第3話 兄様王子になります!
ルークがまじまじとレオンの書き記したシナリオを読んでいる姿を見て、レオンの顔は真っ青になった。
(まずい!これから魔法学校に入ることやレオンが火属性のことなど、未来予知のような内容が見られてしまった・・・!どうしよう、とりあえず5歳だし、物語考えてたとか・・・)
レオンが起きたての頭で精一杯の言い訳を考えていると、青ざめているレオンを見るやルークは慌てて駆け寄り、額に手をそっとあてた。
「まだ顔色が良くないね?大丈夫かい?夕飯は食べられそうかな?」
まだ7歳にも関わらず、優しい微笑みは中性的な色気も漂い、レオンの顔は青から赤へ一変した。
「ひ、ひぇ・・・」
「火?」
「い、いえ、大丈夫です!薬を飲んで眠っていたので、あの、もう、本当に大丈夫です!」
レオンはルークの手を払い、つい光の時の癖で顔を伏せ、相手を拒絶してしまった。そしてこれまでのレオンはまだ5歳、家庭教師もつけてもらえず、ルークかエマに読み聞かせてもらっていた本でしか勉強をしてきていない。にも関わらず、レオンは急に流暢に敬語を話すことができるようになったのだ。ルークの顔を前髪の隙間から見上げると、キョトンとした顔でレオンを見つめている。
(しまったーー。これまでのレオンはお兄ちゃんに甘えてばっかの泣き虫レオンだったんだよね。ルーク兄様に会っては、いつも部屋から出て行ってしまう兄様に行かないでと泣きじゃくっていたのに、今の態度はおかしかった・・・)
ルークは伸ばした手をそっとレオンの頭に乗せ、優しく撫でた。
「誰かに何か言われたのか?気にしなくていい。レオンはレオンだよ。無理に僕の前では敬語を使わなくてもいい、いつものように泣いていいんだよ。僕たちは家族なんだから。」
その言葉はルークが最愛の弟レオンに向けた言葉だった。それでも光は、そのルークの優しさで立花 光だった自分も救われた気がした。
前世は家族に恵まれなかった。母からの愛が欲しかった。唯一愛してくれていると思っていた父からも見捨てられた。妹のために頑張れば家族が自分を見てくれると思っていた。自分のことは二の次にし、家族からの言いつけを守って生きた人生だったが、終ぞ報われることはなかった。
(・・・あぁ、そうだ。私が欲しかったのは見返りなんて求めない、純粋な愛だった。誰かに愛して欲しかった。自分を認めて欲しかった。グズでノロマでブスだったけど、それでも愛されたかった・・・)
レオンの目からポロポロと大粒の涙が溢れ出す。ルークはそんなレオンをそっと抱きしめてくれた。光だった時には感じることのなかった人の温もり。レオンは感情のままただひたすらにルークの腕の中で泣き続けた。
ひとしきり泣き終える頃にはレオンの目は真っ赤になり、ルークの服もぐっしょり濡れていた。
「ふふっ、いつもの泣き虫レオンだね。」
7歳の子供に23歳の大人が泣きつくなんて前世では考えられなかったが、どうやら感情のコントロールなどは5歳のレオンに引っ張られるようだった。
ルークはエマに言いつけ夕飯のスープを温め直し、「今日だけは特別だよ」とレオンの部屋でルークとエマが一緒に食事をとってくれた。泣き疲れた分お腹が空いていたからか、人生で一番美味しい食事のように感じた。
ルークは食事中もずっとレオンの方に微笑みかけていた。レオンはそれが少し照れ臭かったが嬉しく、「愛されている」というのはこういうことなんだと初めて感じることができた。
画面越しに見ていたルークは誰にでも優しくイケメンで、こんな兄がいたらいいのにと思うことが何度もあったが、それが現実になった。
ゲームのシナリオの細かいことはまだ思い出せない。ただ唯一言えることは、この天使のような優しい兄は、自分が爵位を継げなくても、弟に馬鹿にされても、仕返しなどせずにサポートをしていた。バッドエンドルートでレオンと一緒に処刑されることになっても、レオンへの恨言一つ言わなかった。ルークは心から弟としてレオンを愛していたのだ。
(こんな優しいルークお兄様が報われないストーリーなんてあり得ない!きっと私がレオンに転生したのも神様がルークお兄様を救って欲しいって思ったからかも・・・!
決めた!私、絶対にルークお兄様に恩返しできるような優しいレオンになる!俺様王子になんてならない!!兄様王子になるぞ!!!)
レオンはスプーンを掲げて、この心優しいルーク=クラリウスのために生きていくことを決意した。
ルークははしゃいでいるレオンに微笑みながら、あっと言い、
「そう言えばレオンが書いたこの紙のことなんだけど・・・」
とレオンの紙を持ってきた。
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