第36話 複製
男達を処分した後冷静になったからか、夜通し走った疲れと、連続でしようした魔法の反動で、一気に疲労感がレンを襲った。その場に座り込んだレンは、黒い塊達をどうするかと見つめた。
「このまま置いておくわけにいかないもんな・・・。」
そうレンがこぼすと、
「じゃあ埋めたらいいよ。」
と女の子の声が聞こえてきた。
慌てて振り返ると、馬車の中から真っ白い毛の女の子が降りてきた。ふわふわとした白い毛が朝日に反射する美しい少女にも、似つかわしくない黒々とした隷属の首輪が付けられていた。
「あなた、魔法が使えるんでしょ?」
「君は・・・あの村の子じゃないね。」
「私は別のとこで捕まったの。村の子ならまだ馬車にいるよ。」
「そうか・・・良かった。」
安堵の表情を見せるレンだったが、少女の顔はピクリとも動かなかった。
「ねえ、こいつらを埋めるの?」
「あ、いやそうしたいところだけど、スコップもないし、あまり長い間ここにいるわけにもいかないから・・・。」
「魔法を使ったらいいよ。」
「そうしたいけど俺は土魔法を知らないんだ。」
レンがそう伝えると、少女はレンの手を取り、レンの瞳を見つめた。
「私行きたいところがあるの。連れて行ってくれるなら、貴方を助けてあげる。」
「え・・・行きたいところって?」
少女はレンの質問には答えず、じっとレンを見つめていた。
「分かった。どこにでも連れて行くと約束する。だから手伝ってくれるか?」
「これは契約。貴方なら私の能力を使える。」
少女はそう呟き、レンの唇にそっと唇を重ねた。驚いたレンだったが、不思議と嫌な気はせず、むしろ温かい何かが流れ込んでくるのを感じた。
「・・・これで終わり。」
レンが呆然としていると、少女は火だるまになった男だったものを指差し、
「あいつから土魔法をコピーする。貴方ならできる。」
と言う。
「え?コピー?どういうこと?」
答えない少女の意図が掴めずにいるレンだったが、自身のステータスボードを確認すると、【その他】欄の鑑定スキルの下に『複製スキル レベルー』と書かれていることに気がついた。レベルが消されているということは、このスキルにはレベルという概念がないことを示していた。
「複製?・・・<複製>」
レンが男を見ながら唱えると、ステータスボードに『・土魔法 レベル2』と追記されていた。
「え!これ、本当に他人のスキルがコピーできてる!!」
「あの男が燃やしてあの男が埋めていた。貴方も同じようにすればいい。」
レンは腹を刺されて倒れていた男から『・火魔法 レベル2』をコピーし、そして少女の指示に従って土魔法でそれぞれの男達の傍に穴を開け、男を穴に落とし、再度魔法で土をかけた。
(す、すごい・・・。呪文は分からないのに、想像しただけで魔法が使える・・・。)
「あ、あのレン、だよな・・・?」
魔法が使えることに感動しているレンに、馬車から獣人の男と女が2人降りてきた。
村で共に狩りをした者達だ。
「あ、ああ!2人とも、よく無事だったな。良かった・・・。」
「いや、俺らは何にもできなくてただ馬車の中で震えてたんだ・・・情けねぇ。
チャイロのこと、レン仲良かったもんな。あいつのためにありがとう。」
彼らが深々と頭を下げると、レンはチャイロのために何かできたことが嬉しくて、頬を濡らした。
その後村に戻ることができない、という2人を放っておくことができなかったレンは、村のために用意した服や幾らかの金が入ったアイテム袋を渡し、公国の首都ノーザスに行くように指示した。
「ノーザスに着いたら門番にルーク=クラリウス様の奴隷だ、と伝えろ。その後屋敷に着いたらこれをルーク様かエマというメイドのどちらかに渡すんだ。いいな?その2人のどちらか以外には絶対にこれを渡すなよ。」
アイテム袋は奴隷が気安く持ち歩ける代物ではない。そしてその袋にはクラリウス家の紋章が刺繍されているため、ルークが見ればそれが誰が渡したものかわかると考えた。
「ルーク様なら悪いようにはしないはずだ。・・・俺の代わりにルーク様を守ってやってくれ。」
「分かった。どの道このままじゃ逃亡奴隷で長くは生きていけないからな。お前を信じてみるよ。お前はどうするんだ?」
「俺はこの子と一緒に行くところがある。いつかまた会おう。」
馬車を見送ったレンは、少女に目的地を聞いた。
「さて、俺らも早くここを移動しよう。君の行きたいところはどこなんだ?」
少女は答えず、ただ真っ直ぐに指差した。
「・・・分かった、とりあえずそっちに行こう。歩けるか?」
「問題ない。」
少女は靴を履いていなかったが、気にするそぶりも見せず、2人はゆっくりと森の中を歩き始めた。




