第70話 ルークの抵抗
3人がダンジョン内でのティータイムを楽しんでいると、マリーが頭を押さえ起き上がった。
「うっ・・・。」
「マリーさん、目が覚めたかな?」
「あれ、貴方はレオン様のお兄様の・・・。」
「ルークだよ。ダンジョンで私もフェルと共にレベル上げをしていたんだが、君たちを見かけたから一緒に行動させてもらおうと思ってね。いいかな?」
「あ、ええ、もちろんです。」
「マリー、これを飲んでおけ。魔力回復薬だ。体の傷はルークお兄様が癒してくれたから平気だろうが、動けそうか?」
レオンから受け取った回復薬を飲み干してもズキズキとした頭痛が消えることはなかった。これは魔力切れの反動に加え、レオンの闇魔法の影響が残っていたためだった。
「すみません、少し頭が痛くて・・・。お兄様が合流したところで申し訳ないんですけど、今日はもう帰りませんか?」
「・・・お兄様、やっぱり俺の魔法で」
「レオン、待ってくれ。私もまだ休みたいし、もう少し休んでからにしよう。マリーさん、調子が悪いところすまないが、もう少し休んでから移動でもいいかな?私のヒールで頭痛も治せればいいんだけど・・・。」
「いえ、私は光の加護で自動的に少しずつ回復するので、多分そのうち痛みも消えると思うのでお気になさらず。」
「そうか。フェル、彼女の分の紅茶も用意してくれ。」
「・・・はい、かしこまりました。」
フェルは素っ気ない態度でマリー分の紅茶を淹れ、彼女に手渡した。
「フェルさん、ありがとう。・・・はぁ、美味しい。なんだかピクニックみたいで楽しいですね。」
「・・・そうだね。」
マリーとルークは焚き火にあたりながらマリーの頭痛が消えるのを待った。
レオンは念のため3人から少し離れた位置で辺りを警戒しながら様子を伺っていた。
(お兄様は天使のように優しい方だから仕方ないけど、次の4、5階層で世界樹に行くまでに光魔法がレベル5に達すればいいんだけど行かなかったら階層1まで戻って雑魚キャラも全部倒すしかないかな。全部の敵を倒してもレベル5にならなかったらどうしたらいいんだ?マリーを殺してダンジョンを抜けられるか試してみるか?
そもそも今回はレベル上げ目的だったからアイテムも揃えてきてないし、俺もマリーを常に操ってたから魔力がほとんどない。魔力回復薬が最後まで持つかどうか・・・)
「レン、紅茶、飲む?」
考え込むレオンを覗き込むようにフェルがひょっこり顔を出した。
「お、おお、ありがとう。」
「・・・浮かない顔だね。世界樹の穢れを祓うのってそんなに大変なの?」
「いや、俺も実際にやったわけじゃないからなんとも言えないんだけど、世界樹自体がモンスター化してて攻撃してくるからそれを避けつつ光魔法で浄化しなきゃいけないはずなんだ。
さっきの戦闘で分かったが、操った状態で攻撃を避けながらマリーが魔法を放つだけじゃ難しい。かと言って事情を話してもあいつが戦おうとするかも分からないし、そもそも戦闘に不慣れすぎる。テンパって騒がれるくらいなら操ってた方がマシだが、それだと命中率が下がるし俺の行動も制限される。
やっぱり1番良いのは俺が複製スキルで光魔法を使えるようになることだが、まだレベル4なんだよな。世界樹の穢れを祓うためにはレベル5じゃなきゃいけないはずなんだ。」
「・・・なら彼女の魔法がレベル5になるまで魔法を使ってもらうしかないね。」
「ああ。だがお兄様があの魔法のことはあまりよく思ってないようだからな。どうしたものか。」
マリーが起き次第すぐに魔力を回復させ<暗黒霧>で操ろうと提案したレオンに対し、ルークは怪訝そうな表情を浮かべていた。そしてレオンが必要ないと言っても、マリーの体の節々に戦闘などで起きた擦り傷をヒールで回復させるまでしたのだった。
「・・・ルーク様を眠らせる?闇空間に入っててもらえば安全だし、私があの女を抱き抱えて戦闘してもいいよ?」
フェルが手刀で宙を切ると、レオンからは言いようのない圧が発せられ、フェルの全身の毛が逆立った。
「フェル、お兄様のためであろうともお兄様の意思に反したことをしたら俺はお前を許さない。分かったな。」
「・・・分かった。ごめんね、レン。」
フェルが謝るとレオンから発せられた圧は一瞬で消え、レオンはくるりと体をフェルの方に向けフェルの頭に手を置いた。
「いずれにせよダンジョンから出られないと困るからな、お兄様に俺から話をしてみるよ。」
ルーク達の元へと歩み寄るレオンの背を見てフェル逆立ったままの尻尾を抱き抱え込み上げてくる感情が抑えられず、自然と笑顔になっていた。
(レオン、私の主。どんどん強くなっていく。すごい!)




