第九四話 ルーデリカ家の方針②
「ウィル君、クルーナちゃん見てて」
リエルは手のひらをウィルが開けてくれた窓に向ける。そして――
――リムジンから緑色の光線が放たれた。光線は空気を切り裂く鋭い音を響かせながら空中へと向かい、雲を割り、遙か彼方に消え去った。
「「「…………」」」
ウィルとクルーナ、そして外を歩く人々は目を大きく見開いて固まっていた。皆の視線は空に消えた光線を追っている。
「リエル⁉ 危ないから!」
我に返ったウィルはリエルを咎める。
「でもでも、同じぐらいの攻撃できないと人工精霊に対抗できないもん。見本で見せたかったの!」
口を尖らせるリエル。なお、外の人々は、
「きゃあああ!」
「逃げろーー!」
「空から攻撃受けてるぞ!」
「怖いよおおおおお!」
何が起きたかは分からないが危険を感じた外の人々は逃げ惑っていた。腰を抜かす人、半泣きの人、また野次馬根性で建物から外に出る人もいた。
「あーあ、もうパニックになってるよ」
ウィルは車内から外の様子を見て、もうどうしようもないと諦観していた。
「この様子だと一限目は休講ね」
一方、クルーナは冷静に状況を分析したあと、リエルに顔を向ける。
「つまり今の攻撃と同等の魔法物が無いと精霊と戦えないってことね」
「うんっ」
「防御力はどれくれい必要かしら」
「今のを防げたら十分だよっ」
クルーナは眉間に皺を寄せて逡巡し、口を開く。
「今の光線に近い攻撃力を誇る魔法物は五つはあるわよ。そのうち四つはバズーカ型なんだけど連射はできないわ、それに魔力が残っているか怪しいから数発が限度よ」
「それなら大丈夫っ! リエルが魔力を補充できるもん」
「本当! 助かるわっ! ウィルグランは補充できないのかしら」
ウィルを見やるクルーナ。
「多分、僕がリエルと同じことしたら疲労困憊で立てなくなるよ」
「所詮は人間ってことね」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
なぜか、魔力扱えないクルーナにディスられるウィルだった。
「もう一つはどんななの?」
リエルは残りの魔法物について訊く。
「設置型の大砲みたいな魔法物よ。大砲にしては筒が細長くて攻撃範囲は狭いけど、精度が非常にいいのよ」
「へぇ~、色々あるんだーやっぱりルーデリカ家ってすごいねっ」
「その通りよ。恐れ入ったかしら」
褒められたクルーナは腕を組んでしたり顔だった。
「で、防御面はどうなの?」
今度はウィルが訊く。
「それが問題ね。鎧型、盾型、小手型、あとボール型で地面に投げつけたら結界を展開するタイプがあるのだけれども、今の規模の攻撃を耐えれるか検証したことないのよ」
防御面に関しては不安なクルーナだった。また、リエルに手伝ってもらって検証するという手段もあるが、時間が足りなさすぎた。
「リエルも一緒に戦ってあげよっか?」
「僕もできることがあったら手伝うよ。君の父親と約束したし」
「凄く助かるけど、貴方たち二人には別のことをやってもらいたいのよ」
「そうなの?」
小首を傾げるリエル。
「そもそもグロウディスク家の悪巧みに勘付いたのは貴方たちのおかげよ。だからその情報収集能力を見込んで頼むわ。危険だけれども、また相手を探ってほしいのよ、古の力ー魔法や魔力を扱える貴方たちにしかできないことよ」
「あれはほとんど、リエルのおかげだよ。一人でグロウディスク家の屋敷に潜り込んで襲撃の情報を掴んだからね」
「役割分担すればいいわよ。ウィルグラン、貴方はベルリックの住処からグロウディスクについて探りなさい」
ウィルはクルーナの案をのむ。ベルリックが父親に対抗している理由が判明すれば、グロウディスク家の目的が自ずと分かるかもしれないと思ったからだ。




