第61話 強制力の可能性
「紅茶新しく淹れ直しますね〜。」
フェルが鼻歌混じりに動き出す頃には、レオンの涙も止まったがルークは変わらずレオンを抱きしめ頭を撫で続けていた。
「お、お兄様、取り乱してすみませんでした。もう大丈夫なので・・・。」
「ん?もういいのかい?好きなだけ甘えて構わないんだよ?」
(ぐ、ぐぅ、お兄様の顔面国宝が天から降り注ぐだけで有り難くて涙がまた出そう・・・)
「レオン様って本当にルーク様の前では赤ちゃんみたいですね〜。フェルの前でも少しくらいその可愛げを見せてくれてもいいのに。」
ルークの笑顔に揺らぐ心を現実に戻したのはフェルの存在だった。
「うるさいっ!いつも気張ってるからか、昔からの癖でお兄様の前だと涙腺が緩むんだよ!」
「ふふふ、これからは気兼ねなく学校内でもそばにいられるからね、何かあればいつでもおいで。」
「お、お兄様ももう甘やかさないでくださいっ!」
ルークに頭を撫でられて耳まで赤く染まるレオンをフェルがニヤニヤと見ていると、レオンは立ち上がり本題に戻した。
「ゴホンッ。えっとですね、お兄様もいらっしゃるので、俺の知る限りの今後の展開について共有したいと思います。ただ、これが本当になるかは分かりませんし、あくまでも俺の想像です。でも、警戒しておくに越したことはないと考えています。」
レオンはルークとフェルに各攻略対象者クリス、ユリウス、ジオルドのレオンを除く3名それぞれとのハッピーエンドとバッドエンドルートを説明した。
「・・・なるほど。確かにマリーの光属性の魔法は私とは異なり既に膨大な魔力が備わっているからね。恐らくこのままレベル上げをしていけばMAXレベル5の光魔法も容易に扱うことができるようになるだろう。そうすれば彼女を迎え入れた国は一気に4カ国の中で強い力を得ることになるだろう。」
「はい。一番気をつけなければならないのは現状4カ国の中で最も肥沃な土地を有しているクリスのデュメル公国ですね。あの馬鹿王子は本気で帝国を1つの国にまとめたいと望んでいるようなので、今は後押しする者も少ないですが聖女が味方につくとどうなるか分かりません。」
「そうだね、ユリウスとジオルドがマリーと結婚することになるのも痛いが、公国を潰せるほどの力は聖女の力を持ってしても急には生まれないだろう。だがどちらも我がアレース公国の隣接する国。聖女がいる国は世界樹同様に加護が働いてモンスターが現れなくなるという噂もあるからね、他国へ武力を売りにしている我が国にとっては少なからず痛手になることは間違いないね。」
「そうなんです。一番良いのは彼女が誰とも結ばれず、帝国の教会本部にいることですが、恐らく彼女も俺と同じ前世の記憶持ちだと思います。彼女の性格上教会本部で大人しく聖女をやるなんてあり得ないですね。」
「それは本当かい!?・・・いや、レオンがそう言うなら本当だろうね。ならばこちらの動きも予想されると言うことになるのかな?」
「いえ、予想は難しいはずです。」
レオンがあまりにもキッパリと断言するため、ルークは少し驚いた表情を見せた。
「なぜ言い切れるんだい?」
「俺はそもそも本来は彼らと同じようにマリーに惹かれるべき存在です。確かに彼女に対して外見が可愛いという印象を持ちはしますが、それ以上でも以下でもありません。むしろ媚びる女は嫌いなので、どちらかと言えば彼女に対しては悪い印象ですね。
つまり俺はゲームのシナリオに沿った行動をしていないバグ、おかしな存在なんです。ゲーム通りでいくのならば、本来俺はエマのことも、エマの処刑を止めなかった兄を恨んでこんな風に話すこともあり得ません。でもエマも無事、お兄様のことを崇拝している俺が恨むなんてもってのほかです。そのことを踏まえるとゲームの強制力は俺が思っている以上に弱いのかもしれません。行動次第でどうにかなる、と言うことですね。」
ルークはレオンの言葉で、レオンの予想するゲームのシナリオにおける強制力が少なからず働いていることを確信した。エマはルークが保護し細心の注意を払っていたにも関わらず、死んでしまった。ゲームのシナリオとは異なる形だが、エマが死に、エマの死を止められなかった兄を恨むと言うことは今の現状でもあり得なくない。
「・・・そうか。でもレオンが言うように何が起こるか分からない。少し、考えをまとめたいからまた明日話そうか。」
「そうですね、遅くまで話し込んでしまってすみませんでした。」
「いや、久しぶりにレオンと話ができて嬉しかったよ。これからは毎日話せるからね、今日はゆっくり休むんだよ。おやすみ。フェルも、おやすみ。」
「お兄様もゆっくりおやすみください。」
「ルーク様、おやすみなさいませ。」
2人に見送られる形で、ルークは隣の自室へと戻って行った。
いつ言うか考えていたことが考えもまとまらないうちに話すことになって混乱したレオンではあったが、その心はスッと軽くなった気がした。
「はー、よし!寝ようか。」
「ふふふ、抱きしめてあげようか〜?」
「・・・お前は自分のベッドで寝ろ!」
「やーん。ごめんってレン〜、一緒に寝よう〜。」
隣の部屋から聞こえてくる騒がしい2人の声にルークもいつもよりベッドがあったかくなるのを感じた。
(エマのことはレオンの心に負担をかけるだけだ。ゲームのシナリオ通りに行くのであれば、さて、彼女をどう動かそうかな。)
ルークはチェスの手を考えるように、一つひとつのパターンにおいて何手先も読み最善手を模索しながら眠りについた。




