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第51話 魔法学校生活の始まり

「う〜ん、美味しいです〜。」

「うん、確かにこの肉、美味しいな!」

 料理を取った後すぐにルークの元に戻ろうとした2人だったが、ルークは聖人として有名人のようで、あっという間に人が集まってしまったため、2人は人混みが落ち着くまでパーティ会場の隅で黙々と食事を楽しむことにした。


「フェル、それは取りすぎだろ!」

「みなさんあんまり食べていませんし、残す方がもったいないからいいじゃないですか。もう載せちゃいました〜。」

「ったく。」

 アレース公国は厳しい極寒の地。王子といってもルージュを追い出した後はルージュが作っていた借金の処理等に追われ、節制した生活をしていた。パーティ会場内の料理は立食パーティ用の料理で、この学校に通う大半の貴族からしたら食べるに値しないものだったが、2人にとってはご馳走だった。


「おや、そこにいらっしゃるのはまさかレオン王子ではないですか?」

「・・・どなたでしょう。」

「私はアレース公国のハーメルト=ベルマン伯爵家長男、イェルディス = ベルマンです。まさかまさか本当に貴方様もこの学校に通われていたとは。」

「どう言う意味ですか?」

「いえいえ、クラリウス侯爵家の兄ルーク様は光属性の聖人様。一方で弟はルーク様とは似ても似つかない、不気味な容姿で属性も闇。とても人前には出られないとお聞きしていたもので。いやいや、まさかこんなところでお目にかかれるとは。お元気そうで安心しました。」


(伯爵家の分際で侯爵、仮にも第二王子の俺にこんな態度をとってもいいと思われてるほど舐められるのか。)

「フェルやめろ。」

 フェルが腰元の剣に手をかけるのを相手にバレないように静止し、レオンはにっこりと微笑んだ。


「俺の心配をしてくれて感謝する。だが王子である俺の許可なく二度と話しかけるな。次にそのような態度を取ったらそのにやけた口を引き裂いてやるからな。」

「なっ!・・・失礼します!」

 イェルディスはまさかレオンに言い返されることを予想だにしなかった様子で、すぐに人混みの中へ消えていった。


「レオン様、あいつ次見たら斬り殺してやりましょうよ。」

「フェル、そんなことしなく良い。あんな奴はごまんといる、その辺の石ころと同じだ。お前の手を汚すまでもないさ。ほら、食事が終わったらお兄様の元に戻るんだから早く食べとけ。明日からはこんなに肉は食べられないぞ。」

「あ、じゃあもう一回取って来ますー!!」

「おいまだ取るのかよ、ったく。」


 その後フェルの食事を終えてルークの元に戻るも、すでにルークの姿はなく、レオンはガッカリしながら部屋に戻った。


 そして翌日からレオンの魔法学校での暮らしが始まった。


 一年生の間は基礎的な授業が大半で、この世界の成り立ちに始まり、女神とは何か、魔法とは何か、ステータスの見方を習っていった。分かりきった内容を繰り返す授業に嫌気が差しながらも、退学処分にされるわけにいかないためレオンは毎日ぼーっとしながら授業を受けていた。

 そんなレオンの唯一の楽しみは魔法訓練の授業。つまり魔法を使っても良い時間だった。パーティでの出来事が尾鰭を付いて広まっていることもあり、属性の違いからも誰もレオンと共に訓練を受けようとする者はいなかったが、レオンにとってもレベルの低い者に合わせるのは大変なため問題なかった。



 休み時間はフェルと共に食事をとった後は剣の修行かルークを探すために上級生の建物へ忍び込む日々。友人などはなから作る気もなければ、作り方もわからなかった。

 そんな変わり者のレオンは「頭の悪い魔族の王子」と呼ばれ、時にはレオンに聞こえるような声で陰口を叩かれることもあったが、たまに睨み返しはするものの、睨めばすぐに逃げる彼らの相手などしていられなかった。


「レンも言い返せばいいのに。」

「あんな奴ら相手にするだけ無駄だよ。ま、俺の頭が悪いかどうかは今度の試験ですぐに分かるさ。

 それよりも同じ学校内にも関わらずお兄様にこんなにお会いできないことの方が俺にとっては問題だ。影移動シャドウムーブメントを使おうにも、オーディンの街内ではどこで誰が魔法を使ったのかすぐに分かるらしいからな。迂闊に使うわけにもいかないし・・・。はぁ、お兄様にやっと会えると思ったのに・・・。」

「レンは本当にルーク様が好きだね。あーあ、フェルちょっとヤキモチ妬いちゃう。」

「フェルとお兄様じゃ全然違う対象だろ?俺はお兄様を家族以上の存在、崇拝しているとも言えるが、フェルは俺にとって唯一の対等な存在だ。2人を比べること自体間違っているさ。」

「えへへ、そっか。よし、今日こそルーク様に会えるといいね!早く行こ!」

 それからも空き時間には繰り返し上級生の建物へ行くも、ルークがいたという話は聞いても会うことは叶わなかった。



 レオンの言葉通り、「頭の悪い魔族の王子」と言うあだ名が不適当であることは、夏の終わりに行われた中間試験で明らかとなった。レオンはほぼ全教科で満点、高得点を叩き出し、堂々の首席となったのだ。

 最もこれでレオンの実力が認められたわけではなく「カンニング行為を行なった」などの噂も順位の発表と同時にすぐに飛び交うことになった。しかし試験官の監視の中どのようにカンニングをしたのか。無数の監視を掻い潜れるほどの魔法が使えるのかと、逆にレオンの闇魔法に対して注目が集まることとなった。


「君が首席のレオン王子かな?」

「あ?・・・お前は・・・!」


 いつものようにつまらなそうに教室の隅で座っていたレオンが声の方へ振り返ると、そこには何度も目にしたことのある、胸元の白い薔薇の紋章にふさわしい透き通る髪と肌にサファイア色の瞳をした男が立っていた。


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