第66話 主人公の恋
マリーの水晶の内容を定期的に修正しつつ、レオンの好感度のみを常に最大値として表示させている弊害によりレオンにとっては望まない密会を過ごす日々を過ごすこととなった。
「マリー!流石にこんなに毎日会っていては誰かにバレるだろ。」
「だって、私もっとレオン様とお話ししたいんですもの。」
レオンと約束した翌日すぐにマリーはクリス達に自分は騎士団の癒しに専念し光魔法を上げることを宣言した。共に過ごしたいと考えている彼らも当初は反対したが、マリーが自分を守るために力をつけて欲しいと涙目で迫ったことで、彼らは競い合うようにモンスター討伐を繰り返すようになった。ゲームのシナリオでいけばマリーが彼らのステータスを確認しながらスキルポイントを振り分けるのだが、マリーはその助言すらやらなかった。
レオンは定期的にマリーやクリス達を影の中から鑑定しステータスを確認しては偽の水晶の内容にも反映させるようにしていたが、ステータスボードの意味が分かった今でも慎重派のジオルドを除きほぼ全員がATK(攻撃力)を特化させる振り分けをしていた。
(まあ攻撃力は大切だから間違いじゃないけど、自分の今のステータスがわからないと不足してるところは補えないよな。ただやはり攻略対象キャラなだけあって3人とも雑魚モンスターしかやってないくせにどんどんレベル上がってるし、伸び幅もすごいな・・・ただ、これはちょっと予想外だったな。)
マリーも嫌々ではあるが騎士団の者達から<聖女>と称えられることが嬉しいのか、毎日毎日ヒールを繰り返し、あっという間に光魔法レベル4まで到達していた。が、一方で宣言通り一切のモンスター狩りをやめてしまった。そのためマリーはいまだにレベルが5のままで、本来レベル10で発生する時の女神とのイベントを行う素振りが見られなかった。
(騎士団に行きつつもう少しクリス達との交流も維持して好感度上げをしていくと思ったんだが、こんなに俺に全振りするとは・・・)
レオンも当初はルークを連れてレベル上げに繰り出していたが、ルークの指示で騎士役をフェルに嫌々譲り、ほぼ毎日マリーの監視に徹する日々を送ることになっていた。マリーはレオンが言った通りフェルを見つけては声をかけ、夜な夜なレオンとの密会を楽しむようになった。マリーにとっては恋人に会いたいという気持ちからの行動だったが、レオンにとっては苦痛でしかなかった。
(あーーー、昼もこいつらの監視でお兄様のそばにいられなくて、夜もこいつから呼び出されてお兄様との時間を奪われるとか、いい加減切れそうなんだが・・・)
「だってレオン様、マリーもう光魔法レベル4になったんですよ!すごいでしょ?」
「あ、ああ。騎士団の人達もマリーのおかげで助かってるみたいだな。」
「だ、か、らぁ。ね、ご褒美ください・・・」
マリーはそっと目を閉じてレオンの方に顔を上げた。レオンは心の中で盛大にため息を吐きながらマリーの額に口づけをした。
「もうっ!そこじゃないですよ!」
ぷんぷんと怒るマリーの唇にそっと人差し指をあて
「ここはレベル5になったらな。」
と耳元で囁くように言うとマリーは赤面して溶け出す。こんなやり取りがここ最近毎日繰り返させていた。
(ああああ痒い!恥ずか死ぬ!俺様Sキャラのレオンが言いそうなこと考えるだけでも痒くなる!くそっ、光魔法もレベル4になってから流石に上がるのが遅いし、時の女神のスキルもあわよくば複製しておこうと考えていたんだが・・・)
「な、なあマリー。今度俺と一緒に世界樹の入り口に行ってみないか?俺が倒せるレベルのモンスターをギリギリで仕留めるから、モンスターを光魔法で倒せばもっと早くレベル上がらないか?それなら光魔法のレベルもマリー自身のレベルも上がるだろ?」
「モンスターをですか?うーん、それでも良いですけど、マリーあんまりあのジメジメした所行くの好きじゃないなぁ。」
(この女いい加減にしろよ・・・!)
「でもこの場所だと誰に見つかるか分からないだろ?俺はもっとマリーと2人きりに、誰のことも気にせずに会いたいんだが。・・・マリーは違うのか?」
「そんな!マリーだってレオン様に会いたいもん!分かったわ、レオン様がマリーのこと守ってくれるって信じてるし、一緒に行きましょう。」
「ああ、じゃあ明日のこの時間でどうだ?昼間はクリス達と遭遇する可能性があるから、疲れてるところ悪いんだが。」
「大丈夫です。最近は騎士団の人たちの怪我も全部治しきってきちゃったから、マリー元気なので!」
「よし、じゃあ明日な。」
すぐさま立ち去ろうとするレオンの服をマリーは掴む。
「レオン様!おやすみなさいの・・・」
「おやすみ。」
レオンが額に口づけをしてマリーの頭をポンと撫でて立ち去る。これもいつものお決まりのパターンだった。
心労によりヘトヘトになりながらレオンが部屋に戻るとルークが待っていた。
「お兄様!まだ起きてらしたんですね。」
いつもならマリーとのやり取りを終えて部屋に戻るとルークの部屋の明かりが消えており、レオンはしょんぼりとしながら自室に戻って寝ていたのだが、今日はレオンの部屋にルークがいたのだ。レオンは尻尾を振ってルークに駆け寄った。
「うん、ちょっと気になることがあってね。・・・明日マリーと共にレベル上げに行くんだね?」
「はい。光魔法のレベルも4までは一気に上がりましたが、そこから伸び悩んでいるみたいですし、まだ彼女のレベルは5のまま。あまりレベルを上げすぎるのも後々面倒になりそうではありますが、俺の記憶が正しければレベル10になった状態で神殿で祈りを捧げると時の女神が現れるはずなんです。」
「私も前に試したやつだね?」
「はい。お兄様には残念ながら現れませんでしたが、あれはゲームの進行上必要なスキル付与だったので、主人公以外には付与されないのかもしれません。
時の女神が付与してくれるのは転移と収納のスキル。今の俺であればどちらも似たような魔法が使えはしますが、転移魔法は俺の闇魔法とは異なり影の中を蔦って行くのではなく、世界樹の入り口のドアのようなもので、瞬時に移動ができますし、複数人の移動も可能になります。得られるのであれば複製しておきたいスキルですね。」
「そうか。・・・レオン、ひとつ頼みがあるんだが。」
「え?」
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