第37話 女神へリア
時折休憩しながらも丸1日歩き続けると、公国の壁にぶつかった。
「ここでもう行き止まりだ。次はどっちに行く?」
レンの問いに対して、少女は答えずに壁を指差した。
「壁があるからこれ以上先には行けないだろ。」
「・・・行ける。」
「壁の先にはモンスターがいる。俺も剣以外は全て彼らに渡してしまったし、君もそんな格好じゃ行けないだろ。」
「・・・問題ない。」
レンはため息混じりに顔色ひとつ変えずに淡々と話す少女に聞いた。
「このまま行くとしてもどうやって行くんだ?壁はこんなに高くて、木に登っても俺たちじゃ越えることはできないだろ。」
「・・・問題ない。」
「だから、えっ、ちょ!!う、うわー!」
少女はレンを抱き抱えると、驚異的な脚力で木に飛び乗り、その勢いのまま塀を飛び越した。
(や、やばい、落ちてる、落ちてる!し、死ぬー!!!!!)
ドンッ
「・・・着いた。」
レンが勢いよく下降する恐怖で少女にしがみ付き目を閉じている間に、2人は塀を越え、未開の地と呼ばれる場所に降り立っていた。
「え?ここが・・・未開の地?」
「違う。ここはアストメリア。こっち。」
少女はそのままてこてこと歩き始めた。
「なぁ、君は何者なんだ?俺達はどこに向かっているんだ?」
少女はレンを見ようともせず、黙々と歩いた。
途中体力の限界を迎えたレンのため野宿し、2人で焚き火を囲う間も、レンの問いかけに対して少女は一言も言葉を発さなかった。
そして何日か歩いた後、少女は洞窟の前で歩みを止めた。
「・・・ここが君の来たかった場所?」
「そう。でも私はここから先には進めない。」
「俺が行けばいいのか?奥に何があるんだ?」
少女はまた黙り込み、洞窟をただただ見つめていた。
「分かったよ、行ってくればいいんだな。約束したからな、行ってくるよ。」
レンは少女に言われるがまま、暗い洞窟の中へ入って行った。<ライト>で作った光る球を懐中電灯のように使いながら、転ばないよう、慎重に歩みを進める。
時折モンスターに襲われることもあったが、覚えた火魔法や土魔法、生活魔法でレンに傷1つつくことは無く、どんどん奥へと進んでいった。
暗く音のない洞窟をもう何時間歩いたかも分からない。方向感覚も分からなくなりそうな中、レンはただ黙々と続く一本道を進んでいると、光が見えた。
「あ、あそこで終わりかな?」
光の場所は少し広けた空洞になっており、天から一筋の光が降り注いでいた。真っ暗な暗闇の中、その降り注ぐ光の元に近寄ると、そこには水が溜まっており、レンが覗き込んだ瞬間、水が意思を持っているかのようにレンを襲った。
(な、なんだ!?)
抵抗も虚しく、あっという間にレンは水で包まれた。
音も光もない世界に包まれたレンは、掴むことも動くこともできず、その水の流れに身をまかして漂った。
(あぁ・・・このまま死ぬのかもしれない・・・。)
薄れゆく意識の中、誰かの声がする。
「この世界に何を望みますか?」
(誰だ・・・?)
「この世界に何を望みますか?」
(・・・俺は俺が望むことを実現したい。それだけだ。それ以上は何も望まない。)
「この世界を変えたいですか?」
(・・・変えたい。見た目だけで、生まれた種族だけで当たり前のように差別されるこんな世界、俺は望んでいない。)
「どうするのですか?」
(分からない。俺にはどうすればいいのか分からない。でも、お兄様なら、お兄様ならきっとこの世界を変えてくれる。だから俺は、お兄様の力になりたい。前世の記憶があってもなんのチートもできない馬鹿だから、お兄様の代わりに戦いたい・・・。)
「ふふふ、ならば貴方の助けになりましょう。」
段々とはっきりと声が聞こえるようになり、目を開けると先程の洞窟の中に戻っていた。
「私は闇の女神、ヘリア。貴方が望むのならば力を与えましょう。」
「や、闇の女神・・・?」
(あれ、闇の女神って確か公式サイトに発表された続編のあらすじで見たような・・・。)
「どうしますか?面白い魂の者よ。」
「・・・ヘリア様はモンスターや魔族に力を与えるのではないのですか?」
女神はまたクスクスと笑い始めた。
そう、前世の光の記憶では、『キミコイ』のブームを受け、続編が作られると発表されていた。
ヒロインが1期で世界樹の浄化を終えて再び学園生活を楽しんでいると、1人の少女が入学して来る。この少女が闇魔法の使い手で、ヒロインと攻略対象達の仲を裂こうと様々な妨害をしてくる。この妨害を乗り越え、無事に卒業パーティまでに攻略対象のハートを射止めよう、というものだった。
(確か攻略掲示板でβ板をやったって人が、ネタバレを書き込んで炎上してたのを覚えている。
この闇魔法の使い手が魔族の女の子だったって・・・)




