第八五話 ユーラ家にて②
ユーラ家で食事を摂りながら病院での出来事を回想するウィル。
モニター越しに喋るドラグーン。モニターの前にはウィル、リエル、クルーナ、フィルエットがいる。
『ウィルグラン君の素性をバラすような真似はしない。だって……クルーナちゃんの頼みだからね~。これでいいよね、クルーナちゃん』
『やめて。話しかけないで』
クルーナは父親を冷たく突き放した。
ドラグーンは『うぅ』と精神的ダメージを負う。
『えっと……本当にいいんですか?」
ウィルはあっさりと希望が叶いそうだったので拍子抜けした。
『もちろん。ドラグーン・ルーデリカの名に誓って約束しよう。ただウィルグラン君そしてリエル君に協力してもらいたいことがあるんだ。二人がよければの話だけど、いいかい?』
『できることであれば協力します』
やはりただで事が済むわけではないと思ったウィル。
『今、俺たちルーデリカ家の状況は言うまでもないと思うんだけど、グロウディスク家側は俺たちが自警団を捕らえたことや人工精霊とやらを召喚できる石を二つ確保したことが分かっているはずなんだよ。水面下で睨みあいの状態が続くと思うけど、時間が経てば様々な憶測が飛び交うに違いない』
ドラグーンは一旦、腕を組み下方に視線を移動させる。
『大袈裟だけど、最悪の場合ルーデリカとグロウディスクの戦争になるかもしれない。そんな事態を避けるために迅速な対応を執りたい。睨みあっているあいだにも、グロウディスク側がなにかしらの行動を起こす可能性もある。だから、相手の動向を探るためにも失われた魔力を使えるウィルグラン君、そして魔力を使って魔法が行使できる精霊のリエル君に助力してもらいたい』
ドラグーンは深々と頭を下げる。
(ドラグーン・ルーデリカに頭を下げられて断われるわけがないよ)
ウィルはむしろ大権力者の丁寧な対応でプレッシャーを感じていた。
(クルーナには普段、お世話になっているし、素性をバラさない代わりの交換条件と思って引き受けよう)
ウィルは口を開く。
「分かりました、僕でよければ協力します。リエルはどうする?」
「ウィル君が協力するならリエルも協力するっ」
ウィルとリエルが承諾すると、ドラグーンは『すまない』と、詫びるように頭を再び下げていた――
「――互いに妥協したといったところかな」
二日前のことを振り返り終わったウィル。
素性をバラされはしないが、裏でルーデリカ家に協力するということで折り合いがついていた。
「お腹空いてないの?」
「そういうわけじゃないけど、なんか気分がのらない……みたいなっ」
エナは食事があまり進んでないリエルを気にかけていた。
リエルは隣にいるウィルの服の軽く引っ張る。
「どうしたの」
「ウィル君ちょっときて」
「うん。ちょっと離席します」
ウィルとリエルは席を離れる。
「お兄さんとリエルどうしたんだろう?」
エナは二人の背中を見送りつつ、思ったことを口にする。
「エナちゃん分かったわ! 逢引きよ!」
「は? 食事中にそんなことするわけないでしょ」
「大変よ、追いかけないとウィルちゃん取られちゃうわよ」
「はいはい……」
母親の良く分からない発想にうんざりするエナ。
ウィルとリエルは食卓から離れた玄関前にいた。
「なんか食べにくい、森を壊したのリエルなのにご馳走してもらってるから」
顔を若干、青くするリエル。
「やっぱりそうだと思ったよ」
ただ、ウィルは歩く天真爛漫とすら思ってたリエルがここまで罪悪感を抱えるとは思ってなかった。
「自分にも言い聞かせてるんだけど、僕たちは良いことをしたんだと思ってるよ。そもそもリエルがいないとここで皆と過ごせてないからね」
「うーーーん、それはそうだけどー」
リエルはまだ気が晴れないようだ。
「僕たちはこれからも一緒だ。だからリエルの罪悪感も僕と半分ってことで元気になってくれるかな」
「ウィル君と半分こ……」
リエルは口元に指を当てて考え込む。
言葉のあやで元気づけてくれているのかもしれないが、リエルはウィルの考え方がロマンチックで素敵だと思った。なによりその相手がウィルだからこそ悪い気はしなかった。
「うんっ、そう思うようにするっ」
リエルはウィルに飛びつく。
「おっと……じゃあ戻ろうか」
ウィルはリエルを受け止めると、背中が軽く壁に当たる。
「大丈夫ですか」
エナが心配になってウィルたちの様子を見に来るも、ウィルが壁を背負ってリエルと抱き合っているように見えて怪訝な顔をする。
「な、なにやってんですか、人の家で!」
「違っ! これは決して、やましいことをしているわけでは」
狼狽えるウィル。リエルの両肩に触れて距離を空ける。
「子供たぶらかして楽しいですか?」
リエルは「子供じゃないもん」とエナに抗議したあと尋ねる。
「エナちゃんもリエルと同じことしたいの?」
「しませんよ」
「ふーん、させないけどねっ」
リエルはなぜかカッコつける。その場で片足を軸にクルッと半回転しながら、エナに歩を進め、片手を壁に当てて立ちふさがる。
「な、なんか腹立つ言い方」
エナは見上げてくるリエルを見つめ返したあと、ウィルを見てニヤリと笑う。
ウィルは嫌な予感がした。
「お母さーーーん! お父さーーん! お兄さんがリエルに変なことしてる!」
「ああああああ馬鹿やめろ‼‼‼」
食卓へと戻るエナを追いかけるウィルだった。