやっていたレオンには分かっていたことだが、主人公が選択した攻略対象者のレベルに合わせてその難易度が変わっているのだ。今回は人類最強とも言えるレオンのレベルに合わせているため、世界樹はそのレオンですらも容易に倒せないほどに強い存在となっていた。
しかし、それほどまでに強い世界樹の攻撃をルークは全て捌き切っていた。
ルークは生まれながらに人よりもステータスが低く、剣の才能もない。それでも自分のために幼い頃から弟が今日まで尽くしてくれている、その想いに応えたい。その思いがルークの身体能力以上の力を出していたのだ。
自分を慕ってくれている弟のために何もできていないと言う強い罪悪感を抱いていたルークにとって、レオンを守ることができる場を与えられたことは好機にすら感じていた。
(レオン。私の大切なレオン。お前のことは、私が絶対に守り抜く!)




