第31話 獣人たちの村
そこには銀色の毛で覆われた老人が立っていた。髪か髭かも分からないほどの毛量の上に、ピクピクと動く垂れた耳が見える。
「あ、突然すみません。僕は冒険者のレンです。」
「冒険者様が何の用ですかな。ここには何もありはしません。ここを真っ直ぐ進むと森を抜け、ノーストという街がございます。そちらでしたら大抵のものはございますよ。」
「あ、いえ、その・・・。」
レンがもごもごとしていると、レンよりもひとまわりほど背丈の小さい女の子がやって来た。
「そのお兄ちゃんも奴隷なんじゃない?」
(お兄ちゃん“も“・・・?)
レンがパッと女の子の方をみると、女の子はふわふわの耳と尻尾を揺らしながらこっちをじっと見つめていた。
「レンとやら、あなたも奴隷なのですか?」
「えーっと、昔は奴隷でしたが今は冒険者です!でも街には居づらくて・・・。」
レンは女の子の話に合わせるように説明した。
「そうでしたか。あなたの容姿も珍しいようですからな。無理もありません。ここには何もありませんが、使って居ない家もございますので、必要でしたらお使いくださいな。」
「いいんですか?実は森を抜けて来たので疲れていて、横になれるところを貸していただけたら嬉しいです!」
「そうですか。でわ、こちらへどうぞ。」
(初めてこの容姿で良かったって思えたな・・・)
レンは老人の案内に従い、誰も住んでいないという家を清潔にした後、藁の上に布が敷かれただけのベッドに横になった。お世辞にも心地の良い寝所とは言えないが、それでも屋根の下で眠れる安心感で、ぐっすりと眠ることができた。
そして翌日レンが目を覚ますと、昨日の女の子がレンをじっと見つめていた。
「わっ!」
驚いて体勢を崩したレンを見て、女の子は嬉しそうにキャッキャと笑っている。
「痛ててて・・・えっと、君は昨日の子だよね?」
「うん、ゆっくり眠れたかなって思って、見にきたの。」
「あぁおかげで助かったよ。ありがとう。俺はレン。君は?」
レンが女の子に向かって握手を求めると、女の子はじっと手を見つめ動かなくなった。
(あれ?握手の文化がないのかな?アルさんはやってたけど・・・)
「私、奴隷だから名前ないの。ここでは茶色の毛だからチャイロって呼ばれてる。」
「え。」
レンが驚いていると、女の子も驚いた顔をして続けた。
「レンも奴隷だったのに知らないの?名前はご主人様がつけてくれるから、それ以外はダメなんだよ?ねぇ、レンのご主人様はどんな人?優しい?ちゃんとご飯くれる?」
ぐいぐいと近づいてくるチャイロに、レンは仰け反りながら応えた。
「そうだね、俺のご主人様は、とっても美しい人だよ。透き通るような髪と肌、そして何よりもいつも優しく微笑んでくれるんだ。」
レンはルークのことを話した。チャイロが目を輝かせ、もっともっととせがむものだから、レンはルークとの思い出話を懐かしむように話した。
「・・・レンは、いいご主人様に出会えたんだね。いいなー。私にも素敵なご主人様がお迎えに来るといいな!」
「・・・チャイロは奴隷が嫌じゃないの?」
レンの質問にチャイロは首を傾げ、笑った。
「どうして?ご主人様の言う事を聞かないといけないのは大変だろうなって思うけど、でも、それが私たち獣人の決まりなんだってジジ様が言ってた!私たちは人より力も強いし、足も速いから、それでご主人様を助けてあげるんだって!
私のお母さんもお父さんも、みんなご主人様が来てね、あったかいお家でご飯を食べて、きっと今は幸せに暮らしてるんだと思うの。だから、私も早くご主人様が来ないかなっていつも思ってる!」
「そうなんだ。」
嬉しそうに話すチャイロだったが、レンの心は複雑だった。これまでレンが訪れた街では、奴隷ではないレンですら不当な扱いを受けることが多かった。奴隷の場合は持ち主が分かるよう、持ち主の名が刻まれた隷属の首輪をつけているため見ればすぐに分かるのだが、それでもレンの扱いは対等ではなかった。
そんな差別が当たり前の世界で、奴隷の扱いはチャイロの望む世界ではないのではないかと思ったが、どうすることもできず、レンはただただチャイロの話に合わせて笑った。
それから数日、レンはチャイロを含めた数人の獣人たちと一緒に狩りをして暮らす生活を続けた。
レンが兎や鳥の位置を特定し、獣人たちがその身体能力を生かして狩る。獣人たちはチャイロの話の通り、レベルが1のままのチャイロですらも初期ステータスが高く、特にATK(攻撃力)とAGI(素早さ)は300を超えていた。
「レンのおかげで狩りが楽ちんだな。」
始めはレンが指示した内容を信じられなかった獣人たちも、本当にレンの言ったところに兎や鳥がいることに気がつき、レンはどんどん集落に溶け込んでいった。
ここの集落には獣人がチャイロも含めて12人ほどで暮らしていた。ジジ様と呼ばれる銀髪の老人が集落をまとめ、力を合わせて自給自足の生活をしていると言うことだった。
(ここの生活も悪くはないけど、転移魔法の手がかりは掴めていないし、やっぱり一度ノーストに行ってみないとかな・・・)
今が何月なのか、レンは正確に知ることはできなかったが、段々と肌寒くなっていく空気で、季節が秋を過ぎていると感じていた。レンの読みは当たっており、すでにレンは7歳の誕生日を迎え、ルークも9歳になろうとしていた。
マリーナの占い通りに北へと向かったものの、いまだに転移魔法の手がかりは掴めず、レンのレベルも森での狩りを続けたことで先日10に達したのだが、何の変化も起こらなかったのだ。
(ゲームの世界だと、祈りを捧げていたら時の女神が現れるから、俺も教会で祈りを捧げる必要があるのかも・・・)
レンはレベル10に上がったことで、一度ノーストに行ってみることにした。チャイロも一緒に行ってみたいと聞かなかったが、すぐにジジ様に捕まり、ジタバタと暴れるチャイロに手を振り、レンは1人でノーストへと向かった。
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