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第23話 お別れ

 翌朝いつものようにアルの尻尾を抱きしめて寝ていたレンは、いつものようにリリーに起こされ、顔を洗い、朝食。一週間程度の出来事だったにもかかわらず、屋敷で過ごしていた何年もの時間よりも濃い時間だった。


「レン君、行く当てがないのなら私の友人の仕事を手伝ってみないか?君の鑑定スキルならきっと役に立つと思うんだ。」


 それはゾイドからの提案だった。断る理由もないレンはゾイドの心遣いにお礼を言い、泣きじゃくるリリーやアル、ソフィアに頭を下げ、ゾイドにもらった地図を頼りに、深紅の稲妻に別れを告げた。

 みんなが見えなくなったのを確認し、レンはそっと泣いた。


 気を取り直してゾイドの地図を頼りに何度か道を尋ねながら着いたのは街の中心から少し離れた場所の店だった。中に入ると棚一面に瓶が並んでおり、甘ったるい香りが漂っていた。

「ここは、薬屋さん?」

「いらっしゃい坊や。坊やみたいな小さい子が、こんなところに何のようかしら?」

 現れたのは妖艶な女性。胸元まで大きく開いたベルベットのワンピースからは、スラッと伸びた足がのぞいていた。


「あ、僕深紅の稲妻のゾイドさんの紹介できました!」

「ゾイドの・・・?」

「あのこれお手紙です。」


 手紙にはレンが鑑定スキル持ちであること、生活魔法の威力が異様に高いこと、そしてその力の使い道を教えてあげて欲しいと記されていた。

(この子が鑑定スキル持ち・・・?本当なの?俄には信じられないけど・・・)


 女性は手紙を読み終えると手紙を燃やしてしまった。

「・・・良いわ、坊やのお名前は?」

「レンです。」

「そう、私はマリーナ。この娼館のオーナーよ。」

「え、しょ、娼館?」

「昼間は素材の買い取りや薬屋をやっているわ。夜は娼館。娼館の意味は分かるかしら?」


 レンは少し赤らめた表情で首を縦に振った。

「ふふ、頭のいい子は好きよ。レン、着いて来て。」



 レンはマリーナの後を追いながら、奥へと入って行った。

 奥の1室に案内されると、マリーナはレンの前に箱と紙とペンを渡した。

「この箱の中にあるものを鑑定して、分かった情報をここに記しなさい。これがレンのお仕事よ。いい?」

「はい!」

(これは思ったよりも簡単な仕事そう!良かった!)


「じゃあ、私は店番があるから、何かあったら呼んでね。」


 マリーナが部屋を出て行くと、レンは早速仕事に取り掛かった。

「<鑑定かんてい>」


「えっと、これは【マンドラゴラ:麻痺状態を治すポーションの材料。組み合わせて状態以上回復ポーションも生成可能。このまま食べると威力【中】の麻痺状態であれば回復、味はニニンジンに近い。】ね。よし。この調子でどんどん行くぞー!」


 レンはひたすら箱の中から取り出し、鑑定結果を書いてはその紙の上に分かるように物を置いていった。



「よし、次は・・・」

 突然目の前が真っ暗になり、レンはその場に倒れ込んだ。



 ♢



「・・・ン、レン、大丈夫?」

 目が覚めるとマリーナの膝の上にいた。

「わっ!すみません、僕眠っちゃって」

「違う違う。魔力が無くなって倒れたのよ。」


 マリーナはクスクスと笑いながらMPポーションだと言い小瓶を渡した。マリーナの言う通りに小瓶を飲むと先ほどまでの頭痛が嘘のように消えていった。


「どれ、どこまで進んだのかしら?あら、もうこんなに終わったのすごいわね!でも・・・」

「え、どこか間違えていますか?」

「うーん、まぁ字は少しずつ綺麗に書いてくれればいいわ。」

 レンは綺麗に書いているつもりではあったのだが、帝国文字にはやはり慣れることができず、ここでも文字の汚さを指摘されてしまった。そして鑑定のポップアップに表示されている文字は日本語のため、意識しないとそのまま日本語で書いてしまうので何度も書き損じがあったのだ。



「す、すみません。」

「いいのよ、それよりレンはやっぱり高い魔力の持ち主なのね。一度にこんなに鑑定するなんて、びっくりしちゃったわ。それにいつも鑑定アイテムを使って見てるんだけど、それよりも詳しく書いてあるわね。」


(鑑定アイテム?ギルドのお姉さんが使ってた虫眼鏡みたいなやつかな?鑑定スキルがない人はそれを使って鑑定しているのか。そうすると貴重な鑑定スキルって言われるけど、実はそんなに大したことないんじゃ・・・)


「自分のスキルが大したことないって思ってる?ふふっ。レンは顔に出やすいのね。

 鑑定アイテムといっても、それが何のアイテムかしか分からないことの方が多いのよ。それにレンはゾイドのことを鑑定したようだけど、アイテムでは生きた物を鑑定することはできない。普段はアイテム名を鑑定したら本で効能を調べたりするんだけど、レンの鑑定ならそれも不要ね。助かるわ。」


 レンの心を見透かしたようにマリーナは続けた。


「そうね、この屋敷の1室を貸して、食事もつけるわ。今日と同じ程度の鑑定を毎日してくれれば残りの時間は何をしてくれてても構わない。スライムを狩りに行ったって良いわよ?どうかしら?」


 レンはパァっと晴れた笑顔で

「ありがとうございます!!!!!」

 とお礼を言った。



 その後回復したMPで残りの鑑定も終えると、マリーナに2階の角部屋を案内された。使っていない部屋だと言うことで埃や蜘蛛の巣も張っていたが、レンンには何の問題もなかった。

 魔法が得意というソフィアに教えてもらった生活魔法<クリーン>を覚えたからだ。旅路中は風呂に入れない代わりに<クリーン>を使って身なりを整えていた。本来は自分1人にしか適用されない魔法だが、レンの魔力にかかれば、小部屋1室でも問題なかった。


 部屋を綺麗にすると、レンは机に向かってアイテム袋から紙とペンを取り出した。レンが屋敷から持ち出した数少ないアイテムの1つだ。

「とりあえず拠点はできた。しばらくはここでマリーナさんにお世話になりながら、スライムを狩って、レベル10を目指そう!」



 レンの冒険はまだまだ始まったばかり。


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