第25話 採取クエスト楽勝
それから一週間後、レンはマリーナへ手紙を残して館を去った。
理由はゾイド達がすぐに来られないことが判明したからだ。マリーナはすぐに手紙を出してくれ、その返事は『今は重要なクエストを受注中のためすぐに行くことはできない』というものだった。クエストが完了次第来てくれるとのことだったが、いつになるか分からない不確定な時間を待つことはできなかった。
「ありがとうございました。」
マリーナや娼婦達に引き留められて心が揺らぐことがないよう、レンはいつものようにスライム狩りに出かけ、そのまま戻らなかった。
「行ってらっしゃい。」
マリーナはレンの部屋でぽつりと呟いた。
♢
「まずはこの道をまっすぐ北上して次の街を目指そう。」
お小遣いで手に入れた公国の地図は、地図と呼べるのかと思える程大雑把なものだったが、ないよりはマシだった。
レンは、レベル上げで獲得したSPをDEF(防御力)とAGI(素早さ)をメインに割り当てていた。また6歳になったことで、それぞれのポイントも上昇した。
そうしてレンは元々高かったMPは魔法騎士団団長と同等の500越え、その他も多少のばらつきはあるものの成人の平均値の100程度に達することができた。
HPだけはSPで伸ばすことができなかったため75となっていたが、補うアイテムなどを買う余裕もなかったので、この点を補うためにDEF値に多めに割り振りをして工夫をしていた。
レンが何気なく行っているこの作業は、実はこの世界にとっては珍しい行動だった。
自分の数値が今どうなっているのか、鑑定スキルを持っていないものは確認しようがない。鑑定スキル持ちの人間は帝国お抱えの鑑定士として数十人ほどしかおらず、例え冒険者であっても一生自分の数値がどの程度か知らないまま終わることの方が当たり前だった。
そのためレベル上げ(冒険者は女神の加護と呼んでいる)で得られるポイントが表示されても、初期値や合計値が分からないためにそれぞれ適当に割り振っており、所謂「○○特化型」のタイプの冒険者が多かった。
「レベル上げしてたからか、体が大きくなったからか、ゾイドさん達と歩いていた時より体が軽く感じるな。」
レンの足取りは軽く、3日後には街に着いた。
首都のノーザスから離れるほど規模は小さくなるようだったが、この街でも同じく門番に「奴隷」と言われ、ギルドカードを見せることで嫌々通してもらうことができた。
「流石に3日野宿はキツいな。今日はどこか宿に泊まりたいけど・・・」
レンはしらみつぶしに宿屋をあたったが、どこも「奴隷に泊まらせる所はない」と門前払いされてしまい、宿を取ることはできなかった。
「仕方ない、ギルドに行こう。」
レンは薄暗くなってきたところで宿探しを諦め、ギルドへと向かった。
レンがギルドに向かったのはアルが昔ギルドで寝泊まりしたことがあると言っていたからだ。ギルドはクエストの依頼の受注・報告などを冒険者がいつでもできるよう、24時間空いている。ギルドはパーティメンバーとの待ち合わせ場所にも使われることが多いので椅子やテーブルも置いてあり、そこを使っていたとのことだった。
ギルドはもう夜になるというのに思ったよりも賑わっていた。レンはなるべく隅の方の椅子に座り、アイテム袋から水袋と食べかけのパンを取り出し、静かに食事をした。
(これで食料も終わり。お金も残り金貨1枚。食料も買って、やっぱりテントも欲しいし、とりあえず、明日薬草をギルドに売って・・・)
レンはそのまま机に突っ伏して眠ってしまった。
目が覚めると大勢いた冒険者達はいなくなっており、ギルド内は静かだった。窓からは和やかな朝の光が差し込んでいた。
レンは椅子から降り、受付に声をかけた。もう受付の台からも顔がちゃんと見えるようになった。
「すみません、薬草は買い取ってもらえますか?」
「おはようございます、はい。買取は行なっております。10本で1銅貨となります。」
「じゃあこれ、あるだけ。これがギルドカードです。」
レンはアイテム袋から道中に摘んできた薬草を取り出し、換金してもらった。
(これで残金は金貨1枚と銅貨5枚か・・・)
「ねぇレンくん、薬草を見つけるのが得意なら、このクエストもやってみない?」
銅貨を見つめるレンの様子から、お金に困っていることを察した受付の女性が声をかけてきた。
クエストの内容は『光苔の採取』と書かれていた。
「これは日中だけ光る苔なんだけど、採れる量が少ないから、10グラムで1銅貨なの!森の入り口付近にも生えてるし、今から行けばそれなりに採れると思うんだけど、どうかな?」
「ありがとうございます。これ、現物を見ることはできますか?」
「うん、いいよ、ちょっと待っててね。」
女性は奥から瓶に入った青白い光を放つ光苔を持ってきた。レンンはマリーナの仕事を経てレベル3に上がった鑑定スキルを心の中で唱えた。
・光苔:日中だけ光を放つ不思議な苔。中級ポーションの材料。
「なるほど、中級ポーションになるのか。」
「えっ」
「じゃあ俺このクエスト受注させてもらいますね。採取終えたら戻って来ます。」
レンは光苔を探すためにすぐに街を出た。受付の女性が言っていた通り、門を出てすぐ脇の森に入るなり光苔を見つけることができた。
「これは僕にとっては美味しいクエストかも。」
レンは鑑定スキルがレベル3になったことで半径10キロメートル辺りまでは周囲を鑑定(探索)できるようになっていた。ただし制限もあり、レン自身が見たことのあるものでなければ鑑定はできなかった。
「よし、この調子でどんどん採っていこう!」




