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第33話 喪失感

 眠っていたのか起きていたのかも分からない状態で、レンは眩しい光に体を起こした。気がつけばもう昼も過ぎているようだ。


「・・・とりあえずこれやらないとな。」

 レンはギルドの女性と約束した通り、受注したクエストの採取に取り掛かり、指定された以上の量を納品した。


「はい、こちらでクエスト達成となります。本当に2日でこの量を採取されるなんて、驚きました!」

 女性が楽しそうに話しかける中、レンは俯き、ろくに返事もしなかった。


「他の採取クエストもありますが、受注されますか?」

「・・・今ある分、全部受注させてもらえますか?」

「え?可能ですが、一度受注されますとキャンセルすると未達成扱いとなりますが」

「大丈夫です。早くお願いします。」

「かしこまりました。」

 レンは女性から奪い取るように依頼書を受け取った。何もしないでいると余計に虚しくなるこの気持ちを、とにかく早く落ち着かせたかった。


 ドンッ

 急いでギルドを出ようとするレンは、何かにぶつかり顔を見上げた。

「おい、お前この辺りじゃ見かけねぇ顔だな。新人か?」

「随分変な服装だが、逃亡奴隷じゃねぇだろうな!」

 マスクで視界が悪い中俯いて歩いていたため、扉の前でたむろしていた男たちに気がつかず、男の1人にぶつかってしまった。


「・・・失礼しました。」

「おい、待てよ。それが謝る態度かよ。その変なマスクとフード外して土下座しろや。それが嫌なら有り金全部置いて行ったら許してやるよ。」

 男たちは扉の前に立ちはだかり、レンに執拗に絡んだ。酒の臭いを漂わせる男たちはレンを連れ去ろうとした男たちに似ている。


(めんどくさい、どこにいても同じような奴らばかりだな・・・。)


 レンが何も言わずにため息をつくと、男たちの怒りは加速し、レンの胸ぐらを思い切り掴んだ。それでもレンは抵抗することもなく、されるがままに宙に浮いていた。

 流石に他の冒険者たちも止めるべきかと周囲がざわつき始めると、先程の受付の女性が止めに入り、ギルドカードを剥奪すると忠告を受け、男たち舌打ちをしながらレンを離し、ギルドを出て行った。

 レンは「大丈夫ですか?」と心配そうに声をかける女性に軽く頭を下げると、何も言わずにそのままギルドから出て行った。


(どうしてどいつもこいつも自分が偉いと思うんだ。人の物を奪おうとしないで自分で稼げばいいのに。全く、イライラする・・・。)


 焦りと不安から、日増しに苛立ちが募っていった。教会のそばを通るだけでレンを奴隷と罵った神父のことを思い出し、教会に火を放とうかと思うほどにレンの心は荒んでいた。



 それからレンは理由もなく、一心不乱に採取クエストをこなした。

 この街のギルドでも採取マスターと呼ばれるようになり、採取クエストが無くなりそうな頃、ふと屋台で売られていた赤いリボンが目に止まった。


「これ、チャイロに似合いそうだな・・・。」


 短い間ではあったが、レンの容姿を気にすることなく受け入れてくれた獣人たち。一緒に狩りをした楽しい時間がレンの脳裏によぎった。

 

 目的を失ったレンはもうどこに行くあてもなく、ルージュとの約束のレベル3以上の魔法を習得するどころか生活魔法以外いまだに何1つ覚えていない状態では屋敷に戻ることも叶わなかった。ルークに会いたいが、それも叶わない。考えるとより一層やりきれない気持ちになるためあえてルークのことを考えないようにしたレンであったが、一度考え出してしまうと止めることはできなかった。



「・・・みんなに会いに行こう。」

 寂しさを紛らわせたいと、レンは赤いリボンや他の獣人たちに向けた食料や生活用品をクエストで稼いだ金で買い漁り、焦げ臭いアイテムボックスの容量いっぱいになるまで詰め込み、翌日朝の鐘と同時に街を出た。


 ルークの成人の儀まで残り6年。ルークのレベルアップを考え、1日でも早くノーザスに帰りたいと思っていたが、次の目的が決まるまで、獣人たちとの生活に身を置くのも悪くない。レンは喜ぶチャイロの顔を想像しては村までの道を急いだ。




 レンが村に着くと、そこには誰もいなかった。

「あれ?誰もいない・・・みんな狩りに行ってるのかな?大人しく家で待つとするか。」


 レンは使っていた自分の家に行き、みんなの帰りを待ちながら久しぶりの藁の感覚を懐かしみ、そのままみんなが戻ってくるまでと、目を閉じた。


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