第32話 最北の街ノースト
「さて、どうなるかな。」
レンは鑑定士の際に使用していたロープとマスクを身に付け、ノーストの門へ向かった。
「止まれ。冒険者か?」
「はい、これがギルドカードになります。」
「見ない顔だな・・・待っていろ。」
門番はレンからギルドカードを受け取り、何かを確認しに行った。
「問題はなかったので返却しよう。採取マスターという称号がついてるやつがいると聞いていたが、君がそうなんだな。確かに採取クエストばかりやっているようだな。」
(なるほど、ギルドカードに書かれている情報は門番にも共有されるのか。採取マスターはいつの間にか付けられた称号だけど、意外と有名になってるんだな。・・・火事のことは知られていなそうだ。)
「ハハッ、少し採取が得意なだけですよ。」
「ノーストのギルドには採取クエストも多いが、この辺りはモンスターも今までよりも何ランクも上のものが出現することが少なくない。クエストを行う際は気をつけてな。」
「はい、ありがとうございます。」
これまでレンがクエストを行った実績は全てギルドカードに記されており、達成率100%という高さと称号付きと言う点から、何の問題もなく街へ入ることが許されたのだった。フードやマントを外せと言われるかと思っていたが、その点に触れてくることも一切なく、レンは無事に街へ入れたことに安堵した。
(冒険者なら傷を隠してたり、フードかぶっている人もいないわけじゃないし、これはもっと早くやっても良かったな。奴隷扱いされないで済むのは助かる。)
「さて、とりあえずギルドに行こうかな・・・。」
レンは教会に行ったことがなかったため、どの辺りに何があるのかはギルドで確認するのが手っ取り早いと考えた。ギルドであれば無料で情報を教えてもらえ、ついでに良さそうな採取クエストがあれば受注しようと考えていた。
「すみません、教会の場所と、採取クエストがないか確認してもらえますか?」
「ノーストの冒険者ギルドへようこそ。ギルドカードのご提示をお願いいたします。」
ギルドの受付に声をかけるのももう慣れたものだった。女性はギルドカードを確認するなり眉を上げ、
「貴方が採取マスターなんですね!お噂はかねがね!・・・そうですね、こちらとこちらはいかがですか。」
と依頼書を2枚掲示した。
通常ならばクエストボードに貼り出されているのだが、モンスターが多いここでは討伐依頼書が多く、採取クエストはモンスター関連以外のものが貼り出されていなかった。
女性はレンが要望を伝えなくとも植物関連の採取クエストを提示し、レンは自分の噂がどの程度まで広まっているものかなんとなく推測がついたのだった。
「ありがとうございます、この2つとも受注します。」
「かしこまりました。教会の場所はギルドがここにございまして、この角を右に曲がり、突き当たりを左に曲がった後、真っ直ぐ進みますと右手側にございます。白い建物です。太陽の形をした窓がついていますので、分かりやすいかと。」
「ありがとうございます、教会に行った後クエストをやろうと思うので、明日には納品できると思います。」
「明日!なるほど、本当にお噂通りですね。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
女性に合わせてレンも軽く頭を下げ、言われた通りの道筋を辿って教会へと向かった。
女性が言っていた通り、他の建物よりも手入れがされているのか壁は真っ白で、上の方にはステンドグラスがついており、太陽の形を表していた。
レンが教会の扉を開けると、中には誰もいなかった。教会の作法や祈りの捧げ方など一切知らないレンだったが、ゲームのスチルの様子と同じように、オーディルヘルム神をモチーフとした石像の前に行き、跪いて両手を組んだ。
(神様、どうか俺に転移魔法を教えてください・・・時の女神様、お願いします。)
何分祈りを捧げただろうか。レンが何度願っても、何も起きはしなかった。
「おや、人がいらっしゃったとは、気づかずに失礼しました。」
石像の横の扉から神父と思われる男性が出てきて、レンに頭を下げていた。
「あ、いえ、勝手に入ってしまい、失礼いたしました。」
「いえいえ、祈りを捧げるのはとても大切なことですから。いつでもいらしてください。
ただ、オーディルヘルム神にお姿を隠すのは好ましくありません。神殿内ではフードやマスクをお取り下さい。」
「これは、失礼しました。」
にこやかにレンに語りかけていた神父はレンがフードとマスクを外した瞬間、目を見開き、眉間に皺を寄せた。そして
「不吉な色の呪われし者が!ここは貴様のような奴隷が入っていい場所ではない!すぐに出て行け!」
と怒鳴り始めた。神父の急変に驚きつつ今にも殴りかかってくる勢いに、レンはすぐさまその場を立ち去ることにした。
「あーびっくりした。宗教って自由じゃないんだ、初めて知ったよ。・・・あーでもどうしようかな。神殿での祈りでも転移魔法が覚えられなかった・・・。」
レンの目的はここで行き詰まってしまった。ゲーム通りであれば、ヒロインがレベル10になれば時の女神が現れ、転移魔法を与えられる。ゲームの設定に記述はなかったが、あの魔法はヒロイン以外使えないものなのかもしれない。
レンの頭の中は真っ白だった。ルークのレベルを上げるため、ルークを家から連れ出せる転移魔法を覚える。その一心でここまでやってきたのだ。
「とりあえず、今日はもう宿を取ろう・・・。」
レンが再度ロープを纏いフードで髪を隠し、マスクをつけると、店主は不思議な装いの冒険者に一瞬驚いた様子を見せたものの、すぐに部屋を用意してくれた。
久しぶりのベットに喜びを感じることもなく、喪失感が襲う。クエストに行くことも忘れ、ただただ呆然とベッドに倒れ込んで天井を見つめた。




