第26話 ギルド長マティス
「これお願いします。」
レンはお昼の鐘と共にギルドに戻った。
朝の受付の女性はもういなくなっていた。
「はい、光苔の採取クエストですね。随分たくさん集まりましたね。まとめて持ってきてくれてもいいんですが、できればこまめに報告に来てくださいね。奥で測ってきますので、お待ちください。」
女性が奥に光苔を持っていくと、すぐに奥から朝にいた受付の女性がやって来た。
「・・・あの!これ、今採ってきたんですか?」
「え、まぁ、そうですけど。」
「ちょっとこっちに来ていただけますか?」
レンは女性に案内されるなり、ギルドの2階の部屋へ通された。
(なんかまずかったかな・・・ちゃんと全部光苔だったと思うんだけど。)
コンコンッ。
「はいっ!」
レンはノックの音と同時に椅子から飛び上がり、直立して入ってきた強面の男性を見つめた。横には先程の女性もいる。
「あぁ、楽にしてくれ。すまんな、急に呼び出して。」
「いえ・・・あの、俺何かミスしてしまいましたか?」
「いえ、レンく、レン様の採取してきた光苔は全て正しく光苔でした。」
「良かった!・・・あの、じゃあなんで呼ばれたんですか?」
男性も女性も途端に口を閉じ、部屋には重たい空気が流れた。何かしてしまったのかとレンの額には冷や汗が噴き出した。しばらくの沈黙が続いた後、強面の男が口を開けた。
「俺から説明しよう。君が採取してきたのは1キロ程の全て正しく光苔だった。銀貨1枚の報酬になる。」
(やった!思ったよりもお金になったな。)
レンの表情とは逆に男の顔は曇ったままだ。
「・・・あの、それで何か?」
男はふーっとため息をつき、女性が重たい空気を見かねて説明を始めた。
「レン様に受注いただいたこのクエストは、慈善事業のような意味合いも兼ねていまして、戦闘スキルの低い冒険者などに受注いただくことが多いんです。私も朝レン様を見かけた時にお金に困っているご様子だったので、このクエストを紹介させていただきました。」
(なるほど、だからクエストを個別に紹介してきたのか。)
「光苔の採取自体は難しいものではありません。日中の間は光っているので見つけやすいですし。ですが・・・」
「ですが?」
「1度にこの量を採取することは通常あり得ないんです。光苔は正午を過ぎてからどんどん光を失い、普通の苔にしか見えません。そのため普通の苔を持ってくる冒険者の方も多くいらっしゃいます。ですがレン様の採取してきた光苔は紛れもなく、全て光苔でした。」
レンは光苔を光で探したのではなかった。鑑定スキルで光苔を探し出し、ポップアップ表示が出ているところに向かって歩いては採り、を繰り返したため最短ルートで森中の光苔を採取することができたのだ。
(鑑定スキルのこと、説明してもいいものかな・・・。)
レンが目線を上にそらすと、男はすぐに
「名乗るのが遅れて申し訳ない。俺はここのギルド長をやっているマティス=バーンだ。彼女はヒルダ。我々はギルドに勤めるものとして、冒険者の守秘義務を遵守する。安心してくれ。」
とレンの目を真っ直ぐ見ながら言った。
「・・・信じていただけるか分かりませんが、俺は鑑定スキル持ちです。光苔はそのスキルで見つけました。」
「な、鑑定スキル!?それは本当か?・・・いや、疑ってすまない。短時間で光苔をこの量見つけられたというからには、本当なんだろうな。」
ギルド長というだけあり、マティスは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに深呼吸して平静を装った。
「鑑定スキルを持っている君がなぜ冒険者をやっているんだ?」
「俺は叶えたい目標のために北に向かっています。冒険者は身分証が欲しかったのと、金がないので・・・。」
「なるほど。」
マティスはそれ以上の詮索をしてこようとはしなかった。
「どれくらいこの街に滞在するつもりかは決まっているのか?」
「決めていませんが、この街では俺の見た目では宿に泊まれなかったので、金が手に入ったらすぐに次の街に行こうと考えていました。」
「なるほど。」
マティスはしばらくの間考え込み、レンに1つの提案をした。
「俺のギルドで働いてみないか?」
「え?いや、俺は北に」
「いや、言い方が悪かった。期間はレンが必要な金が入るまででかまわん。ここから北の街はここよりももっと寂れていくからな。金が欲しいならこの街で手に入れてから行った方がいいだろう。
実は最近冒険者たちの怪我が増えていてな。ランクを見直そうか考えていたんだが、どうだろうか、レンの鑑定スキルで冒険者たちのステータスを見てやってくれないか?」
「それは・・・」
「料金は1人金貨1枚でどうだ?」
「やります!」
金に釣られたレンはマティスの提案を勢いよく快諾してしまった。本来であれば鑑定士に鑑定をしてもらうのは金貨100枚。金貨1枚で鑑定というのは破格の値段だが、鑑定士として働いているわけではないレンにとって金貨を手に入れることができるのは滅多にないチャンスだった。
「でも、条件があります。」
レンの出した条件は、鑑定士レンの姿を相手に見えないようにすること。鑑定スキルはレアスキル、それをレンのような子供が持っていると知られれば何をされるか分からない。そのため衝立を設置し、鑑定結果は紙に書いて渡す、という条件を掲示した。
「こっちはそれで構わないが、紙に書いて渡すのはむしろお前にとって損じゃないのか?成人の儀で鑑定士に見てもらうときだって口頭だからよ、聞き取れなかったり忘れるから鑑定士ってのは儲かるもんだろう。」
(なんだそれ。悪どい商売だな。)
「いえ、俺は正規の鑑定士ではありませんから。声で特定されるよりそっちのがいいです。」
こうしてレンはギルドの1室を間借りし、鑑定士レンとしても活動を始めた。
マティスの計らいでその部屋での寝泊まりも許可してもらい、鑑定とクエストをこなす生活がスタートした。
読んでいただきありがとうございます!
レンがやっと鑑定士としても活動を始めることになりました!
少しでも面白い・続きが気になると思っていただけましたら
下にあるポイント評価欄・画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。
皆様からの応援をいただけたら嬉しいです。
これからも執筆を続けられるようがんばりますので、
応援よろしくお願いいたします!




