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第29話 我慢の限界

 翌朝レンはまだノックの音と同時に入室してきたマティスによって叩き起こされた。

「おいっ、レン、起きろ、鑑定依頼だ。」

「・・・マティスさん、それじゃノックの意味ないですって・・・。

 え、こんな朝から鑑定の依頼ですか?」


 レンの頭がまだはっきりしない間にマティスはすぐさま衝立を用意し、レンにロープとマスクを投げ渡した。

「昨日のパーティが酒場で鑑定書の話をしたらくてな、すでに鑑定待ちのパーティが10組はいるぞ!早く支度しろ!」

「え!」

 レンが見つからないように二階から一階を覗くと、そこにはたくさんの冒険者たちで溢れていた。


「ヒルダには事情を話してある。ヒルダが案内などを担当することになったから何かあれば言え。」

「レンくん、おはよう〜。よろしくね!」

「おはようございます。でわ1組目の方を連れて来てください。終わったらすぐに2組目を案内してください。MPが足りなくなったら今日はおしまいにしますね。」

「OKだよ!じゃあ連れてきますね。」


「いいか、レン、俺が言ったこと忘れるなよ。」

 ヒルダが出て行った後、マティスはそう言い残して出て行った。マティスの忠告は、レンに鑑定しすぎるな、ということである。意味が解明されていないステータスについてあまりにもレンが詳細に書くと、どこに目をつけられるか分からないからだ。


 こうしてレンはその日1日、MPが切れるまでひたすら鑑定を行なった。マティスの忠告通り、各自のステータスの鑑定以外の説明は、「魔法士としてやっていくのであればINTをあげた方がいい」など、ざっくりとした補足説明に留めるようにした。


「ヒルダさん、今日はもう次で終わりにします!まだ並んでいる方がいたら明日優先的に見ますので、何か台帳のようなものとこの番号を書いた紙を、今並んでいる順に渡してもらえますか?」

「了解っ!」



 その後もレンの鑑定士としての仕事は、大繁盛。あっという間に金貨100枚もの大金を稼ぐことができた。手に入れた金で当初予定していたテントよりも状態の良い物を購入し、肉やポーションも買い揃えることができた。


「いつ街を出ようかな・・・。」

 安定した収入も得ることができるようになり、ギルドでの生活は快適だったが、転移魔法の手がかりはいまだ何も掴めていない。スライム狩りは続けているもののやはりレベルは中々上がらず、鑑定スキルだけがレベル4になった。

 鑑定スキルが上がったことでレンの索敵範囲は広がり、街1つ分程度はどこに何があるか分かるようになった。そして今まで見たことがないものでも、名前が分かれば鑑定スキルで検索することができるようになった。

 レンは採取クエストであればどんなに見つけづらいものでも見つけてくる。<採取マスター>とギルド職員たちが呼んでいることと、黒髪黒目の珍しい容姿からも、この街の人間であれば知らないものはいないほどに有名な冒険者となっていた。


 時折冒険者たちとパーティを組みながら採取クエストも行なったが、スライム以外のモンスターはどうしても倒すことができず、レンは索敵専門の採取マスターと、冒険者からは意味深に呼ばれるようになっていった。



 ♢



 レンがいつものように採取クエストを終え、行きつけの串焼き屋の串をその場で平げ宿に戻ろうとしていると、ガンッという音とともに頭に鋭い痛みが走り、レンの目の前は真っ暗になった。


(・・・うっ、頭が痛い。何かで殴られたのか・・・。どこだここは?)

 目を覚ますと、レンは両手両足が縛られ、目隠しをされた状態で椅子に括り付けられていた。


「おい、目が覚めたか?採取マスター?」

 レンが男の声に驚き、体をビクッとさせると男たちはその様子を見て笑い出した。何人いるかも分からない男たちの笑い声にレンはただただ恐怖で硬直した。


「おいおい、怖がってんじゃねーか!目隠し外してやれよ。」

 男の声と同時に目隠しが外されると、そこには見るからに悪人そうな男たちが5人レンを囲って立っていた。


「・・・何が目的だ。」

「おい、口の聞き方に気をつけろよ?その見た目、奴隷上がりだろ?奴隷の分際で人間様に舐めた口きくんじゃねぇよ。」

「やめてやれよ、まだガキだろ。

 ・・・おい採取マスター様よ、俺らも別に取って食おうってんじゃねぇ。ただガキが1人で冒険者やってくのも大変だろうと思ってな。採取クエストで手に入れた金、結構持ってんだろ?それよこしな。そしたら解放してやるよ。」

「ま、解放してもまた溜まった頃にもらいに行ってやるけどな!!」

 男たちはまたゲラゲラと汚い声で笑い始めた。


 レンはマリーナの娼館で娼婦たちから教わっていたことがあった。この類の男たちは一度でも言うことを聞けば最後、しつこく付き纏われることになる。何をされようと受け入れてはいけないと。しかし抵抗した場合に何をされるか分からない状態で、頭ごなしに拒絶する危険性も分かっていた。


「・・・分かりました。お金は渡しますので、ロープを外してくれませんか?」

(いくらかお金を渡したらギルドに戻ってすぐこの街を出よう。)


 腕のロープが外れると、レンは素直に懐に入れていたアイテム袋を取り出し、金貨5枚ほどを男たちに渡した。もちろんこれは全てのお金ではなく、採取クエストで稼げるであろう程度の金を換算してレンが取り出したのだ。

 

「おい、お前のその袋、アイテム袋だろ。これごともらってやるよ。」

 レンの考えを見透かしたかのように、男の1人がレンの手からアイテム袋を奪い取った。レンは必死に抵抗したが、頬を思い切り殴られ、床に倒れ込んでしまった。


「テメェは今日から俺らの奴隷だ!奴隷らしくご主人様に尻尾振って愛想振り撒けば悪いようにはしねぇでやるよ!」


 男たちの大きな笑い声が部屋中に鳴り響く中、レンはじんじんと熱を帯びていく頬を抑え、歪んでいく視界の中で静かに床を見つめた。


(どうしてまた俺はこんな扱いを受けなきゃいけないんだ・・・?俺が何をした。ただ一生懸命に頑張って働いて。それだけなのに、またこんな扱いを受けて。見た目がなんだと言うんだ。たかが見た目で、どうしてこんな・・・)



 レンは怒りのままに、レンを殴った男を睨み、こう呟いた。

「<ファイヤ>」


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