第4話 目標が決まりました
「あ、あの、それはね・・・」
戸惑うレオンの言葉を遮るようにルークが言う。
「レオン、文字を習いたいの?」
「・・・え?」
「ここに書いてあるのはどれもアースガルド文字とは違うようだけど、異国の言葉?どこで知ったの?」
(え、日本語が読めないんだ!そう言われてみれば、話してる言葉も日本語とは発音が違っている・・・自然と出てくるから気にしてなかったけど、日本語じゃないんだ)
「あ、えっと適当に書いたの!僕、文字が書けないから、こんな感じかなぁって!」
無理のある言い訳だったかな、と思いながらもレオンは笑って誤魔化すことにした。しかしレオンの笑顔とは逆にルークの顔は曇っていった。
「ごめんね、レオン。文字は僕が教えてあげるからね!僕もまだまだ勉強中だから、一緒に覚えていこうね!」
ルークの表情が暗かったのは5歳になるレオンが文字を一つも書けないことを目の当たりにしたからだった。本来貴族の子供であれば早ければ3歳の頃から楽器やダンスなどを含め、専属の家庭教師がつく。しかし庶子であるレオンには不要と言われ、レオンは5歳になっても読み書きが一切できなかった。
(ルーク兄様は悪くないのに・・・)
レオンは満面の笑みで
「僕、お兄様に教えてもらった方が嬉しいから気にしてないよ!」
と告げた。ルークは嬉しそうにレオンを抱きしめ、その後しばらく談笑した後、エマと共におやすみと額にキスをして出て行った。
「そっかぁ、言葉が違うんだ。んーでも、ゲームのレオンは魔法学校に通ってたくらいだから一応勉強もできたんじゃないのかなぁ?魔力が多かったから勉強はあんまりやらなかったのかな?俺様王子だったからその可能性もあるか・・・。でも日本語が読まれないのは良かった!これで誰にもバレずにメモが取れるもんね。」
メモを取るのは光時代の癖だった。頭の中で考えていると整理できないので、必ず紙に書いて可視化するのだ。引き出しに入っていた紙は前世のものとは比べものにならないほど粗悪なもので、初めて使うインクもうまく使うことができなかったけれど、それでも無いよりはマシだった。
「とりあえず、今世の目標はルーク兄様への推し活を頑張って、お兄様に幸せになってもらうこと!そしたら私も、いや、僕の方がやっぱりしっくりくるから、僕って言おう。またお兄様に心配かけちゃうし、僕はこれからお兄様が大好きな弟レオンとして、お兄様と一緒に幸せに生きるぞー!」
何事にも目標があると言うのは大切なことだ。レオンは前世では感じたことのない、やる気に満ち溢れていた。
「お兄様を幸せにするためには、とりあえずゲームのシナリオ通りのことはしなければいいんだよね。まず、ヒロインの主人公の子との接触が一番危険かなぁ。ハッピーエンドの方はまだ僕が爵位はお兄様にって言えばなんとかなるかもだけど、バッドエンドは殺したりは絶対しないけど、一家全員処刑って怖すぎる・・・でもお兄様もあの魔法学校に通うわけだし、僕もそこで魔法を教えてもらっていくわけだからなぁ。行かないわけには行かないし・・・。」
その時ふっと頭をよぎった。
魔法は15歳まで使うことができないのか?
この世界では15歳の成人の儀で各自の魔法量及び魔法適性を確認する。その際に適正にあった属性の精霊から加護をもらうことで魔法が使えるようになる。と言われている。
一方で、生活魔法などの魔法量が少なくてもできると言われている魔法に関しては、どう言うわけか成人の儀の前に使っている人間が多数いる。生活のためや魔法に慣れ親しんでおくためと理由は様々だが、親や家庭教師に習うのだとルークが前に言っていたのだ。ルークはその生活魔法ですら何度も行うとすぐに疲れてしまい、魔法量が少ないのかもしれないと、珍しく弱音を吐いていたのだ。
当時は何のことか分からなかったが、生活魔法が使えるのであればどんな魔法でも使えるのではないだろうか。特にレオンは自分の属性が何かを既に知っている。
これまでは知恵も力もないひ弱な5歳児として蔑まれてきたが、この世界は魔法量によって態度が変わると言うことを知っている。力があればルークに心苦しい思いをさせることはない。
ゲーム通りであればレオンは魔法騎士団団長にも匹敵する強大な魔法量を持っており、魔法の習得も尋常じゃない速さでできることになる。そしてゲームの設定が同じなのであれば、ルークの少ない魔法量をどうにかできるかもしれないのである。
そのためにはまず、レオンに魔法を教えてくれる存在が必要だった。ゲームの世界では選択ツールの中から選ぶだけで魔法が使えたがそうもいかない。
最も身近で魔法が使えるのは父のジーク=クラリウスだが、父に会う機会は母が亡くなってから滅多にない。次はルークの家庭教師だが、これもルークの母ルージュがレオンを嫌っているので無理であろう。
(とりあえずは生活魔法でもいいから覚えたい・・・明日エマにきいてみようかな)
この身体に転生してからと言うもの、眠気が急に襲ってきて、それに逆らうことができない。
レオンは何とかベッドまで移動し、そのまま朝を迎えた。
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