第99話 計画通り
レオンが戻ってからというもの、レオンはルークとの再会を楽しみつつもすぐに次の行動に移した。
「アストメリアのモンスター発生ポイントに俺とフェルで拠点を作りたいと思います。ゆくゆくはそこまでアレース公国からの道も伸ばしていきたいですが、距離感的にはメティス公国よりの東に位置していましたので、メティス公国を吸収しませんか?」
「随分急な話だね。」
「お兄様も以前おしゃっていたように、民の飢えは増す一方です。それに・・・これは俺の我儘ですが、獣人の村のみんなをお兄様が保護して下さっているのは存じていますが、それでも国内の差別はなくなっていません。冒険者という職業も蔑ろにされていますが、俺は彼らの地位向上と合わせてお兄様をこの国の、帝国の支配下から外れた形で王になっていただきたいのです。」
「・・・帝国から抜けるということはもう帝国からの支援はあてに出来ないが、何か考えがあるんだね?」
「はい!」
レオンの考えというのは、まず食料として食べられそうなモンスターを狩ること。本来モンスターは冒険者が狩った場合、ギルドを通じて帝国へ献上され、帝国管轄の学校に所属する研究員達の素材に充てられる。無断で冒険者が素材を使用することは帝国法によって禁じられているが、帝国から独立することでこの法は無効となる。
また現在冒険者という職業は危険な職業であり、その職業に就くほかない犯罪歴のあるものや孤児、獣人などが就くものというイメージがある。公国お抱えの騎士団や警ら隊は他国から要請があった場合派遣され、任務に応じた給金も支払われる花形の職業であるが、それ以上に厳しい前線で戦っている冒険者への風当たりの強さをレオンは嫌というほど体感していた。
帝国から独立することによってこれまで以上に発生するであろう食料難を自国の力、冒険者達の力を借りて賄う。そして冒険者達にはこれまで以上に成果に応じた報酬を払う。
生まれや育ちではなく、国のために成果をあげられるかどうかで彼らに正当な地位を築ける機会を与えるのだ。
「メティス公国を吸収する方法は考えてあるの?」
「ジオルド様を利用させていただきます。あの国の全権を握っているのは彼ですから。溢れ出るモンスターを狩れば食糧難はなんとかなるかもしれませんが、ジオルド様がゲームの世界でお兄様と共に開発されていた魔法道具の力は侮れません。彼の力をものに出来ればお兄様の国を脅かす存在はいなくなるはずです!」
「うーん。でもジオルドが大人しく言う事聞いて暮れるかなぁ?彼は愛国主義者的なところがあるよ。」
ルークが眉を八の字する愛くるしいその姿に胸を打たれつつ、レオンはルークに顔を近づけた。
「お兄様!ゲームの彼を思い出してください!」
「ゲームの・・・確かマリーがジオルドを選んだ場合、2人が結ばれれば母国へ戻ってその力で国を救う。結ばれないと彼女を刺し殺し自分も死んでしまうんだっけ?」
「はい。他の攻略対象者に関しては、俺も含めてですが、結ばれなかった場合腹いせに彼女を殺したり力だけ利用することはありますが、彼女を殺して自分も後を追って死ぬほどに彼女を愛しているのはジオルド様だけなんですよ。あの冷静なジオルド様が唯一マリーに対してだけは感情的になる。そこを使わせてもらいます。」
「レオンがそこまで言うならうまくいくだろうね。分かった、私はレオンの言う通りマリーの婚約者として振る舞おう。レオンが不在の間騎士として彼女のそばにもいたから扱いは分かるよ。」
「流石お兄様です!お兄様があんなビッチの婚約者だなんて本当に不名誉なことをしていただいてしまい心苦しいのですが・・・」
「こら。女性をそんな風に悪く言ってはいけないよ。それに、レオンが嫌がると思ったから彼女とは手を繋ぐまでの関係で留めておいたからね。安心して。」
「うっ、それでもお兄様と手を繋ぐなんて・・・!なんて羨ましい・・・!」
レオンが悔しがっているとルークはそっとレオンの左右の手をそれぞれ恋人繋ぎの形で握り、
「はい、これで上書きできたね。」
とにっこり微笑みかけた。
「ヒャ、ヒャい!!」
「ふふ。」
♢
レオンは魔力回復薬を公国内で手に入れるだけ確保しつつ、フェルと共にアストメリアにてモンスターを発現させている世界樹の根の近隣に土魔法を駆使して拠点を設けた。そして近隣のモンスターが侵入できない程の壁を設けると獣人の村の民を移送した。
獣人の彼らの指導をフェルに任せつつ、レオンはそこから公国までの道を整備しながらモンスターを狩っては全て暗黒空間へ格納した。同時に現在アレース公国内で最も信用の置ける深紅の稲妻の全員のレベル上げを兼ねて彼らもアストメリアの開墾に尽力させた。
一方でルークは独立の準備を着々と進め、ジオルドには彼女と婚約している旨を、マリーには彼女の心が完全に離れることがないよう甘い言葉で繋ぎとめた。
そしてレオンが予想していた通り、数ヶ月経った頃、アストメリア内に1人の少女が現れた。フェルの連絡を受けすぐさま世界樹の根へと向かったレオンは、生まれたままの彼女にすぐさまマントをかけると優しく拠点へ出迎えた。
「誰?」
「俺はレオン。こっちはフェル。そうだな、君は今日からリアンだ!リアン、よろしくな!」
「・・・よろしく。」
レオンが迎え入れた彼女こそ、『キミコイ』の続編でライバルキャラとして登場する魔族の女の子だった。魔族と言うこと、そしてアストメリアの洞窟の奥底にいた女神ヘリアからの闇魔法を授かっていたことから、レオンは必ず少女がここに出現していると踏んでいたのだ。
レオンはリアンをルークに紹介し、クラリウス家の養子にし貴族としての教育を施した。リアンはゲーム補正の賜物か、一度見たこと聞いたことは全て身につけ、養子の手続きをしてからわずか1ヶ月後には学校への潜入が可能となった。
「お父様、必ずやお父様の目的のために、任を遂行いたします。」
「ああ、リアンなら大丈夫だと思うが、何あればすぐに連絡しろよ。」
リアンは最初に会った人間への刷り込みなのか、同じ闇魔法を使うものだからなのか、レオンのことを「お父様」といつしか言うようになり、一方でフェル同様に肉体関係を持ちフェルをライバル意識する不思議なポジションとなったが、フェルと会うたびに自分を取り合う2人の姿はレオンの前世から引きずっている承認欲求を日々満たしていった。
それからはレオンの計画通りに事は進んでいき、アレース公国は冬の到来と同時にアースガルド帝国から独立、メティス公国も吸収し、アレティス王国として生まれ変わったのだった。




