第34話 村の真実
レンが目を覚ますと、辺りはもう真っ暗になっていた。
<ライト>で周囲を照らしても気配を感じることができなかったため、<鑑定>で周囲を検索してみる。獣人たちに名前はないが、レンが頭の中で思い描いたモノであればどこにあるのか調べることができた。
「あ、ジジ様がこっちに向かってきているみたいだな。」
レンの鑑定では鑑定したモノの頭上にレンだけにしか見えないポップアップが表示される。そしてレベルが4になってからはレンを中心とし、それがどの辺りに位置しているのか、地図のようなイメージが浮かんでくるようになったのだ。位置情報は鑑定スキルを使用している間は随時更新されるため、動いているかどうかもすぐにわかる。
「・・・お主は、レンか。なぜここにいるんじゃ。」
レンが出迎えるようにライトで村の入り口を灯して立っていると、ジジ様は驚いた様子だった。そして前回は見かけなかった赤ん坊や歩けるようになったばかりのような子供を連れていた。
「ちょっとこの村でまた過ごさせてもらおうかなと思ったんだけど、その子達は?チャイロやみんなはどこ?」
レンの問いかけに対し、ジジ様は
「もう夜も遅い。この子達を寝させてやらねばならん。話はそれからじゃ。」
と返答した。すぐに知りたいレンではあったが、幼い子供達を放っておくわけにもいかず、ライトで足元を照らし、子供達が寝静まるのを待った。
「よし、みんな寝たな。持ってきた布団が役に立ったようで良かったよ。この子達は誰の子供なんだ?」
ジジ様は何も答えようとはしなかった。
「・・・レン、明日にはこの村を出ていくんじゃ。」
「え?どうして?俺が獣人じゃないから?ジジ様、俺狩りで役にも立ってたし、しばらくここでみんなと暮らしたいんです!」
必死に懇願するレンを見て、ジジ様も諦めた様子で、ぽつりぽつりと、この村について語り始めた。
「・・・ここはお前の思っているような場所じゃないんじゃ。どうしてここに獣人たちしかおらんか分かるか?どうしてこんなモンスターの出る森の中で暮らしているか分かるか?」
(そんなこと考えたこともなかった。元々ここで暮らしていたんじゃないのか?)
レンが答えられずにいると、ジジ様はそのまま続けた。
「我々獣人は、モンスターと人間の間に生まれたものだと言われておる。人間達に言わせれば、我らはモンスターに過ぎないんじゃ。しかし、世界樹の加護のない世界で生きていけるほど、我らの力は強くない。そのため我らはこの壁の中で人間に仕えることで生きることを許されたのじゃ。ここは仕えることができるようになるまでの、仮の住処に過ぎないんじゃよ。」
「え、じゃあチャイロたちは・・・。」
「・・・数日前、奴隷商人が引き取りに来た。チャイロはまだ数年はここにおると思ったのじゃが、気に入られたようでの、そのまま連れて行かれたよ。」
レンは言葉を失った。しかし幼いチャイロですら自分が奴隷であること、奴隷として仕えると言っていたことを考えると、ジジ様の言ったことが真実なのだと思わざるを得なかった。
「まぁそう悲観的に考えるのではない。ワシも昔は奴隷として仕えておったが、そう悪いものでもなかった。お主のように冒険者としても働いたこともある。しかし年老い、何もできることがなくなったワシの今の仕事がこれじゃ。ワシにできることは少しでも子供らが自分の運命を呪わんよう、育てることだけじゃ。
・・・あの子供らが大きくなるまでは奴隷商人も来んからな。レン、行くあてがないのじゃったら、ワシと一緒にあの子らの面倒を見てやってくれんか。レンが一緒ならば心強い。」
「・・・少し、考えてみます。」
「そうか。まぁ良い。家は空いているからの、好きなだけ使うが良い。」
レンはジジ様の家から出ると、自分の家に戻り、藁に寝転んだ。
奴隷は当たり前にある。獣人だけではない、人間だって奴隷になる。しかし、獣人だというだけで生まれながらに奴隷であるという当たり前をレンはどうしても納得することができなかった。納得はできなくても、納得するしかない。それがこの世界のしきたりだからだ。
ジジ様が言っていた通り、獣人のアルは不自由なく自由に暮らしてた。思っているよりも悪いものではないのかも知れないが、分かってはいるもののやりきれない思いが募った。
「これ、どうしようかな。」
レンはチャイロのために買ってきた赤いリボンを取り出した。
自分だけのものをもらったことがないと言っていたチャイロ。明るく誰にも分け隔てなく接する彼女であれば、きっと良い主人に出会えるかもしれない。そうすればこんな屋台で買ったリボンよりももっと上等なものが与えられるかもしれない。
そう思ったレンだったが、それでもこの村で受け入れてくれた彼女にせめてものお礼をしたいと思い、鑑定スキルでチャイロの居場所を特定した。どうやら位置は先ほど鑑定した場所から移動していないようだった。
(もしもう主人がついていて幸せそうにしていたら、見守るだけにして戻って来よう。ジジ様の言う通り、転移魔法の手がかりが掴めるまではあの子達の面倒を見ても良いかもしれないな。)
そう思いながら、レンは小さく点灯する光る球を<ライト>で作り出し、足元に気をつけながら、チャイロの元へと急いだ。




