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第52話 攻略対象者クリス

「貴様、王子に向かってお前とは、無礼ではないか!」

「よせロバート。この学校では身分は関係ない。彼と私は対等な同級生だよ。

 私の従者が失礼したね。彼はロバート。私は」

「南の大国デュメエル公国第一王子、クリストファー・ジョン・アルベイル様。ですね?」

「・・・私のことを知ってくれていたとは、光栄だな。」

「もちろん大国の王子様が同級生にいらっしゃることは、知らない者はいませんよ。」

(今の今まで忘れてたけどね!)


「そうか。私は君のことを誤解していたようだ。私はこの学校で魔法はもちろん、剣の力、そして国を統治できる力を学びにきている。今回は残念ながら君が首席だったが、次は負けないよ。これからは気軽に私のことはクリスと呼んでくれ。」

 クリスは爽やかな笑顔で右手をレオンに出した。


 レオンにとってこの王子はあまり関わりたくない相手だった。なぜならばこの王子は攻略対象者の1人。正義感に溢れ、曲がったことが大嫌い。その一方でそんな主人の思いを叶えるために陰ながら従者のロバートが彼の願いを邪魔しようとする者を処分しているのだ。

 クリスは国民全員が平等に笑って過ごせる世界を目指しているやや天然気味のお花畑脳の王子。そのビジュアルや人気声優を起用したCVキャラクターボイスからも1番の人気キャラクターではあったが、現実を見ずにこうなりたいああしたいという希望だけを言えば、それが彼の知らないところでロバートがいかに駆け回っているかも知らずに叶うのだから、ゲームの時からいけすかないキャラクターだと思っていた。

 最もゲーム内においてはクリスを攻略対象にすると漏れなくロバートも協力してアイテムを集めてくれたり敵を倒してくれたりと、一番クリアしやすいキャラクターであったのだが。


(確かクリスルートのハッピーエンドは主人公ヒロインの聖女の力とロバートの力もあって、クリスの夢である帝国統一を果たして幸せに暮らしましたって終わりだった。これは俺にとって最悪のバッドエンド。お兄様の公国が亡くなるなんてあり得ないからな。

 バッドエンドだと、クリスのことを傷つけたって言ってロバートが主人公を抹殺するんだっけ。そのことでこれまでもロバートが自分のために数多の人を手にかけていたことが判明し、ロバートもクリスも消息不明になるんだっけかな。ロバート✖️クリスかクリス✖️ロバートかって一時期SNSが盛り上がってたっけ・・・)



「おい、貴様!王子が手を差し出しているのだぞ!何を呆けているんだ!!」

「あ、ああ悪い悪い。ちょっと考え事してたわ。俺はアレース公国第二王子、レオン=クラリウス。レオンでいいや。よろしくな。」

「うん、レオン、君とはきっと良いライバルになれると思う!よろしくね!」


 ロバートは不服そうな顔をしながら、気の抜ける笑顔を振りまく王子に付き添い、教室から出て行った。


(は〜、そっか。お兄様に会うことばかり考えてたけどここは『キミコイ』の舞台だもんな。そりゃ攻略対象いるよな。そうすると、北の俺、南のクリス。後は西と東か。レオンでの生活が体に染み付いたからか、前世の光の記憶が薄まってるんだよな。なるべく攻略対象達には関わりたくないけど、さて、どこで遭遇するかな・・・。

 とりあえずゲームのシナリオ通りに事が進むんだとしたら、クリスとのハッピーエンドルートだけは何が何でも阻止しないといけないな・・・。不本意だが、クリスとは仲良くしておくか。)



 レオンとクリスは同学年だがクラスが異なっていたため前期は出会うことがなかったが、後期からは成績順でクラスが振られたため首席・次席として共に授業を受けるようになった。ロバートは頑なにレオンの存在を否定していたが、ロバートの思いとは逆にクラスメイトとして仲を深めていくレオンの存在を認めざるを得なくなっていった。


