第53話 攻略対象者ジオルド
そして第一学年が終える頃、期末試験でも首席を維持したレオンは、問題なく第二学年へと進学した。
「お兄様!!!」
「レオン、やっと会えたね。前期の試験も後期の試験も首席だったんだってね!本当にレオンは自慢の弟だ。」
学期末に毎年行われるという全学年合同のパーティで、ようやくレオンはルークと再会することが叶った。
「俺、ずっとお兄様に会いたくて上級生のいる建物に行ったのですが、お兄様にお会いできなくて。」
「ああ、それは悪いことをしてしまったね。
実はね、私は光の女神の加護で光属性になっただろう?光属性持ちは回復魔法が使えると言うことで、度々騎士団のサポートに呼び出されているんだ。私はMPが少ないからね、一度に大勢の人を治療することは叶わないから、授業は免除され、そちらに尽力しているんだよ。」
「そうだったのですか・・・。あの俺も手伝いますか?俺の複製スキルがあれば」
「シッ!そのことは言ってはいけないよ。約束しただろう?気持ちだけ受け取っておくよ。」
ルークは旅立ちの際、レオンに自身の属性以外を人前で使わないことと約束をさせた。それはレオンの聞いたこともない複製スキルの情報漏洩を防ぐためであった。
「でも俺お兄様に会えると思ってこの学校に進学したのに・・・。」
「ふふっ、レオンは大きくなっても甘えん坊だね。私は本来は今年で卒業だが、騎士団のサポートがあるためこのまま学校に残ることになっている。二学年になれば上級生の建物での授業だから、私も時間ができたらレオンに会いに行くよ。」
「本当ですか?絶対絶対ですよ?」
「おい、それがルークが言っていた弟か?まるで犬のようではないか。」
「・・・あ?」
(ゲッ、このメガネは・・・)
「ふふっ、ジオルド、弟をいじめないでやってくれ。こんな出来の悪い兄を慕ってくれる可愛い弟なんだから。」
「ルークの話では美しくも逞しく、頭も良い。才色兼備の人間と聞いていたのだが?」
「綺麗じゃないか!この漆黒の髪と瞳、まるで夜の海を飲み込んだようだろう?それに前期も後期も首席だったんだ、君と同じじゃないか。
レオン、紹介するね、彼はジオルド=ローゼンベルク。私の一番の友人だよ。卒業が遅れたからリンを公国に帰して今は彼が私のサポートをしてくれているんだ。」
「・・・ジオルドだ。ルークから君の話は嫌と言うほど聞いている。一学年は基礎の基礎。調子に乗ると痛い目見るからな。油断せずに励めよ。」
レオンはジオルドから差し出された手を力を込めて握り締めた。
「これはこれは東のメティス公国の第三王子様にお目にかかれるとは光栄ですね。私がいるのでお兄様のサポートはなるべく私に振っていただいて構いませんよ。ジオルド様ほど頭は良くないかも知れませんが、剣と魔法の実技試験でも首席でしたので、お力になれるかと。」
「グッ、ま、まぁ機会があれば声をかけてやろう。」
「ふふふ、2人とも仲良くなったようで良かった。」
(こいつは年上キャラだと思っていたがまさかお兄様と同学年だったとは・・・)
ジオルド=ローゼンベルク。アースガルド帝国内の東に位置するメティス公国の第三王子。
帝国内は南のデュメエル公国が圧倒的な広さと豊穣な土地を有している反面、次いで領土は広いが極寒の地で植物の育ちにくい北のアレース公国、そしてその2つの大国に挟まれるように存在する東と西の公国は、帝国内でも力が弱いとされている。特に東のメティス公国は西の商業国家であるヘルメス公国とは異なり、特出すべき点がなく、年々その力は弱まっていると噂されていた。
そんな母国を救うために立ち上がったのが、公国始まって以来の天才と称されたジオルドだった。ジオルドはわずか3歳で言葉をマスターし、レベル上げで得られる女神の加護が能力に関係していると発見したのも彼だった。レオンがやらなければステータスボード内の値の意味の解明は全て彼が鑑定士とタッグを組んで行っていただろう。鑑定スキル持ちでないにも関わらず彼はそういったことができる人間なのだ。
(ジオルドは生まれながらにその才能によって国のために働くことを余儀なくされ、毎日勉強に明け暮れていたんだよな。ヒロインに出会うことで少しずつ世界が広まり、ハッピーエンドでは光属性の力を糧にメティス公国は力をつける。バッドエンドではヒロインに裏切られたと誤解したジオルドは嫉妬に狂ってヒロインを刺し殺すんだっけ。確かそのあとは・・・そうだ、止めに入った親友も刺し殺して自分も首を切って死ぬんじゃなかったっけ。え、この親友ってまさか・・・)
「あ、あの、ジオルド様は他に仲良くされているご友人とかっていらっしゃいいますか?」
「友人などルーク1人いれば十分だろう。何を言っているんだ、君は。」
「そうですか・・・。」
(はい決まりー。ジオルドルートに入ったらヒロインとハッピーエンドにさせないとだ。お兄様はきっと心が天使のように優しいから、止めに入るし止めに入らなかったら自分を絶対責めて苦しむ・・・くそー、ジオルドルートも面倒だな。)
「じゃあ私たちはそろそろ行かないと。顔を見られて良かったよ。」
「え、もう行ってしまうのですか!」
「ルークは聖人として騎士団以外からも要請がかかっているんだ。」
「ごめんねレオン。なるべく会いに行くからね。またね。」
「はい、また!」
ジオルドとの遭遇もあり、ルークとの久々の再会はあっという間に終わってしまった。




