第58話 攻略対象者やめます
「レオン!た、大変だよー!部屋に知らない人たちがいっぱい来て荷物持ってちゃったの!!」
レオンが校長室から寮に向かって歩いていると、フェルが駆け寄ってきた。
(早いな。何か魔法で伝達したのか。今まで鑑定スキルも検知されると面倒だと思って使って来なかったが、次からは校長のステータスも覗いてみるか。)
「ああ、俺が頼んだんだ。これからはお兄様と隣の部屋になったぞ!それに面倒な授業も免除だ!」
「えっ、本当ですか〜!それはいいですね〜。あれ、でもどうして急に?」
「ああそれは」
「世界樹の汚れを祓いに行くんだとな。」
「え?」
振り返ると、ジオルドが怪訝そうな顔で眼鏡を押さえて立っていた。そしてその後ろにはマリーがいる。
「私は言ったはずだぞ、ルークのためにマリー嬢に協力しろと!それがどうして対立することになっているんだ!」
「・・・あいつらがいても足手まといなだけですよ。俺と兄様の力があれば十分ですから。」
「私はルークの友として、補佐として彼をずっと傍で見てきたから分かる。ルークに穢れを祓うことは無理だ。ましては貴様は知らないかも知れんが、世界樹に辿り着くまでには領地内に生息するモンスターなど比じゃないレベルのモンスターが襲ってくるのだ。世界樹に辿り着く前に、君たちは死んでしまう!
いいな、レオン。ルークのためにも彼らに頭を下げるんだ!」
「どうされたんですか、ジオルド様らしくありませんよ、そんなに感情を表に出すなんて。さては後ろの女に頼まれましたか?」
「き、貴様、聖女を馬鹿にするとは!!彼女は君のために涙を流していたんだぞ!盟約も彼女が彼らに頼み取り下げると言っていた。謝るなら今の内だ!」
常に冷静沈着と称されるジオルドがここまで大きな声を出すのは、ゲーム上でもバッドエンディングで主人公と親友を刺し殺して泣き叫ぶシーン以外では見たことがなかった。
「・・・なんと言われようと俺は兄と世界樹に向かいます。ジオルド様も一緒に、と思っていましたがその様子では無理のようですね。ジオルド様の国と俺たちの国は隣り合っていますから、盟約に名前を足していただいても構いませんよ。まあ、東の国の一部をもらったところであまり需要はありませんけど。」
「貴様・・・そう言うのならば私も彼らにつくとしよう。悪く思わないでくれ、私は勝ち目のない勝負はしないんだ。」
「ご自由にどうぞ。」
「チッ・・・おい、これがルークの部屋の鍵だ。ルークは中央の塔の中にいる。」
「どうも。」
「待ってください!レオン様、私なら貴方の心の傷に寄り添えます!どうか貴方の悩みを私にも分けてください。」
立ち去ろうとするレオンに向かってマリーは後ろから抱きしめた。レオンがマリーを見ると、大きな瞳を潤ませ、上目遣いでレオンを見つめていた。
「まだお会いして間もないですが、私レオン様ともっとお話がしてみたいです。その美しい髪、瞳。私ならきっとレオン様の良き理解者になれると思います。」
「・・・あのさ、邪魔。俺あんたみたいな自分のこと可愛いと思ってる女、嫌いだから。」
「え?」
「あんたの行動に興味があったから今まで何も言わなかったけど、人の体にベタベタ触んじゃんねぇよ。」
レオンが怒りのままに睨みつけると、マリーはレオンから手を離しその場にしゃがみ込んでしまった。呆然としているマリーやジオルドが何かを言っていても、一切レオンが振り向くことはなかった。
ジオルドがここに来たのは校長からの伝達を受け、レオンにルークの部屋の鍵を渡しに来たためだった。そしてそこまでの道中マリーに遭遇。泣きつかれ、彼は少なからず好意を寄せていた彼女がレオンのせいで心を痛めていることに憤慨したのだ。
マリーとしてはジオルド経由でルークを手駒に入れることでレオンを手中に収めるはずだったが、ジオルドはマリーの予想とは反して感情を露わにレオンに噛み付いてしまった。
ジオルドはレオンに鍵を渡した後すぐにマリー達の待つ校長室に行き、自分もマリーの力になること、気持ちが本気であることを示すためと言い盟約に署名も行った。
「ルークは親友だが、はっきり言おう。彼は剣を振るうこともままならないし、仮にレオンの力で世界樹まで辿り着いたとしても浄化することは無理だ。そんな魔力は彼にはない。ここ数年彼とともに光魔法の研究をし続けてきたが、彼は一向にヒール以外は覚えられないと言っていた。」
「なんだ、やっぱり無理じゃん。マリーちゃん、もうあんな奴は放っておこう?」
「ああ、私たちは私たちで世界樹に向かうための準備を進めようじゃないか!」
「・・・そうですね。皆さん、一緒に頑張りましょう!」
こうしてマリーを筆頭とした攻略対象者3人及び騎士1人の5人組と、レオン、ルーク、フェルの3人は敵対する形となった。
マリー達が各自の現状を把握する作業に入る最中、レオンはルークの部屋があるという中央の塔に到着した。中央の塔は研究室や教師陣の部屋の奥にあるため一般の生徒は近づくことすら叶わず、レオンはルークが置かれていた環境を見て心を痛めた。
「くそっ、光属性にしたのは本当に俺の失態だ・・・。」
「・・・その声はレオンかい?」
「お兄様!!今、鍵を開けますから、お待ちください!」
ジオルドに渡された鍵で扉を開けると、そこには弱々しくも紛れもない最愛の兄、ルークの姿があった。
「お兄様・・・ご体調が優れないのですか?」
「いや、魔力が回復している間はあまり気分が優れないんだ。会いに来てくれたのかい?こんな姿で申し訳ないな。」
「そんな!お兄様にお会いできただけで俺は幸せです!これからは俺がお兄様の騎士としてお側にお仕えしますので、なんでも言ってください!」
「え、レオンが?ジオルドはどうしたんだい?」
「それは・・・」
レオンが口籠ると、ルークはレオンの頭を優しく包み込んだ。
「何かあったんだね。大丈夫、私は何があってもレオンの味方だから。」
「お兄様・・・!」
「よしよし。」
レオンはルークにマリーという聖女を筆頭とした各国の王子達と相対することになったこと、そこにジオルドも加わったこと、そして彼らよりも先にルークとともに世界樹の穢れを祓いに行かなければならないことを伝えた。
「勝手なことをして申し訳ありません。お兄様のお体にもご負担が・・・」
「明日までには魔力は回復するから大丈夫だよ。それに盟約の条件はむしろ私たちにとって良いものじゃないか。それに浄化の件は多分問題ないよ。」
「え?」
レオンがルークを見上げると、ルークはいつものように天使さながらに微笑んだ。




