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ウィルの学院譚〜魔法が失われた世界で精霊と共に〜  作者: ネイン


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第九〇話 不審なベルリック②

 屋上に繋がるドアをウィルは開けようとするも――


 ガンガンッ!


 と、ドアノブを引っ張ってもドアは開かず鈍い金属音を鳴らす。リエルの言う通りならば扉の向こうにはベルリックがいるはずなので鍵がかかっているはずはないが、ベルリックほどの権力者ならばあとから第三者に頼んで扉を閉めることもできる。


「駄目だ開かない」


 ウィルは嘆息すると、後ろにいるリエルが一歩前に進み、代わるようにドアノブに触れる。


「リエルに任せてっ!」


 リエルは「『構造(メモライズ)記憶(ストラクチャー)』」と唱えて魔法を行使する。次いで彼女は木製の鍵を手のひらの上で生成させる。『構造(メモライズ)記憶(ストラクチャー)』は寸分違わず対象の構造を把握することができるので、リエルは鍵穴と同じ構造の鍵を作ったのだ。


「はいっ!」


 リエルは作った鍵をウィルに渡す。


「おお~」


 ウィルが感嘆すると、クルーナが鍵をまじまじと観察する。

 すると、クルーナは目を輝かせて、両手を握り、ウィルが聞いたことない甘え声出す


「わぁーすごーい!」

「「え?」」


 戸惑うウィルとリエルはクルーナに顔を向ける。


「………コホン。さっさとベルリックのところに行くわよ」


 クルーナは照れ隠しに咳払いをし、ウィルにドアを開けるように促す。


「間近で見る魔法に感動したんだね。クルーナは魔法とか大好きだから」

「うるっさいわよ。早く開けなさいな」


 ウィルに図星を突かれるクルーナだった。


――本館の屋上。ウィルは一度、訪れている場所であり、ユリカ先生と出会った場所である。以前と変わらず自然と人工物が調和した屋上庭園となっており、初見の人ならば感嘆すること間違いなしの場所だが、この場所にそぐわない物を持っている人物がいた。

 

 ベルリックは屋上の端――本館の入口がある方向にスナイパーライフルを構えながら、様々な体勢を取って角度や距離感を調整していた。


「ふむ」


 ベルリックは(うな)るとスナイパーライフルを床に置き、後ろを振り返る。

 視線の先にはウィル、リエル、クルーナがいた。ベルリックは口元を緩める。


「今ここは閉鎖されているのだが、どうやって入ってこれたんだ。立ち入り禁止のはずだ」

「いやいや、君もなんで入ってこれてるんだよ」


 ウィルは呆れながら言葉を返す。

 ベルリックのリエルを一瞥(いちべつ)すると「なるほど」と、呟く。


「やはり緑色の子が特殊な力を保有しているんだな」


 ベルリックはリエルに目で追えない速さで接近され、蹴りをもらったことを思い返す。


「あんたの蹴りは鎧越しでも効いた。一応、あの鎧は魔法物(マジックアイテム)で身体能力を上げてくれるだけではなく、ハンドガン程度の弾ならば無傷で済むぐらいの防御力があるはずなんだが……」


 彼は左の袖を(まく)り、青色のテーピングで巻かれてる左腕を見せて二の句を継ぐ。


「この通り打撲してしまったんだ。腫れは引いたけどまだ多少痛い状態だ」

「リエル、右腕も蹴りなさい。ベルリック・グロウディスクが人を撃つ前に」

「分かった!」

「待て待て待て、まずは話し合いだって」


 ウィルは血気盛んなクルーナとリエルを(いさ)める。

 クルーナは不満そうだが話を切り出す。


「それで、そのライフルでなにをする気よ」

「なんだと思う?」

「質問を質問で返さないでくれるかしら」

「クルーナ嬢もあろう者が分からなのかい?」

「論点をずらさないでくれるかしら」


 会話を聞いていたウィルは「()りが合わなすぎる」と、小声を出す。彼は二人で会話させると埒が明かないと思ったので直球でベルリックを問いただすことにした。


「暗殺でもするの?」

「だとしたら誰だと思う?」

「君はグロウディスク家を潰すと言った、その上で誰を暗殺するってなったら一人に絞れるよ。ちょうど、この島に来ているし」


 ウィルは内心、質問を質問で返すなと思いつつも予想を言う。


「まさか……自分の父親を、グリア―ド・グロウディスクを撃つってことかしら」


 クルーナは信じられないものを見る顔をベルリックに向ける。さらに彼女は疑問点を口にする。


「にしてもおかしいわよ、ここで銃を構える必要はないわ。まるでグリア―ド当主がここにやってくるのが分かっているみたいよ」

「来週の休み明け、必ず奴はここに来る」


 ベルリックは確信を持って答える。

 旧三大名家の当主の行動は世間に注目され、祭事や行事で学院に来るならば必ず報道されるはずだ。ただ、学院にやってくるという報道は一切ないので秘密裏に動いているということになる。


「それとウィルドラグに謝らなければならないことがある」

「もしかして森林地区でのことかな」

「それはどうでもいい」

「いや、どうでもよくないだろ。こっちは君に銃を向けられてるからね」


 ウィルは珍しく予想を外し、ベルリックが何について話したいのか皆目見当がつかなかった。

 ベルリックはやれやれと、ヒントを出す。


「二ヶ月近く前のことは覚えているかい?」

「二ヶ月前は学院を受験していた……まさか! 僕があの日、遅刻して最初の試験を受けれなかったのは君のせいだったのか⁉ 知らない間に睡眠薬を食事に混ぜられて僕はそのせいで遅刻したんだ」

「それは違う」


 寝坊したのはウィル自身のせいである。

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