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第75話 浄化の呪文

 闇魔法を吸収させるかどうか決断できなかった3人は、マリーが目覚めるのを時折世界樹の様子を見つめながら待った。


「うっ・・・。」

「目が覚めたか!大丈夫か?」

「レオン様・・・。それにルーク様とフェルさん・・・。うっ。」

 マリーは腹部を抑えながらゆっくりと起き上がり、レオンはそれを支えるように彼女の側に座った。


「お前は世界樹の攻撃を受けたんだ。お兄様がヒールをかけたから傷口は塞がってるだろうけど、まだ多少痛むかもしれない。」

「そうだったんですね、ルーク様、ありがとうござます。・・・私モンスターに襲われて怖くなって無我夢中で走ったら世界樹の麓まで落ちて・・・それで・・・。」


 マリーはガタガタと震え出した。世界樹の麓まで、およそビルの2階ほどあろう高さを何の手立てもなしに落下し、彼女を突き刺そうと待ち構える世界樹の枝の上に落下したのだった。ヒールは体の傷を癒しても起こった事実が消えるわけではない。マリーはもう世界樹に立ち向かうことはできなくなっていた。


「・・・とにかく無事で良かった。俺たちはもう世界樹まで到着した。マリー、君と力を合わせれば世界樹を浄化できるはずだ!俺とともに頑張ってくれるか?」

 レオンは諭すようにマリーの肩を掴み見つめたが、マリーはすぐに目線を下に逸らし、首を横に振った。


「ごめんなさい・・・私には無理です・・・。ずっと頭もはっきりしなくて気持ち悪いし、それに、本当に私死ぬかと思ったんです!!だから、もう無理です!レオン様なら分かってくださるでしょ?ね?

 そうよ!だってお兄様も光魔法の使い手なんですものね、ルーク様が浄化してください!お願いします!」

「いや、私は光魔法はレベル1までしか使えないんだ・・・すまない。」

「レベル1って、なんでそんな低いんですか!?ルーク様ずっと光魔法を使ってこられたんですよね!?嘘でしょ!?」

「マリー!!!いい加減にしないか。興奮する気持ちも分かるがお兄様に失礼だろ。」

「だってレオン様も言ってたじゃないですか!お兄様には複製スキルがあるって!じゃあ私の魔法を複製すればいいですよね!?それなら私は戦わなくてもいいですよね!?」

「それはそうだが・・・。」


 言葉を詰まらせるレオンに助け舟を出したのはルークだった。

「私の複製スキルには条件があってね。オリジナルの人が使った魔法を複製することしかできないんだ。だからレベル5の、浄化の呪文が思いつく、君の協力が必要なんだよ。

 私自身の力不足で君に怖い思いをさせてしまって申し訳ないが、どうか私たちに協力して欲しい。この通りだ。」

 ルークは深々とマリーに頭を下げた。


「お兄様!おやめ下さい!!」

 ルークはレオンが止めようとも頑なに頭を上げようとはしなかった。

 本来第一王子程の身分のものが聖女であろうとも平民の人間に頭を下げるということはあってはならない。ましてやレオンにとって兄のルークは神にも等しい、崇拝対象者。そんな兄が頭を下げている姿を見て心を痛めないはずがなかった。


「マリー!お兄様がここまでしているんだ!ここからでいいから世界樹の浄化をする呪文が思い浮かばないか考えてくれ!呪文を教えてくれればそれだけでいい!」


 マリーは圧に押され世界樹の先が少し見える程度の位置に移動したが、首を横に振った。

「何も思い付きません・・・。」

「そんなバカな!お前が聖女なんだから何か思いつくはずだろ!」

「そんなこと言われても何も浮かばないんです!本当です!!」

「もっと近づいてよく見ろ!!!」

「やめてください!!!いやー!」

「レオン、少し落ち着こう。」

 マリーの肩を思い切り掴み体を揺らすレオンを、ルークは後ろから宥めるようにその背をさすった。



「うっ、うう・・・ヒック、ヒック・・・」

 マリーは世界樹に襲われた恐怖と恋人(だと思っている)のレオンから怒鳴られ声を上げて泣き始めてしまった。


(くそっ、こいつ仮にも主人公に転生したんだからこうなることは分かってただろ。あーイライラする!)


 ルークは貧乏ゆすりをしているレオンの足にそっと手を置き、微笑みかけた。

「こんな時こそ落ち着かないとね、レオン。少しあっちで話そうか。」

「はい・・・。」


 マリーを宥める仕事をフェルに任せ、ルークとレオンは世界樹の見える位置まで移動した。


「何度見ても何も浮かんで来ませんね。」

「ああ。ゲームだと聖女は世界樹の麓で浄化の魔法を使い始めたんだよね?」

「はい。ただマリーがあの状態では下に降りることも叶いませんね。俺が操ってしまっては意識を失ってしまうので意味ないですし、魔力回復薬ももうありません。意識のないマリーを抱き抱えて下に降りるのはリスクが高いと思います。」

「そうか・・・では、私で試してみないか?」

「え?」


 ルークはいつもの優しい笑顔でレオンを見つめた。

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