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第44話 ルークの思い

「ルーク様、14歳のお誕生日、おめでとうございます!」

「あぁ、ありがとう!みんな今宵は思う存分、楽しんでいってくれ!」



「・・・はぁ、疲れた。」

「ルーク様、お疲れ様です。」

 ルークは側近としている2人の獣人、シンとリンを引き連れて誕生日パーティから部屋へ戻るなり、ソファへ倒れ込んだ。


「あーもう少しで顔が固まってしまうところだったよ。」

「ルーク様、こちらホットタオルです。こちらを目の上に乗せていただくとお疲れが解れるかと。」

「ありがとう、リン。」


 この日ルークは14歳の誕生日を迎えた。ルークが迎え入れたシンとリンはもうあの汚い獣人奴隷と呼ばれる姿はなく、手入れの行き届いた毛並みと堂々たる態度に、パーティに来ていたもの達も皆口々にあの奴隷が欲しいとこぼすくらいだった。


「・・・ルーク様。レオン様の調査についてですが、いまだに消息不明となっております。申し訳ございません、引き続き調査を続けます。」

「そっか、やっぱりまだ手がかりはないか。ようやくあの女を追い出せたところなんだけどね。シンもお疲れ。今日くらいはゆっくり休んでくれ。」

「はっ。」


「手がかりがないってことは、無事ってことなのかな。レオン、元気にしてるならいいんだけど・・・。」


 

 ♢



 ルークはレオンが出て行ってから自身の不甲斐なさを嘆き、レオンを思わない日はなかった。母ルージュの出した難題を、レオンは顔色ひとつ変えずに承諾して家を出て行った。何かしらの策があるのかもしれない。

 レオンのことを信じていても、どうしても不安は募っていく一方だった。


 そんなある日、レオンに頼まれ自身の側仕えとしていたエマが毒を飲んで死んだ。普段なら起こしにくるはずのエマが来ないことを不思議に思ったルークが部屋を訪れると、エマの顔色は青冷め、冷たく床に倒れていた。

 ルークにとってエマは最愛の弟レオンが大切にしている存在、その程度の感覚ではあったが、自分のために無謀にも家を飛び出していった弟に託された唯一の存在すらもルークは守ることができず、気持ちが整理できるようになるまで一年ほど部屋から出ることができなくなるほどだった。


 エマが死んだことは自殺として騒ぎになることもなく静かに処分されたが、ルークは犯人を知っていた。正確に言えば何の確証もなく、争った形跡がないことからもエマ自身が自ら毒を飲んだことは明らかだったのだが、ルークはその毒が誰からもたらされたものなのか分かっていた。執事、そして母のルージュだ。

 元々ルークにとって時折会うだけの父はもとより、自分のことしか考えていない母に対して親への愛情を抱いたことはなかったが、この日を境に母はルークにとって【敵】に変わった。



 ルークは元々真面目で努力家。生まれながらに知性が高く、感覚的に自分に対して求められている言葉や対応を理解していた。両親をはじめ、執事やメイド達にも望まれている【ルーク=クラリウス】として接することで自分という存在を確立していった。しかしそれはルークが望むことではなく、自分の気持ちを抑え込んだ生活だった。そんなルークを救ったのは、レオンの存在だった。


 離れに住んでいたレオンの母ライラは、レオンが生まれてからすぐ体調を崩していたためライラに変わってエマが中庭に時折レオンを連れ出していた。ルークは見つからないようこっそりと近づいては、弱々しくもただ純粋に本能のままに生きているレオンの存在に癒されていた。

 レオンが3歳の時にライラが死んですぐに本邸へ移されると、レオンは部屋に閉じ込められ、差別の対象となった。ルークはそれを痛いほどに感じても何もできず、ただ隠れてレオンの部屋に行くだけだった。

