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第60話 前世の記憶

 マリーは部屋の中で苛立ちを露わにしながら水晶を見ては何かを呟いていた。

(あれは・・・。なるほど、ゲームの設定通りなのか。)


 レオンはすぐにその水晶でマリーが何をしているか分かった。

 それはゲームの進行上最も大切な役割を果たす【鑑定の水晶】。聖女であると言うことが判明し魔法学校へ向かう主人公に育ての親である神父様がお守りの道具としてくれるものとなっている。これを使ってゲーム内の各キャラのステータスや好感度のパラメーターがどうなっているのかなどが判別できるのだ。


(ゲームでは俺の鑑定スキルと同じようなステータスの確認ができるものだったが、現実世界であれがどこまでの威力を持っているのか気になるとこだが・・・)


「くそっくそっくそ!!」

 レオンはマリーが壁に枕や筆記用具を投げつけている姿を見て、彼女の本当の姿が主人公マリーそのものの性格でないことに安心した。ゲームの設定ではプレイヤーである自分を投影するキャラクターが主人公ヒロインマリーだが、主人公は何をされても攻略対象者達を疑うことなく純真無垢な存在。自動展開していくストーリ上で彼女の言動を見ていても、こんなに人を信じる人なんていないだろう、と素直に好きにはなれないキャラクターではあったが、それでも思い入れがないと言ったら嘘になる。

 もし彼女が何の策も無しに、本当にゲームのキャラクター通りの性格で悪気がなく今までの行為を行なってきていたとしたら、これからレオンが彼女に対してする行為に心を痛めていたかもしれない。


(とりあえずマリーは引き続き要監視だな。<闇影人形ダークシャドウドール>)


 レオンは呪文を唱え、マリーの部屋にある影内に自分の分身を生み出した。闇影人形が発生している間は、レオンの魔力も一定数奪うが、その間人形とレオンは繋がっているため人形を通して部屋の中を見たり音を拾うことができる。



 人形を設置し終え、レオンがフェルの待つ部屋へと戻ると、フェルはゲートのそばに座っていた。

「レン、おかえり!どこに行ってたの?」

「なんだ、こんなとこで待っていなくても良かったのに。マリーの部屋に俺の分身を置いてきたんだ。」

「え、あの女の?・・・レンもあの女が気になるの?」

「気になると言えばそうだけど、フェルが考えているようなことじゃないよ。」

「本当?あの女、とても良い香りがする。不思議な感じ。」

「・・・匂い?感じたことはなかったけど、そうか、人を惹きつけられるような主人公補正なのかもな。」

主人公ヒロイン?」

 フェルがキョトンとした顔でレオンを見上げると、レオンはフェルの頭を撫で、椅子に座って話し始めた。


「フェルには複製スキルをもらったり、闇の女神様と会わせてもらったり、恩があるからな。お前には何でも話しておきたい。」

「私もレンにたくさん助けてもらってる。レンのおかげで幸せだよ。」

「ありがとう。」

 レオンの手に擦り寄るようにフェルが頭を寄せてくるのをレオンは優しく包み返した。


「・・・ルークお兄様にもいつか話そうかと思っているんだが、俺には前世の記憶があるんだ。前世で俺は立花 光って言う何をやってもダメな女だった。家族からも嫌われて、友達も1人もいなかったよ。

 妹が1人いたんだけど、彼女は今のマリーのような存在で、俺は彼女のために朝から晩まで働いて、最後も彼女の代わりに死んだんだ。」

 レオンが急に始めた突拍子もない話をフェルは一切疑う素振りもなく、じっとレオンを見つめていた。


「その事に気がついたのは5歳の時。クラリウス家の執事に殺されかけて思い出したんだ。そして、この世界は俺が前世でやっていたゲームの世界に酷く似ている。ゲームの世界の俺もこの学校に通い、彼女に出会って恋に落ちるんだ。そして彼女のためにルークお兄様までも危険に晒す。俺はそんなこと絶対にしたくない。俺は俺のために命をかけて守ってくれる、お兄様の想いに応えるため、お兄様のために生きたいんだ。」

「・・・んーレンの言う通りそのげえむ?に似てるとしても、レンが今やってることと変わらないんじゃないの?ルーク様のために今だって頑張ってるじゃん。」

「それはその通りなんだが、もしこの世界がゲームのシナリオ通りに動くとすると」

「何か困ることがあるんだね。」

「ッ!ルークお兄様!」

「盗み聞きするつもりはなかったんだけど、レオンの様子がおかしかったから気になってね。無作法な真似をしてごめんね。」


 ルークはレオンの様子が気になり、少しでも彼の気持ちが晴れるよう紅茶を淹れて部屋を訪ねてきていたのだ。ドアをノックしようとした際に丁度レオンがフェルに自分の前世について語り始めたため、そのままドアの前で聞いていたのだった。


「いえ、いつかは話そうと思っていたので。俺の方こそ、隠していてすみませんでした。」

「レオンは何も悪くないよ。言えないことを抱えているのは辛かったよね。幼いレオンの変化を気付いてやれなくてごめんね。」

「お兄様、信じてくださるんですね・・・。」

 レオンはルークが自分のことを思ってくれたこともだが、何よりもこんな意味の分からない話をフェル同様に一切疑うことなく信じてくれる2人の信頼が嬉しかった。


「信じるも何も、レオンが私に嘘を言うはずないだろ?それに、むしろやっとスッキリしたんだ。どうしてレオンがこんな私のために一生懸命になってくれるのかって、ずっと不思議だった。私がレオンにしてやったことなんて数えるほどしかないのに、きっとそのゲームとやらの私は、レオンにとって大切な存在なんだね。」

「それは違いますっ!確かに、ゲームの中でもお兄様はいつも優しくて素敵で輝いていましたが・・・。

 ゲームの中では俺はあの毒を飲んで生死の境を彷徨います。そしてその罪に問われ、エマは処刑。信頼していたエマに殺されかけたこと、そしてそれがお兄様を当主にするために仕組まれたことだったと知り、俺はお兄様も恨むようになります。ゲームのシナリオには、それぞれ主人公であるマリーと結ばれるハッピーエンドとバッドエンドがあって、それぞれのルートで、その・・・俺のせいでお兄様はお辛い目に遭うことになるのですが、それでも嫌な顔せずに最期まで笑顔でそばにいてくださいました。

 初めは仰る通りお兄様に対してゲームのルーク=クラリウスを重ね心酔していたのは本当です。でも今は、それ以上に今の俺自身が、シナリオにはないお兄様の愛を受け、お兄様のために尽くしたいと思うようになったのです!」


 ルークは持っていたティーセットを机に置くと、そっとレオンを抱きしめた。


「疑うようなことを言ってすまない。レオンに謝ってばかりの兄を許しておくれ。

 レオンの知っているゲームの中の私がどんな人間なのかは分からないが、それでもレオンの支えになっているならば嬉しい。そして私はそんなゲームの中の私に負けないくらいに、私もレオンのそばにいると誓うよ。何があってもね。」



 レオンはルークの腰に腕を回し、いつものようにルークの腕の中で声をあげて泣いた。

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