第28話 鑑定スキルが特殊だったようです⁉︎
マティスを引き剥がし、互いの呼吸が整った後、マティスの部屋でお茶を飲みながら腰を据えて話をすることになった。
(紅茶、美味しいなぁ。)
マティスは美味しそうに紅茶を飲むレンを見つめながら
「お前はステータスの意味が分かるのか?」
と再度質問した。
「意味ってATKが攻撃力だ、とかってことですか?それは分かりますけど、マティスさん達だって分かってますよね?」
「・・・俺たちが分かっているのはHP、MP、ATK、DEF、これだけだ。他のものは何の意味があるのか、俺が知る限り、正確に分かっているものはいない。これだって数十年かけて、やっと帝国の鑑定士たちが見つけたんだ。」
(知らなかった。ゲームと同じステータスボードだったから、同じ意味として捉えてたけど、みんなは意味がわかってたわけじゃないんだ。)
そう、レンが当たり前のようにAGIは素早さだ、INTは知力すなわち魔法を覚えるために必要なものだと捉えていたものは、この世界では未だ解明されていないものだった。
腕力の強いものと弱いもののステータスと魔力の強いものと弱いもののステータス、それぞれを鑑定士たちが数百人と鑑定し、差分を踏まえてそれぞれの意味を見出していたのだ。素早さや知力などは差分の付け方が難しく、解明ができていないものだった。
「そしてお前はステータスを数値化したな?あれはどうやった?」
「え?どうって、普通に見たものをそのまま書いただけですよ。」
マティスはふーっと息を吐くなり、机の中から一枚の紙を取り出し、レンに渡した。
「これは、昔俺が冒険者だった時に金貨100枚で鑑定士に書いてもらった俺のステータスだ。」
そこには名前、種族、年齢、レベル、そして各ステータス名の横にSやA、Bという文字が記されていた。
「あれ?」
「それは帝国一と言われる鑑定士の鑑定書だ。」
レンが事態を飲み込めないでいるとマティスはまたため息をつきながら話を続けた。
「分かったか?普通はステータスはどの程度の強さかしか分からず、人と比較することが難しい。だが数値化されるお前の鑑定スキルは、帝国一の鑑定士以上だってことだよ。
それにお前が渡した紙はなんだ?あれは俺が渡した紙じゃないな?お前は金に困っていると言っていたが、あんな上質な紙をどこで手に入れた?」
マティスはレンを鋭い目つきで睨み、レンは蛇に睨まれたカエルのような思いだった。口が思うように動かなかったが、答えないわけにはいかない。
「誤解です。あの紙はギルドからもらった紙です。」
「おい、嘘ついてんじゃねーぞ?あんな上質な紙、うちでだってそう用意できるもんじゃねぇ。ましてや一冒険者相手に渡すようなもんじゃねぇ。」
「あの、お見せしますので、紙を1枚いただけますか?」
レンはビクビクとしながら机の上を指さした。マティスはレンを睨んだまますっと立ち上がり、マティスに紙を渡した。一般的に流通してる薄汚れた紙だ。
「じゃあ、失礼します・・・<クリーン>」
「なっ!!!」
レンが呪文を唱えるなり、紙は真っ白く透き通る紙へと生まれ変わった。それを見たマティスは机が壊れるほどの勢いで頭を下げ、レンに謝罪した。
年齢や身分、見た目でレンを判断せず、自身に非があると分かるとすぐに謝罪ができるマティスを、流石はギルド長とレンは心から尊敬した。
レンが快く謝罪を受け入れると、改めてマティスは今後の提案をした。
「レンの魔力は尋常じゃない。普通なら生活魔法で物を浄化させるなんて聞いたことがないし、レンほど詳細に鑑定することはできない。それにステータスの効果も、あれが本当ならすごい発見だ!
・・・レンの鑑定スキルは金貨1枚じゃ割りにあわねぇ。が、ここにはそんな大金払える冒険者もいねぇ。レンが望むなら鑑定士への推薦状を俺が書いてもいいが、どうだ?」
「いえ、お気持ちは有り難いですが、俺は鑑定士になるつもりは今のところありません。むしろ金が欲しいので、できればこのままここでもう少し鑑定士をやってもいいですか?」
レンが迷うそぶりも見せずに断ると、マティスはびっくりした表情をしていた。
「それはレンがいいから断る理由はないが、いいのか?」
「はい!あ、もし必要なら他の紙も同じように白くしますよ?」
「なに!いいのか?・・・いや、それは流石にやめておこう。今の紙も書きづらいが書けなくはないしな。必要になったら数枚買い取らせてくれ。」
「分かりました。でわ、また明日からもよろしくお願いします。」
無事にマティスの誤解も解け安堵したレンだったが、この日を境にレンの環境が一変することを、このときは予想だにしなかった。




