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第39話 名前はフェル

 洞窟を抜け、久しぶりに見る眩しい太陽に目が眩んでいると、そこには行きと同じ場所、同じポーズで少女が立っていた。


「おかえりなさい。」

「・・・ただいま。」

「ヘレナ様に会えた?」

「あぁ。君の目的は俺とヘレナ様を会わせることだったのか?」

「・・・貴方の髪と瞳はヘレナ様と同じ。貴方なら力を与えられると思った。ヘレナ様をこの暗い洞窟から解放して欲しかった。」

「解放?」

「・・・ヘレナ様は死にかけていた私を救ってくれた。私には魔力がない。洞窟から出たいと言っていたヘレナ様を解放することもできなかった。だから貴方を連れて来た。ヘレナ様は天に戻られた。」


 少女は洞窟の頂上を指差した。


「そうだね、ヘレナ様は俺に力を与えて、そして消えたよ。それで天に戻ることができたのなら・・・良かった。」

 レンの心は複雑だった。天に戻った、というのは天界に帰ったということではない。ヘレナの言葉や様子からも、ヘレナが消滅したことを感じていたからだ。


「・・・どうして哀しそうなの?ヘレナ様はずっとこの洞窟で1人だった。それを悲しんでいた。貴方はその悲しみから解放した。喜ぶべき。」


 淡々と言う少女の言葉からはレンを励まそうと言った優しさなどの感情は感じられなかったが、レンにとってはそれが逆に心地よかった。


「・・・ありがとう。なんだかお腹が空いてきたな。食料もないし、街に戻ろうか?」

「これ食べればいい。」

 少女はそう言うと、兎に角と羽が生えた不思議な生き物を持ってきた。


「これは・・・モンスター?」

 レンが鑑定すると

 【ホーンラビット:Lv3 HP35

  瞬発力が高く、敵を見つけると角を向けて突進。鋭い角は大人の体をも貫く。肉は普通の兎と同様に食すことが可能】

 と書かれていた。


「ここにはたくさんいる。あそこにもいるから仕留めて。」

「え?俺が?」

「早く。仲間を呼ばれると大変。」

 少女の指示に従い、ホーンラビットの体になるべく傷がつかないよう、石を投げるイメージで土魔法を発動させた。レンの狙い通りに手から出た石粒はホーンラビットの頭を貫通し、今にも襲い掛かろうとしていたモンスターは動かなくなった。

 討伐クエストを行ってこなかったレンですらも、ホーンラビットという名前を見たことがあるほどに有名なモンスターではあったが、これがスライム以外にレンが倒した2種類目のモンスターとなった。


 2人はレンの件でホーンラビットを捌き、落ちていた木に串焼き状にした。

「ご馳走様でした。もう今日は暗くなってきたから明日街に戻ろうか。」


 レンは少女にそう言うと、ホーンラビットの骨などを前回の要領で土の中に埋め、両手を合わせた。

「なんでそんなことをするの?」

「あー、これは命をもらったわけだからお墓みたいなもんかな。」

「あの男達にはやってなかった。」

「それは・・・」

 少女からの問いにレンが何も返せずにいると、少女は飄々とした態度で続ける。


「強いものが弱いものを喰う。当たり前。貴方は強い。だから殺す。何も悪いことはしていない。」

「・・・俺はそう言う考えは嫌いだ。強いからって何かを奪っていいわけないんだ。俺だって、好きで命を奪っているわけじゃない。あれは、仕方なかったんだ・・・。」

「・・・そう。」


 2人の間に燃え上がる焚き火の音だけが鳴り響く。


「・・・貴方は不思議。そんなに力を持っているのに、とても弱々しい。」

「・・・君だってあの複製の力があれば、属性なんて関係なしにどんな魔法だって使えるし、すごい力じゃないか。」

「私には使えない。私には魔力がない。」

「え?」


 レンが少女の方を見ても、少女は黙って焚き火を見つめていた。そして不思議に思ったレンが少女のステータスを鑑定すると、少女の言っている意味が分かった。


 【???:銀狼ファンリル (5) Lv 1】


「え、銀狼・・・!?」

 レンが驚いて口にすると、人形のようだった少女の目が一瞬大きくなり、レンのそばに駆け寄った。

「ご、ごめん、勝手に鑑定して。」

「カンテイ・・・?」

「君が魔力がないって言うから、ちょっと君のステータスを見させてもらったんだよ。勝手なことして悪かった。」

「別に構わない。私は銀狼なの?」

「え、自分のことなのに知らないのか?」

「私は気が付いたらここにいた。自分が誰なのか、なんなのかも知らない。

 怪我をしてヘレナ様のいた洞窟に逃げ込み、ヘレナ様から言葉を教わった。あの壁の向こうにヘレナ様を解放できるものがいるとヘレナ様が言ったから、私は壁を越えた。そして貴方に会った。ヘレナ様に複製の力を値するものに与えると良いと聞いていた。だから貴方に与えた。」

「そうなのか・・・。そうだね、君は種族は銀狼、所謂魔族に分類される。年齢は5歳。ヘレナ様が言っていたように確かにMPが0になっている・・・。名前は、まだないみたいだな。」

「ならば、貴方がつけて。」

「え?俺?」


 少女は隷属の首輪をレンに見せつけるように顔を近づけた。

「あいつが言っていた。名前は主人が付け、この首輪は主人以外外せないのだと。でもあいつは死んだ。私は強い者に従う。だから貴方が次の私の主人。」

「え、いやそれは・・・。」


 レンが困っていても少女はそんなことは気にも留めず、レンにぐいぐいと近づいた。

「あーもう分かった!分かったよ!じゃあ俺が隷属の契約をするが、すぐに解消する。それでいい?」

 少女は小刻みに首を縦に振った。


(困ったな・・・名前のセンスないんだよな・・・)


「んー・・・じゃあ安直だけど、フェルでどう?」

「フェル。良い響き。問題ない。」

「じゃあちょっと首輪に魔力を通すよ。

 我、レオン=クラリウスはこの者をフェルと名付け、自身の奴隷とする。」


 レンの魔力に反応するかのように、首輪が一瞬光り、フェルの首が締まった。


 隷属の首輪は主人が名付けを行い、首輪に魔力を通すとその効果が発動する。本来であれば同時に奴隷としてのルールなどを事前に書面にまとめ、合わせてその場で同様に魔力を流すことでその奴隷はどんなに不当な条件になっていたとしてもそのルールからは逃れることができない。

 主人を失ったものは通常であれば新たな主人との契約を重ねることで更新となるが、稀に主人が死んだら同時に死ぬと言う契約を交わさせられている場合は、首輪が締まりその場で息絶えることもある。フェルの契約がそうでなかったことはラッキーだった。


「フェル、大丈夫か?じゃあすぐに首輪を外せるように魔力を流すから」

「それはしなくても良い。首輪も元のサイズに戻ったから苦しくない。このままで問題ない。」

「え、それじゃフェルは俺の奴隷になってしまうんだよ?」

「問題ない。」

 

 奴隷は滅多なことがなければ解放されることはないが、首輪をつけた主人が望めば外すことができる。しかしそれには同じように首輪に主人が触れて魔力を通さなければならない。フェルは首輪を触ろうとするレンの手を何度も払い、焚き火のそばで丸くなってしまった。



(はぁ・・・まぁ気が済んだら外せばいいか・・・。)


 この短い時間でもフェルの頑固さが身に染みているレンは、辺り一体にモンスターが近づいたら分かるように鑑定スキルを発動させながら、焚き火のそばで身を丸めて眠りについた。


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