 それでもレオンはルークが来ることが日々の楽しみだと言い、ルークにただそこにいるだけを望み、自分自身に価値を見出してくれた初めての存在だった。

 ルークにとっても、レオンにとっても、互いはかけがえのない唯一無二の存在となっていったのだ。


 しかしルークはあの日執事がレオンを連れ出すのを見ても、声をかけることもできなかった。ルージュの執事

は特にレオンを毛嫌いしている。話しかける姿などこれまで見たこともなかったにも関わらず、ルークは黙って2人が屋敷から出ていくのを見届け、そしてレオンはその後馬から落ち意識不明の重体となって屋敷に戻って来た。

 その後奇跡的に意識を取り戻したレオンだったが、ルークは後悔の念で押し潰されそうになっていた。そして意識を取り戻した後のレオンは、ただルークに泣き縋るだけの弟ではなくなり、ルークのために力になりたいと屋敷を出て行ってしまった。ルークは唯一自身ができることをと、大切にしていたアイテム袋などを渡したが、こんなことしかできない自分の情けなさを嘆かなかったことはなかった。


 それでもどうしたら良いのか分からず、エマを側仕えにし、毎日レオンの無事を神に祈っていたのだが、エマさえも失ってしまった。エマの死のショックから平静を取り戻したルークは、母と執事、レオンに無礼を働く者達全員を屋敷から追い出したいと思うようになった。


「公国の王である我がクラリウス家がこのような状態で良いわけがない!我が国を始め、帝国内には人間ヒューマン以外の種族も多くいるのに、この古い悪しき考えを是正していかなければ!」



 そして手始めに信頼できるものを作りたいと考えたルークは母に頼み込み、自身の剣の指南役として冒険者を雇うことにした。そしてこの件についてはどういうわけか父のジークが首を突っ込み、ジークの紹介である冒険者パーティのリーダーをしているという男が屋敷にやって来た。


 男の名前はゾイド。そう、レオンが街で出会った深紅の稲妻のリーダーだ。


 ゾイドはルークの考えを聞き出すや否や、すぐさまパーティメンバー総出でルージュや執事の悪事の証拠をかき集め始め、ルークに渡した。これらの情報をルークが精査し、ジークへ告発。14歳の誕生日パーティの直前、多くの屋敷の人間が屋敷を追放され、ルージュと執事に至っては第二王子の暗殺未遂により、処刑という重い罰が下された。



 レオンもルークも知る由もなかったことだが、レオンが追い出された後すぐにそれはジークの耳に入り、公国内屈指の諜報員でもある深紅の稲妻に、レオンが無事に街を出られるよう依頼をかけていたのだ。ゾイドが呪いをかけられていたのは単なる偶然に過ぎないが、これによってジークの耳にレオンが鑑定スキル持ちだということも伝わり、レオンのスキルを伸ばすためにもルージュの手の届かない街まで彼らに送り届けさせるよう依頼をしていた。

 これまでもルージュのレオンに対する態度や悪事は少なからずジークも把握はしていたが、レオンを無断で追い出したことでルージュを庇う気持ちも消え失せ、ルークが告発する手筈を整え、屋敷内の汚れを一掃することに成功した。



 ルージュもいなくなり、屋敷内は少ない執事やメイドになったものの、レオンにとっても前よりも断然に居心地の良い場所へと変わった。そのことをレオンに伝えるため、ルークはシンに命じてレオンを探し出そうとしていたが中々レオンの足取りを掴めずにいた。


「ルークは私の成人の儀までに戻ると言っていたが、本当に後1年で戻ってきてくれるのか?私の可愛いレオン・・・。」

「ルークお兄様、俺はもう戻ってきましたよ!!」


 1人部屋の中で眠りにつこうとするルークに昔のレオンよりも数段低い声が聞こえる。

「あぁ、レオンが大きくなっていたらこんな声かな。幻聴まで聴こえるようになってしまった・・・。」

「ルークお兄様!起きてくださいよ!」


 ルークは胸の上に伸し掛る確かな重みに、ゆっくりと目を開けた。



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