第45話 再会
ルークが目を開けると、そこには探し求めていた弟の姿があった。
5歳だった弟のあどけない姿は、すっかりと少年へと成長し、自分よりも背が高いようにも思える。それでもルークが心から美しいと思った月明かりに照らされてキラキラと反射する黒い髪、黒い瞳。紛れもなく最愛の弟レオンだった。
「・・・おかえり、レオン。」
「ルークお兄様!ただいま戻りました!!」
「ふふっ。こらレオン、苦しいよ。」
(ルークお兄様・・・美しさに磨きがかかって、想像以上・・・これはもはや国宝級、いや宇宙級・・・)
レオンはゲームの中でルークの成長した姿を知っているが、攻略対象ではないルークの画像は数枚しかなく、幼少期の頃の姿はどこにも載っていない。会えない寂しさを、ルークがどのように成長したものかと日々妄想して気を紛らわせていた。それでもルークの成長した姿はレオンの想像を遥かに超え、レオンを魅了した。
幼い頃から整った容姿を持っていたルークは、天使のようだったふっくらとした頬がすっきりとし、喉仏も出て、身体は男性に、顔はそこらの着飾った女性よりも美しい、より中性的な魅力を身につけていた。
「ほら、レオン。顔を良く見せてくれ。すっかり大人っぽくなったね。」
「俺のことなんかよりルークお兄様の方こそ!想像していた何倍も素敵です!!」
「ふふっ、ありがとう。」
ルークは抱きつくレオンを優しく受け止め、昔と変わらない優しい手つき、笑顔で微笑んだ。
「俺、お母様に言われた通りにレベル3以上の魔法を習得してきました!本当は明日きちんと門から入るつもりだったんですけど、今日がお兄様のお誕生日だって知って、つい・・・。お休みのところ勝手に侵入してしまいすみません。」
「いや、いいんだよ。1日でも早く私もレオンに会いたかったからね。ありがとう。
それよりレベル3以上だって?それはすごいな!レオンは何の属性なんだい?一体どうやって侵入したんだ?」
「あ、その、俺の属性は・・・闇なんですけど、レベル3の属性魔法は、光以外の全属性使えます。闇魔法ならレベル5まで使えますよ!今日はその闇魔法を使ってここに来たんです。」
レオンは舌をぺろっと出して、恥ずかしそうに笑ったが、ルークは言葉を失った。
(闇属性なんて、実際に扱える人間はいないと聞いたがまさか・・・。それに自分の属性以外の魔法が使えるなんてそんなこと聞いたことがないぞ・・・。)
「・・・お兄様?どうかされましたか?やっぱり闇属性って気味が悪いですかね・・・。」
「あ、いや違うんだよ!闇魔法は文献でしか見たことがなくてね。実際に使えるなんて、それも最大のレベル5だなんてすごいじゃないか!それに他の属性も使えるというのは、レオンは全属性の女神様から加護をいただいたということなのかい?」
「いえ、それは俺の連れの力で、紹介しますね!・・・おい、フェル出てきてくれ<闇空間>。」
レオンがそう言うと、レオンの横に黒塊が出現し、フェルはそこから這い出るように姿を現した。
「・・・驚いたな。これがレオンの闇魔法なのかな?」
「はい。<影移動>と言って、影があるところなら俺は自由に移動ができます。そこに<闇空間>という魔法で仲間を別の空間に入れておけば、一緒に移動ができる、というわけです。」
「なるほど、転移魔法に近いのかな?まさか闇魔法を実際に見ることができる日が来るとは思わなかったが、これは大発見じゃないか!その空間にはどれくらいの量が入れられるんだい?あーすごい!本当にレオンは、私の弟はすごい力を持っているね!!自慢の弟だよ!」
レオンはルークの言葉で胸の中のモヤが晴れ、暖かくなっていくのを感じた。ルークのことを信用していないわけではなかったが、それでも外の世界でのレオンの容姿に対する風当たりの強さ。そして光を敬愛するこの国での闇属性の習得。
最愛の兄も離れて暮らしていたことで心変わりしていたら、属性を知って嫌われるのではないか。そんなことをルークはしない、するはずがない。レオンの頭の中はいつも葛藤していたのだ。それが今、ルークの言葉で解放された。
「・・・ヒッ、ヒック、お、おに、お兄ざま゛〜〜〜!」
「おやおや、泣き虫レオンなのは変わらないのかな?・・・おいで。」
ルークは声を出して泣くレオンを抱きしめ、レオンもルークの体に赤子のように縋りついた。
「おかえり、レオン。よく頑張ったね。」
「ず、ずっと、あ、会いだがっだですっ・・・。」
「私もだよ。レオンのことを考えない日はなかった。よく無事で帰ってきてくれたね。」
ルークが優しく言葉をかけ、昔と何も変わらない温もりがレオンを包み込むと、レオンの涙は止めどなく溢れ続けた。ルークの頬にも、月明かりが反射していた。