「ロバート!お前も同じクラスメイトなんだからさ、もっと気楽にやろうぜ。」

「俺はお前のような軟派者とは違う!たまたま王子と同い年だったため、より王子の近くにいられるよう従者ではなく生徒として入学したのだ。全く、なぜノートもまともに取らないお前が首席なのだ!」

「こらロバート。レオンはきっと陰ながら努力しているのさ。魔法も剣の腕も私たちより上。レオンはとっても努力家なんだね。私たちも負けないように頑張ろうじゃないか!」


 ロバートは従者でありながら魔法学校に入学し、同じクラスメイトとして常にクリスのそばにいた。騎士の家系にあるためか、いかに自分の勉学が大変であろうとクリスのために先んじて教材に目を通し、不出来な部分は快く思っていないレオンにも頭を下げられる彼を、レオンは素直に感心していた。


(ちょっと真面目過ぎるけど、ロバートのような従者が得られたクリスは幸せ者だな。)



「レオン様、お昼ご飯いかがいたしますか?」

「あ、じゃあ俺はフェルと昼食べて来るから。」

(まぁ俺にもこんなに可愛い従者がいるけどね。)


 昼の鐘が鳴る頃、フェルがひょこっと顔を出し尻尾をパタパタと揺らす。従者は教室に入ることを許されておらず、安全な校舎内であれば部屋で一日待機させている者もいる。レオンはフェルを授業中は剣の訓練など好きなことができるよう自由にさせ、休み時間には事前に頼んでおいた弁当を食堂で受け取ってから迎えに来るよう命じていた。


「レオン、フェルさんも一緒に私たちと食堂で昼食を取れば良いじゃないか。」

「王子、なりません!ただでさえレオンと共に過ごすことで王子にも良からぬ噂を流す者が増えております。それに加えて奴隷と席を並べるだなんて・・・」

「こらロバート!いつも言っているだろう!私はレオンのような容姿の者とも、フェルさんのような奴隷制度も廃止したいと思っているんだ。この学校では見た目や容姿、身分だって関係ないはずさ!」

「ですが」

「クリス、いいって。俺らも食堂で食べるより外で2人で食べた方が気楽でいいんだよ。やりたいこともあるからな。じゃあまた後でな。」


 このやり取りももう何度目のことだろうか。クリスの発言は毎度レオンを、そしてフェルを傷つけた。クリスの悪いところは、その発言や態度が悪いと思っていないところにある。


「レン・・・」

「気にすんな、お前は立派な俺の従者だ。胸を張っていい。さ、気にせず昼飯を食べよう!」


 フェルは首輪をつけているため奴隷と間違われるのは無理もないが、ここ帝国管轄の中央都市内は平等を謳っていることからも奴隷を持ち込むことはできない。そのためフェルがつけている首輪は奴隷が付けている隷属の首輪ではない。レオンがフェルのために用意した首輪、アクセサリーだ。隷属の首輪のように彼女の意思に反した行いを強制させる力もなく、主人の命令を強制させる力も一切ない。

 最も生徒1人につき従者1人しか連れてこられないと決められている魔法学校に好き好んで奴隷を連れてくるものなどおらず、フェルに隷属の首輪が付いていたとしても誰もが彼女を従者だと思うはずだが、クリスの中では獣人=奴隷の考えが抜けることはなく、事あるごとに奴隷制度は可哀想だ、レオンのように奴隷に優しく接するのは素晴らしいと訳のわからない話を振ってきてはレオンを苛立たせた。



(だからああいう生まれ持ったものだけで上に立つ人間は嫌いなんだ。その家名も地位も、たまたまそこに生まれただけでクリスは平等平等言うが、自分は常に上から物を言っていることに気がついていない。ロバートの方がまだマシだな。主人公がクリスルートに入らないことを確認したらすぐに距離を取ろう。)


 レオンはクリスと過ごせば過ごすほど、仲が深まったと錯覚してズケズケと物を言ってくるようになったクリスをどんどん嫌いになっていった。

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