第35話 焦げた臭い
(この辺りだと思うんだけど・・・。)
レンが鑑定スキルで特定した位置の近くに行っても、獣人たちの気配を感じることはできなかった。
チャイロの近くには数人の獣人達が一緒にいるようで、近くに行けばすぐに分かると思っていたレンだったが、周囲には誰もいない様子だった。
「仕方ない。<鑑定>、えっとチャイロの位置・・・」
ポップアップはレンの立っている場所のすぐ横の土を示していた。
嫌な予感がした。鑑定スキルはこれまで間違ったことがない。
レンは少し盛り上がっている土を必死に手で掘り進めた。随分と掘り進めると何かに当たった。爪からは血が出ていたが、その痛みを感じることもなく、ソレの周りを掘り起こした。
ソレは人型の、黒い塊だった。ポップアップではその黒い塊をチャイロと示していた。
「え、え?どう言うことだ?<鑑定>、チャイロ。<鑑定>・・・」
何度繰り返しても結果は同じだった。
レンはその黒い塊に見覚えがあった。人に火をつけた後の塊だ。忘れられないこの焦げた臭いも同じ。
そう、レンの鑑定は間違っていない、これがチャイロなのだ。
チャイロ以外にも同じように何人かのポップアップは土を示していた。
「どうして・・・誰がこんなことを・・・。」
混乱するレンの頭の中をよぎるジジ様の言葉。
「奴隷商人・・・。」
レンはすぐに鑑定で奴隷商人を探した。レンの鑑定スキルであれば、ステータスボードの職業欄が奴隷商人になっているものを見つけることができる。それがチャイロたちを迎えに来た奴隷商人かどうかまでは判断ができないが、この時間にこの場所にいる奴隷商人であれば十中八九同じ者だった。
レンは移動している奴隷商人の方へ走った。数人の獣人は奴隷商人のそばにいるようだ。
相手は馬車で移動しているのか、レンの速さよりも何倍ものスピードで移動をしているようだったが、レンはそのまま一度も休むことなく、ひたすら追いかけ続けた。
そうして辺りが明るくなり始めた頃、奴隷商人の位置にたどり着くができた。
3人の男たちが焚き火を囲い、楽しそうに談笑している。
レンはすでに夜通し走り続けたことで呼吸も整えられず、満身創痍の状態ではあったが、ゆっくり男達に近づいて行った。
「・・・ん?なんでこんなところにガキがいるんだ?」
「おい、あの髪と目を見ろ。あいつは奴隷じゃないのか。」
「おい!お前どこの奴隷だ!逃亡奴隷か?こっちに来い!」
男の1人がレンを捕まえようと近づくと、レンは男の方へと走った勢いのまま直前でアイテム袋から剣を取り出し、男の胴に突き刺した。
「あ?」
男は訳も分からず刺された箇所から溢れる血を抑えながら、その場に倒れ込んだ。
「チャイロを、みんなを殺したのはお前達だな?」
「テメェ!!よくもやりやがったな!ぶっ殺してやる!」
「<ファイア>」
「ぎゃ、ぎゃーアチい!アチい!!!」
男の顔面を目掛けて放った火は男が振り払おうとしても消えず、そのまま男を包み込んでいった。
「ヒッヒィ!!!」
「お前が奴隷商人だな。」
男達のステータスボードを見ると、倒れた男達は冒険者、馬車の下で震えている男が奴隷商人となっていた。
「わ、私になんの用だ!奴隷がこんなことして許されると思っているのか!」
「奴隷奴隷って・・・お前らになんの権利があってみんなを殺した!!!!!」
「貴様何を言って・・・そうか、貴様先程の獣人の仲間だな?獣人は家畜と同じだ、どう扱おうが罪には問われんのだ!そんなことも知らんのか!
家畜の分際でこの獣人どもは、馴れ馴れしく私に触れおって。特にあの汚い小娘。村に着くなり優しい主人に出会いたいだの、許可なくベラベラと喋りおって。
どうせあの毛色じゃ対して値打ちも付かんから、その冒険者どもの発散のために私が引き取ってやったのよ。優しい主人に出会えてアレも本望だっただろうよ。」
男の下世話な笑い声が静かな朝の森に鳴り響いた。
「・・・<ファイア>」
「わ、私の足が!!!あ、熱い、熱いー!!!」
「<ウォーター>」
「貴様、誰に向かって」
「<ファイア>」
レンは両足が火に包まれたことを確認し、消火。その後両手を同じように燃やしては消した。男は焼け爛れた両手両足を動かすこともできず、痛みに意識も朦朧としていた。
「も、もう助けてくれ・・・。貴様を私の奴隷にし、契約の内容は貴様の望む通りにしよう。そうすれば奴隷の身でありながら好きに生きることができるぞ!どうだ?悪くないだろう?だから・・・」
「俺は奴隷じゃない。そして、チャイロも、みんなも、お前らなんかが傷つけていい訳ないんだよ!!!!!」
レンが力のままに剣を振り下ろすと、剣は男の体を貫き、男は動かなくなった。
(あぁ、またこの焦げた臭い・・・)
静かな朝の森に、黒い煙が静かに立ち上っていた。




