第64話 お兄様の提案は絶対
「マリー、俺のことを本当に不気味だと思わないのか?」
「もちろんですレオン様!私は、私だけは本当にあなたの味方です。」
「お前は俺を裏切らないか?」
「私は絶対に貴方を裏切ったりしない!」
「・・・ありがとう。」
中庭に広がる庭園の真ん中。月夜に輝く噴水の前でレオンがマリーを抱きしめると、マリーも身を任せ、レオンの肩に腕を回した。
(あああああああああなんで俺が、こんな女に!!くそっ。)
♢
遡ること1日前、レオンはルークにある提案を受けていた。最もルークからの提案をレオンが否定・拒むことはないため提案と言う名の命令だ。
「これがマリーの部屋から盗んできた水晶?何も映らないけど、これで自分のステータスやレオン達のステータスがわかるんだよね?」
「はい。多分主人公のマリー以外には映らないんだと思います。」
「レオンにはどういう形で映るか分かるかい?」
「はい。自分のステータス、そして攻略対象者4人のステータスおよび自分に対する好感度が分かります。デザインは俺が見えるステータスボードと同じだったはずです。」
「なるほど・・・。ではこれをもう1つ作ろう。水晶に魔力を流せば投影できる、それだけの仕組みであれば難しいことではない。」
「え?ですが何のために?」
ルークはにっこりと笑った。
「聖女は我が国がいただこう。」
「え?いや、それは」
「彼女はレオンに少なからず好意を寄せている。これは間違いない。私はこれでも観察能力だけは高いんだ。」
「・・・仮に彼女が俺に好意を持っているとしても今回は彼女達と俺達は敵同士ですよ?」
「世界樹の穢れを祓うのは私たちがやる。でも聖女は敵ではないよ。」
レオンが首を傾げていると、ルークは続けた。
「レオン、私はね、帝国を1つにまとめるというクリストファーの考えは間違っていないと思う。4つの国が協力して帝国の繁栄に力を注ぐなんて、表面的な話だ。現実問題、帝国内の食糧の8割はデュメエル公国産だ。気金属類の鉱山を保有する西、研究者を大勢抱える東はこのままでも問題ないだろう。だが我が国の<武力>という商材はどうだろう?貧しい土地に年々領民が減っていっている。残るのは各国から流れてきた荒くれ者ばかり。このままでは遅かれ早かれ我が国は立ち行かなくなるだろう。
そう遠くない内に我が国は他国に吸収され、最終的にはデュメエル公国によって全ての国が吸収されざるおえない状況になると思う。」
「・・・聖女を他国に渡すとその危険が早まるということですね。」
「そう。我が国に聖女が来ることもメリットではあるが、むしろ他国に渡った際の危険性の方が怖いからね。
ジオルドと協力して我が国で得られるモンスターの素材を元にしたマジックアイテム開発に力を注いできたが、これを成功させるためにも東国との国境が難題だ。帝国が1つにまとまれば今みたいに中心都市を通らなければ他国へ行けない、ということも無くなるからね。」
「でもそれ水晶とどう関係が?」
ルークは水晶を持ち上げ、また天使の笑顔でにっこりと笑った。
「レオンの好感度が高いと思わせよう。」
ルークは言葉通り同じサイズの水晶を街で探して用意するとすぐに魔法陣を描きレオンにデザインを確認しながら作業に取り掛かった。これまでジオルドが担当していたという魔力による物体への魔法定着等についてはレオンが担当し、初めて2人の共同作業によるマジックアイテムが完成した。
そしてレオンが闇影人形を通してマリーが部屋にいないことを確認し、偽物のただ魔力を送ると決まった画面が表示される投影魔法の施された水晶を置き、マリーが確認するまで影に潜んでいた。
「えー、今日のスライム狩りってあんなに頑張ったのにステータス変わってない!!もうーやだー!疲れたしスライム付いてキモいし、あーもう世界樹に行くまでこれ続くとか本当やだー!・・・あれ?え、え、え!何でレオンの好感度爆上がりしてんの!やば!何にときめいたんだろ?洞窟で謝ったのが良かったのかな?レオンってやっぱドS?やーん私もMだから嬉しいー!」
(・・・水晶の入れ替えは問題なさそうだな。)
影移動でマリーの部屋からルークの部屋まで移動し、問題なかった旨を告げると、ルークから次の作戦が告げられた。それは『マリーに本当にレオンが気があると思わせること』だった。
「レオンの話を踏まえると、本来なら世界樹の穢れを祓うために聖女は相手を1人選び、確実にその者と結ばれる、ということだよね?」
「はい。第二弾として祓った後のストーリーもあるようでしたが、俺の知る限りではそうですね。なので、俺たちが世界樹の穢れを祓うということも、聖女が複数の相手と穢れを祓うということも本来はシナリオとは異なる動きをしているので、現状では誰が選ばれるのか分かりません。」
「うん。だからね、選ばれるんじゃなくて選ばせない?」
「え?」




