第八九話 不審なベルリック①
ウィルとラナックは座っていた席に近づくと人だかりができているのに気付く。
特筆すべきは人だかりは全員、女子生徒であることだ。
「なんだろうあれ」
人だかりに近づくウィルはぽつりと呟くと、ラナックが推測を立てる。
「おそらく、ウィルグランに対する苦情をクルーナ様に伝えているに違いない」
「そんなけ……いや、ありえるかも」
島規模で悪評が広がってしまっているので、ウィルは推測を否定できなかった。
行動すればするほど悪いように捉えられてしまうのでもはやどうするこもできないが日常生活に支障が出ているわけではないので手を打つ必要はないと思っていた。
「あの、どうかしたんですか?」
ウィルは人だかりの中でクルーナたちに話しかけようとしている一人の女子生徒に声をかける。
「ええっと、ひぃ! ウィルグラン……!」
女子生徒はウィルの方を振り向くと怯えて身を強張らせていた。
質問さえもできない状況は日常生活に支障が出てしまいかねないと思ったウィルは手を打つ必要があると思い、心の中で前言撤回した。
テーブルはウィルとラナックがトイレに行く前の状態のままだった。
空になった皿。手前の席にはリエルとゼルが座っており、リエルはクルーナから高級ブルーチーズを使ったピザを貰って満足そうにしていた。ゼルは周りが女性のみになったので話し相手がおらず、寝たふりをしていた。奥の席にはクルーナとパプリカが座っており、話しかけようとしていた女子生徒を気にしていた。
「で、貴方はなにを言いたいわけ?」
クルーナが女子生徒に話しかけると、相手は緊張した面持ちで声を振り絞る。
「あ、あのベルリック様見かけていませんか? 朝、皆と一緒にベルリック様を見守りながら登校したので学院にいるはずなんですが」
女子生徒は同じ旧三大名家のクルーナならば何かを知っているかもしれないと思っていた。
「堂々と集団ストーキングを自白しているじゃないか、通報したほうがいいかもしれない」
と、ラナックが口を出す。
それを聞いた女性生徒たちが怒りを露にする。
「はぁー? 見守っているだけなんですけど」
「むしろあたしらがいることでベルリック様が安全に登校できると思いますよ」
「エルフってやっぱ美形ね。ベルリック様に及ばないけどね」
中には上から目線でラナックの容姿を褒める者もいた。
「今の言葉は隣にいるウィルグランの気持ちを代弁したのだが」
「おいおい! 僕のせいにすんな!」
ウィルはラナックを肘で小突く。
「やっぱり、そうだと思った!」
「なんであんたまだ捕まってないの?」
「ベルリック様こんな変態にも狙われてて可哀想に」
怒りの矛先はウィルに向いた。
「うるっさいわよ、話がずれてるわ。貴方たちベルリックの行方を知りたいだけなのかしら?」
クルーナはテーブルは軽く叩いて立ち上がり、周囲を黙らせる。
「は、はい! そうです!」
「悪いけど知らないわ。そもそも私は今週ベルリック・グロウディスクを見てないわよ。貴方たちの方が詳しいはずよ」
「そうですか……クルーナ様ありがとうございます」
女子生徒は肩を落としてクルーナに一礼する。
ぞろぞろと女子生徒の集団は帰っていった。
「もうそろそろ、お皿片付ける?」
パプリカは言外にお昼休みがもうすぐ終わることを示唆するとクルーナは「そうね」と答える。
午後の授業が始まるまで約一〇分となっていた。各々、トレイに皿を載せて食器返却口に向かうが、
「ウィル君、クルーナちゃん、ちょっといい?」
リエルは二人を呼び止める。
席から立ち上がり、足を止めたウィルとクルーナに近づいていった。
「どうしたの?」
ウィルは聞き返す。
「ベルリックってあの黒鎧の人でしょ、この建物の屋上にいたよっ」
「えっ、そうなの?」
「どうしてさっき言わなかったのかしら?」
少し驚くウィルと疑問を口にするクルーナ。
「だってだって、細長くて大きい銃持ってたんだもん、危ないでしょ」
リエルは疑問に答えると、『銃』という言葉を聞いたウィルとクルーナは不安が募った。
「先日のこともあるし怪しい……」
「気になることは確かだわ」
森林地区での出来事を思い返す二人。
そのあと、クルーナはスマートフォンを取り出し、適当に検索をかけて、銃の一覧表が載っているサイトを開く。
「リエル、銃の種類はこの中のどれかしら、細くて長いって聞くとライフルの系統だと思うのだけれども」
クルーナはスマートフォンの画面をリエルに見せる。
「うーーん」
リエルは唸りながら画面を指でスライドさせる。
「あ! これこれっ、似てるかも」
ある銃を指さすリエル。
ウィルとクルーナは画面を覗き込んだあと、互いに見合う。
「スナイパーライフルよね、これ」
クルーナの言う通り、リエルが指さした銃は狙撃銃だった。
二人はベルリックに不信感を抱く。
「屋上行ってみる?」
「当然よ! 行くわよウィルグラン、リエル」
皿を返却したあと、三人は屋上へと向かった。




