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ウィルの学院譚〜魔法が失われた世界で精霊と共に〜  作者: ネイン


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第八四話 ユーラ家にて①

――二日後、ウィルはリエルとともにテレン・ユーラの家に招待されていた。なんでも晩御飯をご馳走してくれるそうだ。


 テレンが経営している雑貨喫茶周辺は戦闘によって被害が生じているので修繕する必要があった。そのため、ルーデリカ家が修繕をお抱えの業者に依頼し、雑貨喫茶周辺を含む森林地区の中心地は立ち入り禁止となっている。テレンと娘のエナも戦闘があったことは知らず、森林地区で火災が起きたというニュースを鵜呑(うの)みにしていた。


 ただ、夫であるラルドだけは本当のことをウィルから伝えられていた。元フィユドレー家の自警団であり、ウィルとリエルの素性も知っているので伝えても問題ないとウィルが判断した。


  現在、ウィルはユーラ家の書斎室におり、元フィユドレー家の自警団であるラルドと話をしていた。


「そうだったのですが……火災にしては被害状況がおかしいなとは思いましたが。ウィル様には感謝の気持ちを言葉では言い尽くせません。妻のお店を守って下さりありがとうございます!」


 ラルドは深く頭を下げていた。


「頭を上げてください。戦時中、行き場のない僕を保護してくれたことの恩返しを少しでもできたと思っていますので、ラルドさんは気負う必要はないですよ」

「いいえそれでも感謝します!」

 

 ゴンッ!


 ラルドは正座をし勢いよく額を床にぶつける。


「ら、ラルドさん! 恥ずかしいので止めてください」


 ウィルは焦って、ラルドの肩に触れて頭を上げるよう促す。


「そうはいきません! このラルド、主君の手を(わずら)わせるなど一生の不覚!」


 床にめり込もうとする勢いで額を擦りつけていた。


(なにやってんだこの人は……)


 ウィルは説得を諦めて、無言で部屋を出た。

 そして、ラルドは夕飯の時間になるまで床を額に擦りつけていた――


「お兄さん、料理運ぶの手伝ってー」


 エナはウィルを台所に呼び付け、食卓に料理が載った皿を運ぶよう促す。


「分かった……いや、豪華すぎない⁉」


 ウィルは台所にある料理――スペアリブ、ローストチキン、ホットパイ、ポタージュスープ等、お祝い事でもあるかのうよなラインナップに驚嘆していた。


「たくさん貰ったのよこれを」


 台所で娘と共に料理をしていたテレンは親指と人差し指で輪を作って嬉しそうにする。暗にお金を貰ったことを示していた。


「え……誰からですか」

「ルーデリカ家よ! 森林地区を直してるあいだお店で働けないでしょ、お詫びとして大金ガッポガッポ♪ 貰ったわ~~! それにしてもなんでルーデリカ家がお金をくれたのかしら」


 上機嫌なテレンは皿を運びながらウィルの問いに答えたつつも()に落ちない点があった。


「どうせ、火災を起こした原因がルーデリカにあるんでしょ」

「さぁ……どうだろうね。本当のことは分からないけど可能性としてはありえるよ」


 エナの推理にウィルは目線を宙に漂わせながら誤魔化す。

 そのあと、三人は皿を運び続ける。


 ウィルとリエルはユーラ家の人々と共に食卓に着く。ちなみにラルドを呼び付けに行ったエナは、未だに額を床に擦りつけていた父親を見てドン引きしていた。


「さてウィルちゃんもリエルちゃんも遠慮せずに食べてね」

「ありがとうござます」

「うん……」


 テレンの一言に感謝するウィルと声に覇気がないリエル。


「リエル元気ないじゃん」


 エナはリエルに声をかける。


「そんなことないもん、エナちゃんを一撃で倒せるぐらい元気だもん」

「怖いこと言わないでよ」


 拳を向けてきたリエルに、エナはひるみそうだった。


 ウィルにはリエルがいつもよりテンションが低い理由がなんとなく分かっていた。


(森林地区の被害はフラウロスが燃やした木々が二割といったところで八割はリエルによるものだから、罪悪感があるのかもしれない……巨木周辺に至ってはリエルが僕を助けるために地面を割ってるし、僕にも責任があるから気持ちはなんとなく分かる)


 一同は夕飯を食べ始める。

 

 そして、ウィルは食事を進めながら二日前にルーデリカ家の当主ドラグーン・ルーデリカと最後に交わした()り取りについて考えていた。

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