第18話 深紅の稲妻
レオンの目標は、ルークを成人の儀までにレベルアップさせ、MPなどのクラリウス家が重要視している数値を最低でも平均値以上に上げること。ルークの値が低くなければ、レオンより下回っていたとしても、庶子で周りから嫌われているレオンが爵位を継ぐ可能性は低くなる。
そのためにレオンがやらなければならないことは、屋敷からモンスターと出られる場所までルークを誰にも気づかれずに連れ出すことだった。
スライムなどの最弱モンスターであれば遭遇の可能性がある隣街に行くとしても、馬車で3日はかかる。この問題を解決するためにレオンが思い出したのが【時の女神】の存在だ。
ゲームの世界ではヒロインのレベルが10になると発生するイベントがあった。
ヒロインは孤児で、教会で育った女の子。成人の儀で光魔法の属性と判明し、魔法学校へ入学するというお決まりのパターンだ。
ヒロインは学校内にある神殿でも毎日オーディルヘルム神への祈りを捧げており、レベル10になるとそこに【時の女神】というキャラクターが現れる。そして加護と称して<転移魔法>と<収納魔法>というどの属性にも入らない、無属性の魔法をヒロインに授けていた。これはゲームの進行上、セーブポイントへの移動やアイテムの収納という、必須のイベントだった。
この転移魔法があれば、自身が行ったことのある場所であれば自由に移動することができるため、誰にも気付かれずにルークを外に連れ出すことが可能なのだ。
(僕はオーディルヘルム神への祈りを捧げたことはないんだけど、どうにかして【時の女神】にあって転移魔法を授けてもらわなければ・・・)
「レオンくん、モンスターと戦うのは簡単なことじゃない。危険が伴うんだ。」
「分かっています!でも、僕はお兄様のためにレベル上げする必要があるんです!!」
諭すゾイドにレオンは食い下がった。
「・・・レベル上げ、というのは、女神からの祝福のことかい?」
「女神からの祝福?」
「モンスターを倒しまくるとたまに目の前に現れるボードのことさ。それを自分が欲しいスキルに割り振れば、強くなれるんだぜ!」
(なるほど、みんなはレベルが見えないからレベル上げという表現はしないのかな?)
「えっと、そうです。その女神からの祝福を受けて、僕は時の女神に会いたいんです!」
「君、今なんて言った?」
レオンの言葉に過剰な反応を見せたのはソフィアだった。
「時の女神って何だよ?リリー知ってるか?」
「ううん、私も初めて聞いた。」
アルとリリーに合わせて、ゾイドも頭を横に振った。ソフィアはふーっと深く息を吐き、
「時の女神というのは、その名の通り時を操る女神のことよ。私たちエルフはオーディルヘルム神と同じ、いえ、それ以上に時の女神を信仰しているわ。エルフはヒューマンよりも永い時間を生き、世界に広がる自然とともに在らんとする。私たちは時の女神の加護によって、ヒューマンよりも永い時間を生きることができるようになったと考えているの。
でも、ヒューマンの、ましてやこんな子供が時の女神のことを知っているなんて驚きだわ。貴方、どこで知ったの?」
と、怪しいものを見るようにレオンをまじまじと見つめた。
「えっと・・・絵本でそんな話があったから・・・。」
「呆れた!お前絵本を信じて旅に出ようとしたのかよ?お前そもそも家はどこにあるんだ?父ちゃんと母ちゃんが心配してねーのか?」
「・・・家には帰れないの。でもお兄様が待っているから、お兄様のために時の女神に会いたいの。」
レオンの言葉は彼らにとって意味不明の内容だった。しかし、家を追い出される子供がいることもこの世界ではあり得ない話ではない。レオンの容姿やその態度からも嘘をついているとは思えず、ゾイドを救った恩があるレオンを無下にすることはできなかった。
「レオンくん、私たちは明日にでもまたここを旅立つ予定でいる。君が本当にモンスターに会いたいというのならば、隣街までなら一緒に送ることもやぶさかではない。あそこなら街の外にスライムというモンスターが出るからね、君の望みも叶うだろう。これで君の鑑定のお礼にするのはどうだろうか?」
「ゾイドさん、ありがとう!それで十分です!」
ゾイドからの提案にレオンの表情は晴れ、嬉しそうに笑うレオンの頭をガシガシとアルが撫でた。
「よかったな、坊主!」
そしてその日からレオンは『深紅の稲妻』のパーティメンバーと一緒に生活をさせてもらうことになった。
夕飯は宿の1階で小さな丸いテーブルに全員で並んで食べた。パンと塩焼きや燻製の肉。ゾイドたちはエールを飲んで酔っ払い、アルとリリーが食べ物を奪い合って大騒ぎ。
決してマナーの良い美味しい食事とは言えなかったが、前世の時からの憧れが1つ叶った。みんなで食卓を囲って談笑すること、簡単なことのようで光の時から叶うことのなかった願いだった。
お腹も膨れてウトウトとしてきたレオンは、リリーにベッドまで運ばれ、疲れが出たのかそのまま朝まで起きることはなかった。
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