第69話 ルークの葛藤
世界樹までの一方通行となった道のりを進むことを決心したものの、レオンの頭から不安が消えることはなかった。
(お兄様のHPはレベルが上がり320。マリーとフェルは1000越え、俺は10000を越えてるからお兄様を守りながら攻撃を受けても一撃で死ぬことはないだろうけど、光魔法がまだレベル4のままで世界樹まで行っても恐らく浄化することはできないだろう。
ゲームの世界では光魔法がレベル5に上がるまでは4階層目以降に行こうとすると選んだ攻略対象者が誰であろうと止められて進むことはできなかった。レベル5に達すると同時に前夜の告白イベントが発生して、その後に行けるようになると言うものだったから、恐らくレベル5になるまで使えない魔法なんだろう。マリーは今俺の操り人形だからとりあえずひたすら魔法を使わせ、MP回復薬を飲んでの繰り返しで進んで行くしかないか・・・。)
「マリー、真っ直ぐ歩け。遭遇したモンスターがいたら<女神の斬撃>を放て。」
マリーは何も言わずに頭を縦に振り、無言のまま歩き始めた。レオンの命令通り、前方に現れるゾンビを見つけるや否や光魔法<女神の斬撃>を発動させ、レオン、ルーク、フェルがその後ろに続いた。
「・・・これはレオンの言っていた洗脳の魔法なんだね。すごいな。」
「洗脳と言うよりは体を俺の魔力で乗っ取るって感じですね。闇魔法<暗黒霧>を吸った者は意識が朦朧とします。そこに俺の魔力を注入して操っているのですが、彼女は腐っても聖女ですから俺の魔法とは相性が悪いようで、簡単な命令しか聞きそうにありませんね。」
「ふ〜ん、これ使ってる間って意識ないんだよね?レンのこの魔法があればあんなこともこんなことも思いのままだね〜。」
「フェル揶揄うなよ。そんな良いものじゃないよ。本人の意思とは反対に身体を操っているんだ、聖女の自己治癒力の高さがあるからこんな長時間使ってるけど、普通の人にやったら恐らく解除した後にくる反動でどうなるか分からないからな。無闇には使えないさ。俺のMPも毎分かなりの量消費されてる。この階層のボスを倒したら一旦休憩しないとな。」
「ボス?ボスがいるのかい?」
「はい、俺の記憶が正しければ3階層目からは最奥が少し開けた場所になっていて、そこにフロアボスがいるはずです。そのボスを倒さなければ下には降りられません。
あ、ちょっと光が見えてきましたね。恐らくあそこにボスがいるはずです。」
レオンの予想通り黙々と歩き進めるマリーが部屋に入ると途端に周囲の蝋燭に火が灯され、前方には宙に浮く黒いマントで覆われた骸骨が浮かび上がった。
「ぎゃあああああ!!!!!」
「<女神の斬撃>・・・<女神の斬撃>・・・。」
マリーはレオンの命令通り、ひたすら光魔法を放ち続けていた。
「ナイトメア Lv.30か。物理攻撃は効かないようだけど、レベル4の光魔法でどれだけ耐えられるかな。」
「レオン!彼女は敵にどんどん近づいて行っているようだよ、我々がフォローしなければ!」
「大丈夫ですよ、多分もうすぐ終わりますよ。」
「でも敵の攻撃も彼女に当たっているようじゃないか!」
レオンは正直マリーがどうなろうと気にしていなかった。彼女に対しては何の感情もなく、現状の彼女通り、ただ思うように動く人形程度にしか感じていなかったが、ルークの頼みであれば動かざるを得なかった。
「・・・お兄様はこちらにいてください。フェル、頼んだぞ!」
「はい!お任せあれ!」
レオンは入り口から思い切り地面を蹴飛ばしマリーの元へと飛んだ。
100メートルほど離れた場所にいたマリーを、ナイトメアの攻撃が当たる寸前でレオンが抱き抱え回避することに成功した。
「まあこいつのHPなら当たっても大丈夫そうではあるけどお兄様の命令だしな。よし、俺が抱えて回避するからお前はそのまま攻撃を続けてくれ。」
「<女神の斬撃>・・・<女神の斬撃>・・・」
レオンが回避することで適宜対応することができないマリーの攻撃は当たりづらくなってしまったが、相手の攻撃を一切受けずに攻撃を続ければ時間はかかっても問題なく倒すことは可能だった。
「ぐ、ぎゃあああああ!!!」
ナイトメアの断末魔とともに光の粒となって消えた。
(光魔法だと核ごとモンスターを攻撃しているんだろうか。このキラキラエフェクトはゲーム画面だけでなく現実でも起こるのか。お兄様がこのキラキラに囲まれた絵はさぞ綺麗だろうなぁ・・・)
「レオン、マリー!怪我ない!?」
「お兄様、はい。問題ないですよ。」
「彼女は気を失っているのか?」
「MPが切れたようです。MP回復薬を使って回復させましょう。」
レオンは気絶しているマリーを叩き起こすように地面に置いて体を揺すろうとしたが、ルークはそれを止めた。
「レオン、彼女が自然に目を覚ますまで待とう。」
「お兄様がそう言うなら・・・。」
「あ、じゃあ私お茶淹れますねー!レン、闇空間に入れといたからティーセット出して!あと火を焚いて!」
「はいはい。全くフェルが俺の従者なのに・・・」
レオンはぶつぶつと文句を言いながらもフェルの指示に従い、ルークが休めるよう辺りの岩を使って椅子と机も用意した。
ルークはレオンの用意した椅子に腰掛け、黙って2人のやり取りを見つめながら思った。
(レオンはとても強くて優しい弟だ。私のために戦ってくれている。なのに私はどうしてだろうか、君のことが時折とても恐ろしくてたまらなくなるよ・・・)




