第15話 美味しい串焼き
「うわ、僕の家ってこんなに大きかったんだ。」
ルークとエマに見送られ、レオンが門を抜けるとすぐに門番に家への入口を閉ざされた。前世の記憶でも「大豪邸」と言えるほどの大きな建物であったが、レオンは自由に出歩くことを禁じられていたため、日の下で見たのはこれが初めてだった。
「・・・行ってきます。」
レオンはぽつりと呟き、冒険への一歩を踏み出した。
♢
「さて、これからどうしようかな。」
レオンが急に家を出たのには理由があった。本来であれば目標を決めた後、その手段をどうするか詳細を詰めておきたかったところだが、そうもいかなくなってしまった。
昨日、レオンがルークの魔力向上に対する手段と今後の目標を書き記していると、エマが紅茶と果物を持って来たのだった。庶子として虐げられているレオンには、食事の時間以外に食べ物は滅多に与えられていない。特にアレース公国は1年中気温が低く国内での生育が難しい果物は高級品とされており、レオンの誕生日にこっそりとエマが厨房から盗んできて食べたことがある程度だった。
そして明らかにエマの様子がおかしく、ヨロヨロとした様子だった。
(あぁ、また執事にどこか殴られでもしたのかな・・・そうするとこれは・・・)
「・・・レオン様、あの、最近お勉強熱心ということで、ルージュ様よりレオン様にと・・・」
「お母様から?そう・・・」
(やっぱりあの執事とルージュはグルだったか。お母様の名前を出して来たということは食べないわけにはいかないな。)
「果物なんて久しぶりだね!嬉しい!でも今お腹いっぱいだから、後で食べるから置いておいてくれる?」
にっこりと笑うレオンの顔を一切見ようとはせず、ビクビクと怯えた様子で机の上に置くなりすぐに退出した。
「<鑑定>」
レオンが唱えるとそれぞれの横にポップアップが浮かび上がる。
・【中】毒入り紅茶:バジリスクの毒入り。飲むと毎分HPマイナス30の効力がある。
・ママンゴ:南国の果物。甘い。
「ふむふむ、果物には毒がないのか。じゃあ・・・
うん、甘くて美味しい〜!前世のマンゴーに似てる感じかな?マンゴーもあんまり食べたことないからなんとなくだけど、色とか香りもこんな感じだった気がする。美味しい〜!」
レオンは皿に乗っていたママンゴをペロリと完食し、毒入り紅茶を見つめた。
「さて、と。紅茶は毎分HPマイナス30か。これ僕のHPは35だから2分もあれば死んじゃうね。笑 この【中】っていうのはなんだろう?
とりあえず紅茶は飲まないようにしないとだけど・・・<ステータスオープン>。
あ!やっぱり鑑定スキルがレベル2に上がってる!屋敷にいるメイドや執事たちを見かける度に鑑定したからかな。えっと毒薬草は・・・<鑑定>」
・毒薬草:毒状態を治すポーションの材料。このまま食べると威力【小】の毒であれば回復するが、苦い。
「なるほど、レベルが上がって威力が分かるようになったのかな。ということはこの紅茶の毒は毒薬草では治せないから、飲むわけにはいかないな・・・」
執事が渡した小瓶の毒が同じものかは分からないが、どちらにせよHPが35しかないレベル1のレオンにとっては毒状態になるということは死ぬ確率が高いことが判明した。
もちろん毒薬草の他に薬草も収集していたのだが、それもHPが10回復するという代物であり、この問題を解決する術を持っていなかった。
レオンは紅茶を窓から捨て、夕食は具合が悪いと言って欠席した。
ルージュ達が毒の威力を知っていたかどうかは分からないが、鑑定を受けていないレオンのHPがどれほどかは知らない。そのためすぐに死ななくても不自然ではないと考えやり過ごしたが、この状態を長く続けることはできなかった。
そして翌朝、<ファイヤ>を部屋に放ち、屋敷から逃げ出すことにしたのだった。
ルージュ達はレオンが毒状態になっているかどうか知る術がないため、不自然に思われないようにすぐに家を出たのだった。
♢
「うーー、足が痛い・・・」
屋敷から歩いて1時間ほど経った頃には、この街の中心と思われる広場に出た。道は全てレンガで舗装されているものの、硬くて凸凹しているため、5歳児のレオンは何度もつまづきそうになった。
グゥゥゥ
(お腹もすいて来ちゃったけど、エマにもらったパンは3日分くらいだから大切に食べないといけないし・・・あぁあそこの屋台とか美味しそうな匂い・・・この世界の食べ物ってどんな感じなんだろう・・・)
レオンは吸い寄せられるように屋台にそっと近づいていった。
そこには串に刺さった肉が網で焼かれていて、香ばしい香りが漂っていた。
「おばちゃん!串焼き2本頂戴!!」
「はいよっ!銅貨6枚だけど、1枚おまけして5枚でいいよ!」
「サンキュっ!」
(銅貨6枚ってことは1つ銅貨3枚・・・人気のお店のようだから高いわけじゃないだろうけど、お金の価値が分からないな・・・)
「坊やも食べるのかい?」
「あ!ごめんなさい、僕はただ見てただけで・・・」
不意に声をかけられ、レオンは慌てて謝罪をしてその場を離れようとした。
「ちょっと、お待ち!・・・お腹が空いてるのかい?」
レオンは黙って下を向きならが首を縦に振った。
「身なりからしてスラムの子じゃなさそうだけど・・・
あんた計算はできるかい?これから店が混む時間だからね、手伝いをしてくれるならお駄賃として串焼きをあげるよ!」
「あ、計算なら、多分できます!」
「よし、こっちにおいで!」
レオンは屋台の裏の木箱の上に座らされ、ニカっと笑うおばさんから串焼きを受け取り、頬張った。
「美味しいだろ?」
「はいっ!!すっごく美味しいです!」
おばさんはレオンの頭をわしゃわしゃと撫で、「ゆっくり食べな」と言い残してレオンを背に店番を始めた。
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