第22話 新しい街ローウェル
レンはアルに言われたことを考えた。自分のスキルの有用性。どうするればこのパーティに同行させてもらえるかを。
冒険者は粗暴な者が多い。レンの鑑定スキルが悪用されずに隣町まで連れ行ってくれたのは、リリーを筆頭に子供が好きなメンバーが揃っているパーティに出会えた、ラッキーだったとしか言えない。レンもそのことは分かっていた。
そして5日目、ゾイドの見通しであれば今日の夕方には街に着くとのことだった。
「あ、レンくん見てみて〜!あれがスライムだよ!」
街が近づいてくると、時折ゼリーのようなものが道の脇に落ちていた。
(スライムはぶつかってきても1のダメージしかないし、Bランクの皆さんにとっては大したことないんだな)
「あの、スライムを倒してみてもいいですか?」
「うん?まぁまだ日は高いし、もうすぐで街に着くから、少しの時間ならいいよ。その間私たちは休憩にしようかな。」
ゾイドは抱えていたレンを下ろし、リリーに手を引かれながらスライムに近づいた。
「<鑑定>」
【スライム:普通のスライム Lv1 HP15
アタック攻撃に当たるとHPマイナス1のダメージ。体の中心の核を壊せば消滅する。】
レンはアイテム袋からルークから譲り受けた剣、通称ルークソードを取り出し、スライムに斬りかかった。そして再度鑑定をすると、HPが14になっていた。
「なるほど、僕の攻撃は1なのか。じゃあこれはどうかな・・・<ファイア>」
レンは草原を燃やしてしまわないよう、スライムだけに当たるよう意識しながら火を放った。するとスライムは跡形もなく消えてしまった。
(あーこれじゃ威力が分からないな・・・)
「リリーさん、もう1匹あそこにいるみたいだから行ってもいいですか?」
レンがくるっとリリーの方を振り向くと、そこには目をキラキラさせたリリーがいた。
「す、すごーーい!!!レンくん、天才!!まだ小さいのに魔法も使えるのー!!すごーい!!」
リリーはレンに抱きつき、クルクルと回り出した。
「ちょ、リリーさん、やめて、やめてください。うえっ。」
「おい、リリーそのへんで離してやれよ。」
「あ、ごめんごめん。」
駆け寄ってきたアルの静止によってレンは昼食を草原に出さないで済んだ。
「お前、魔法も使えんだな?火の属性魔法か。」
「いえ、違います。これは生活魔法なので属性魔法ではないです。」
「はぁ?生活魔法であんなに威力出るわけねーだろ!」
アルはレンの説明が信じられないという態度で、リリーも信じていない様子だった。
(そう言われてもなぁ・・・)
「ただの生活魔法なので、他に<ライト>と<ウォーター>が使えますよ。ほら。」
2人は口を開いたまま、呆気に取られた様子だった。威力の強弱やウォーターの威力も試したかったレンだったが、諦めてゾイドとソフィアの元へ戻った。
「お、あれが街だぞ。」
ゾイドが指差した先には<ようこそ、ローウェルへ>と書かれた門があった。
門番にギルドカードを掲示し中に入ると、ノーザスよりは規模が小さいものの活気あふれる街が広がっていた。
「とりあえず日が落ちて来たから宿を取ろう。」
ゾイド達は常連の宿があるようで、キョロキョロと辺りを見渡すレンを引っ張りながら真っ直ぐ宿屋へ向かった。
「うわーやっと着いた!!疲れたーー!ベッド嬉しいーーー!」
リリーは部屋に着くなりベッドに寝転び喜んだ。
「レンくん、今日も一緒に寝ようね〜!」
「リリーの寝相が悪くてこいつ結局俺んとこに来るんだからいい加減諦めろよ。」
「アルは黙ってて!」
いつもと変わらない賑やかなパーティ。
だが、その雰囲気はゾイドの一言で一変した。
「さて、レン君。今日まではここで過ごしてもらって構わない。でも君への鑑定のお礼はここまでだ。申し訳ないが明日にはここを出て行ってもらうよ。」
当然のことだった。ゾイドの鑑定のお礼に隣町まで無償で連れてきてくれたことだけでも頭が上がらない。
「え、ちょっとゾイド、この街にだってしばらくは居るんでしょ?じゃあその間くらい」
「ダメだ。我々は遊びで冒険者になっているわけじゃない。・・・ただ、レンくん、これからどうするか決まっているのかい?」
レンはアルに言われてからずっと考えていたが、自分の有用性が、どうしたらパーティに置いてもらえるのか、分からなかった。そしてスライムを倒してレベルアップしたいという思いだけで飛び出してきたのだ。行くあてなど何もなかった。
「あ、あの僕皆さんのスキルを見れます!モンスターのスキルも見れました!だからっ」
「だから何だい?我々はこれでもBランクパーティ。自分たちのスキルの数値は分からないが、どのモンスターがどれくらいの強さかは体が知っている。
君のスキルは確かにすごい。昼間の魔法もすごかった。しかし申し訳ないが、これ以上我々の冒険に同行させることはできないよ。」
レンは言い返すことなどできなかった。
「・・・はい。今まで、ありがとうございました。」
「・・・よし、今日はレン君へのお礼も兼ねて、夕飯は豪華にしようかな。さ、行こう。」
その日は宿屋ではなく、飯屋に行き骨つきの肉やシチューなど、今までのどの食事よりも豪華なものをご馳走してもらった。レンは明るく取り繕っていたが、内心は味など感じられないほどに先の見えない不安に怯えていた。




