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第1話 前世の記憶



「ーンッ!レオンッ!!しっかりしろ!レオン!」


 朧げな意識の中、誰かに名前を呼ばれている気がして精一杯の力で瞼を上げる。

 馴染みのない名前なのに、何故か自分のことだと分かる。


「レオン!目が覚めたのか!良かった、本当に良かった・・・」


 目を開けると目の前には透き通るような金の髪をした少年が、蒼い目に大粒の涙を浮かべながらそう言った。


「ルークお兄様・・・」


 ベッドの傍で心配そうに自分を見守っていた少年に対して、無意識に口から出た言葉。

 自分は彼のことを知らないはずだけれど、確かに知っている。

 そう、たった1人の兄ルークだ。


「うっ!」

 起きあがろうと体を起こすと後頭部から全身にかけて激痛が走った。

「無理をするな、お前が馬から落ちたと聞いた時はどうなることかと思って心配したが、目を覚ましてくれて良かった。今医者が来るからな。」

 ルークは優しく頭を撫で、涙を拭いながら微笑みかけた。

 こんなに人に優しくされたのは何年振りのことだろうかと、痛みよりも嬉しさで涙が溢れそうになった。

 ルークは普段からレオンのことを気にかけ、心配してくれているのだから本来当たり前なのだが、何故か初めてのことのように感じる。


 その後医者らしき人物が来て、3ヶ月安静にするよう告げ、帰って行った。

 医者に渡された鎮痛剤の薬を飲み、ルークや周囲にいた執事・メイド達にも部屋を出ていってもらった。


「・・・ハァ、一体どうなってるの?」


 自分が自分ではないように感じる、不思議な感覚がある。見慣れた部屋のはずなのに初めて来たように感じる。

 この奇妙な感覚を整理しきれないまま、その日は鎮痛剤の効果もあり、レオンは眠ってしまった。そしてレオンは不思議な夢を見る。




 ♢



「光!いつまで寝てるの!早く起きろ!!」

 甲高い声で毎朝怒鳴られ起こされる。これが立花たちばな ひかりの日常だ。


「ごめん、お母さん、今起きて支度するから・・・」

「全く本当にトロいんだから!!!あーもう毎朝イライラする!」


 深夜まで仕事をし、クタクタの体はもう随分前から寝ても疲れが取れない。

 朝食の支度をし、食卓に2人分の朝食を出したら自分の身支度を始める。

 光の身支度が終える頃には「ふぁ〜」と大きなあくびをしながら妹の華恋かれんが起きてくる。

「あー、私これからは朝スムージーしか食べたくないから、お姉ちゃん明日からよろしくね〜。これ要らないから食べていいよ」


 華恋はにっこりと微笑みながら光に皿を突っ返した。光は何も言わずにパンを口に入れながら小さな声で「行って来ます」と告げ、家を出た。


 華恋は現在高校に通いながらモデルをしている。幼い頃からふわふわの髪の毛、透き通る白い肌、ぱっちりとした目元で近所でも噂されるほどの美少女だった。対して姉の光は太く真っ黒い髪の毛、日に焼けて浅黒い肌、重たい一重瞼。妹が可愛いと言われれば言われるほど、母はどんどん光に対して冷たい態度を取るようになっていった。

 そして華恋が小学生モデルとしてスカウトされてからは、より一層その態度は露骨になり、父親とそのことで口論が増え、両親は離婚した。もちろん光は父親との生活を望んだが、父からは一言謝罪の言葉があり、一緒に暮らすことは叶わなかったのだ。


 離婚してから5年。光は母の言いつけを守り、大学進学の道を諦め、地元の小さな出版社の事務として就職をしながら、母と華恋の身の回りの世話をしていた。

 華恋のモデル業は高校生にもなるとより一層ライバルが増え、新しい洋服などでSNSでの知名度を上げ続けることに必死になっていた。光が稼いだお金は全てそれらのお金に消え、23歳でも化粧もせず、伸ばしっぱなしの髪をいつもひとつに結っていた。

 職場でも暗い、と言われ、後輩の女の子たちからも仕事を押し付けられる日々だった。


 そんな光の唯一の楽しみが「恋愛シミュレーションゲーム」だった。課金をする余裕はないので、毎日空き時間などにこっそりとスマートフォンを立ち上げ、ログインボーナスで楽しむのだ。

 ただし、光の楽しみ方は少し違っていた。通常これらのゲームはイケメンとの恋愛を楽しむものだが、光はあえて主人公がバッドエンドになる様を見て楽しんでいた。


(やった!また主人公が誰とも結ばれないで終わったわ!全く、どのゲームも主人公に優しく声をかけすぎ何だよね。悪役令嬢の子達の方がきっといっぱい努力もして来てるに違いないのに、それをどのゲームもパッと出の主人公にホイホイ乗り換えて、最低としか言いようがないわ。

 特に今回のゲームの俺様王子ルートは最悪だったなぁ〜。俺様キャラだけでもイケメンなのを鼻につけて嫌な感じなのに、こいつのせいで国が滅んじゃうとか有り得ないわ・・・)


 仕事からの帰り道、電車の中でエンディングを迎えた『君が恋に落ちるまで 〜世界樹の下で永遠の愛を〜』、通称『キミコイ』について振り返るのが最近の至福のひと時だ。『キミコイ』は恋愛シミュレーションゲームながら、バトルアクションもあり、無課金の光がエンディングを迎えるのには随分と時間がかかったが、今回の俺様王子ルートのバッドエンドで全てのルートを達成することができた。


 久しぶりに定時で上がれた嬉しさもあり、鼻歌まじりにアパートの前まで歩いていると華恋が男性と揉めているのが見えた。

「離してよ!!!」

「お前にいくら渡したと思ってんだ!このガキ、いい加減にしろ!!」


 男が手を振り上げたとき、咄嗟に光は華恋の前に飛び出した。男の拳が光の右頬を強く殴った。口の中に血の味が広がる。

「あ、あの、や、やめてください!警察呼びますよ・・・!」

「なんだお前、関係ねぇだろ引っ込んでろ!」


 光が震えながら華恋を庇っていると、後ろからふふっと笑い声がした。

「え、華恋、どうし・・・」

「ねぇ、この人一応私のお姉ちゃんなんだよね。顔とか全然似てないけどぉ、お姉ちゃんのこと好きにしていいから、これでチャラにしてくれない?」


 華恋が発した言葉を、光は理解できなかった。男はその後も数分華恋と言い争いながらも、光を見定めるような目つきでジロジロと観察し、渋々承諾した。

 そして男に腕を掴まれ、光は男の車に乗せられた。混乱しながらも必死に抵抗する光の頬を再度男は殴り、静止した。

「お前みたいなブスを有効活用してやるんだから、静かにしてろ!」


 光はジンジンと熱くなる頬にそっと手を置き、ただただ呆然とした。

 

(私が一体何をしたんだろう・・・?ブスの何がそんなにいけないの?ブスには何をしてもいいの?何様なの?悔しい。悔しい。悔しい!)


 ふつふつと怒りが込み上げてくる。これまでの人生で幸せと感じた瞬間はどれほどあっただろうか。

 

 街明かりが少なくなる中、車が大きく曲がった瞬間、光は思い切り男に体当たりした。車は電柱に突っ込み、光はそのまま意識を失った。

読んでいただきありがとうございます!

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これからも執筆を続けられるようがんばりますので、

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